ビットコインのサイドチェーンがもたらすメリットとアルトコインへの負の影響 |サイドチェーン(3)

ビットコインのサイドチェーンがもたらすメリットとアルトコインへの負の影響 |サイドチェーン(3)

前回はDrivechainの核となる2つの技術について解説しました。

Drivechainはハッシュレートエスクローとブラインドマージマイニングの2つの提案を使ったサイドチェーン技術です。ブロックサイズ拡大を必要とせず、ユーザーが選択的に新機能を実験できる、ほぼトラストレスな双方向ペグとしては世界初のものです。まだ設計段階であり課題は多いですが、時間が解決できるものも多く、ポテンシャルの割に注目されていない技術です。注目しておくことで相場で有利になるかもしれません。また、実現した場合にはアルトコインへの影響が大きいので、アルトコイン所有者もこの技術の動向を追った方が良いでしょう。


メリット

  • サイドチェーンのサイドチェーンという形を取れば実質的に無限個のサイドチェーンを作り、無限にスケールすることができる
  • 任意のフォークの実験がメインチェーンへの影響なしに導入可能になる
  • 任意のコンセンサスアルゴリズムの実験がメインチェーンへの影響なしに可能になる
  • マイクロペイメント、匿名化などのアルトコインで取り入れられている機能を全て移植可能になる(Drivechainを採用した全てのコインで、全てのアルトコインの機能が容易に使えるようになる)
  • 手数料に見合わなくなったダストUTXOをメインチェーンからサイドチェーンに移動可能になる(ハードフォークが必要)
  • 理論上はメインチェーンのブロックサイズをマイナー報酬の部分のみ残して最小化できる(いくらでもブロックサイズを小さくできる)
  • サイドチェーンを運営することで利益を得られる
  • サイドチェーン(低ファンジビリティ)とメインチェーン(高ファンジビリティ)のアービトラージで金利が発生する
  • これまでメインチェーンで作られてきたツールやサービスをそのまま低手数料のサイドチェーンに移植できる
  • 将来的にブロック報酬がゼロになり手数料のみで維持されるようになった環境をサイドチェーンで再現できる
  • ブロック報酬がゼロになった後でもサイドチェーンから手数料を定期的に予測可能な状態で収集できるようになり、安定性が増す
  • 特定の署名方式・ハッシュ関数に依存しない

採用の賛否

 

DrivechainのBIPによる提案は

  • ハッシュレートエスクロー ( https://github.com/bitcoin/bips/pull/642/ )
  • ブラインドマージマイニング ( https://github.com/bitcoin/bips/pull/643/ )

の2つから成るもので、それぞれgithubでディスカッションが進んでいます。

このBIPと、将来出てくるであろうDrivechainの実装のプルリクエストの経過を注視した方がいい理由を書きます。

SegWitのプルリクエスト ( https://github.com/bitcoin/bitcoin/pull/8149, https://github.com/bitcoin/bitcoin/pull/7910 ) は2016年6月24日にマージされました。
以下がその時の価格チャートです。

 - https://bitcoincharts.com/charts/bitfinexUSD#rg360zigDailyzczsg2016-05-19zeg2016-07-14ztgSzm1g10zm2g25zv

雰囲気を知らなければいまいち納得できないかもしれませんが、当時は待望されていたSegWitのコードがマージされたということで界隈は大いに盛り上がり、価格も回復基調を見せ始めます。
同様にスケーリング手法であるシュノア署名やDrivechainも提案や実装コードがマージされることで盛り上がるかもしれません。もしも投機熱が冷め、ビットコイン界隈での技術者の割合が増えて、市場がコードの価値を正しく評価できるような環境になれば、再びこのような単純な手法で相場を先読みすることができるかもしれません。
また、SegWitであったように、アルトコインで試験的に導入され、そのアルトコインの価格が上がるような現象が見られるかもしれません。

具体的な採用の賛否ですが、テストが不足していることと懐疑的な技術者が多いことからBIPはともかくコードがこのままの形で実際にマージされる可能性は低いと考えられます。
反対する理由として

  • マイナーを信頼するのであればマイナーの作るマルチシグウォレットとほとんど変わらない
  • 全ての問題に関してUASFで少数派の合意がいつでも滞りなく期待できるというのは誤りであり、それが正しいのであればそもそもPoWによる対障害耐性の高い合意など必要ない
  • マイナーは結局の所トラストレスに資金を盗める
  • 資金がロックされうる

などがあり、それぞれ批判は正当なものだからです。
ただ、危険なものを使いたくない人は使わなければ良いという選択性と、いくらでも拡張と実験が可能になるということのメリットを考えれば、オプションの機能として長期的にはできるだけ安定性を確保した上で導入されるのではないかと思います。

また、一部の開発者は引き出し条件として例えばマイナー投票+マルチシグというハイブリッド型を提案しており、折衷案としてそのような案が採用される可能性もあります。

想定される利用

 

実際にDrivechainが採用されたとして、この技術の用途と推定ユーザー数などについて考えてみます。

まず、スケーリング手法として見た場合、非常にブロックサイズが大きく承認速度も早いようなサイドチェーンを作ることで、決済需要をそのようなビッグブロックチェーンで処理することができるようになる可能性があります。サイドチェーンではライトニングネットワークのようなチャネル管理が不要で、送金に必要なものも秘密鍵だけです。したがって、ユーザー体験はかなり向上すると考えられます。
また、新技術の実験場として考えた場合、匿名化・プライバシー技術を持ったサイドチェーンを作ることで、ビットコインに他のプライバシー系コインと同様の機能を部分的にもたせることができるようになります。

逆に言えば、スケーリングやプライバシーに特化しているアルトコインはDrivechainの登場によって大きく価値が毀損される可能性が高いため、そのようなコインを持っている人にとってDrivechainの技術は注視に値するものだと考えられます。この話題は続編で重点的に解説します。

一方、サイドチェーン自体が信頼できない場合、サイドチェーンのコインでは代替可能性(ファンジビリティ)が減り、価値が毀損される可能性があります。上で書いたバーンコインの例と同じように、サイドチェーンのコインがビットコインに変換できないリスクが常に存在するからです。このことを考えると、ライトニングネットワーク同様、最初は信頼性をテストする目的以外で使われることは考えにくいです。ハッシュレートエスクロー(一単位6ヶ月)が長期間に渡って十分機能するということが証明されて初めて、一般ユーザーの利用も広がるでしょう。

また、そもそもビットコインの対法定通貨でのボラティリティを修正することができるわけではないため、初期のユーザ数は多くても全アルトコインのユーザ数程度と言えそうです。普段から暗号通貨を決済に使っていないユーザがDrivechainをきっかけにビットコインを使うようになることは、採用後すぐに起きることはないと考えられます。

(続く)

過去記事リスト

暗号通貨ユーザーのためのネットワーク・セキュリティ(1)
https://spotlight.soy/detail?article_id=bj8t69tml

暗号通貨ユーザーのためのネットワーク・セキュリティ(2)
https://spotlight.soy/detail?article_id=xwada9rw4

暗号通貨のプレマインについてもう一度考えてみる (1)
https://spotlight.soy/detail?article_id=f18pngmal

暗号通貨のプレマインについてもう一度考えてみる (2)
https://spotlight.soy/detail?article_id=w19kfuoxb

サイドチェーン完全に理解した(1)
https://spotlight.soy/detail?article_id=fuhmf3v4a

サイドチェーン完全に理解した(2)
https://spotlight.soy/detail?article_id=09td38ogu

ビットコインのサイドチェーンがもたらすメリットとアルトコインへの負の影響 | サイドチェーン完全に理解した(3)
https://spotlight.soy/detail?article_id=xenqycujl

サイドチェーンの問題点を考える | サイドチェーン完全に理解した(4)

https://spotlight.soy/detail?article_id=1lkzboesj

サイドチェーンはこうやって使う | サイドチェーン完全に理解した(5)
https://spotlight.soy/detail?article_id=693eud9j7

ビットコインのサイドチェーンがもたらす不都合な未来 | サイドチェーン完全に理解した(6)
https://spotlight.soy/detail?article_id=cj4sgrxim

Ethereumをもう一度ちゃんと批判する
https://spotlight.soy/detail?article_id=evrs1yn3d

詐欺とは何であるか

https://spotlight.soy/detail?article_id=7rwt4fj9s

[翻訳] レジスタンスの公理

https://spotlight.soy/detail?article_id=8vknao9mr

 

写真: https://en.wikipedia.org/wiki/File:Kette_Kettenkurve_Catenary_2008_PD.JPG

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