ビットコインのサイドチェーンがもたらす不都合な未来 | サイドチェーン完全に理解した(6)
Drivechainの周辺には新しいビジネスの機会、アービトラージの機会が発生すると考えられますが、同時に多くの詐欺もそれに伴って発生すると予想されます。何が詐欺にあたるのか、なぜある仕組みが実現できないのかを理解すれば新しいプロジェクトも批判的に検討できるはずです。経済領域は多くの不確定要素があるので詐欺師が入り込みやすいということには十分注意する必要があるでしょう。
Drivechainとアルトコインの将来予想
Drivechainの出現によって、決済スピードや大きなブロックサイズ、匿名性などを売りにしているコインは少なからず影響を受けることでしょう。昔から「それはビットコインでできるのでは」という疑問が多くのアルトコインに投げかけられてきましたが、Drivechainによってさらにその疑問に答えられるコインは少なくなっていくはずです。
アルトコインのサイドチェーンへの移行
機能面ではなく文化圏として存立しているタイプのコインは名前とブランドだけ同一であれば徐々に別のプラットフォームに移行することが可能であると考えられます。例えば、突然コインの利用者全員が、発行枚数が同一である全く別のタイプのプラットフォーム(例えば別のコインのフォーク)に移行し、さらに承認アルゴリズムと発行枚数が同一であるならば、その価値が大きく毀損しないように移行することは可能ではないでしょうか。
以下ではコインXを利用した具体的な手順を考えてみます
- コインXの新規発行を前倒しで停止させ、送金手数料のみによるブロック生成に切り替える(ハードフォーク)
- コインXに「送金時に一定量のコインXを手数料とは別にバーンする」というルールを追加する(ソフトフォーク)
- 以上のようにハードフォークしたコインXのチェーンをビットコインのサイドチェーンとして扱う。このサイドチェーンはBMMなしのハッシュレートエスクローを採用する
- 従来のコインXをコインX1と呼び、新しくビットコインからペグインされるコインをコインX2と呼ぶ
- コインX1,2の両方共送金時にはコインX1のバーンを必要とする
- コインXのサイドチェーンの中では実質的にチェーンの決定に使われる、これまで発行されたコインであるコインX1は減少し続け、コインX2への置換が進む
- 最終的にコインXのチェーンに残るコインX2はビットコインと同一のコインになる
- コインX1が十分に減少し、コインX2が支配的になったタイミングでBMMを採用し、名前だけコインXのままサイドチェーンとして機能させる
この方法であればコインXの独自機能やスマートコントラクト言語、文化圏を毀損せずに中身をビットコインに置換していくことが可能だと思われます。
長期的に貨幣価値を保ったまま存続させるためには、Drivechainを実装したビットコインではできない何らかの独自性を獲得するか、完全にビットコインの一部として協力していくかという選択を迫られることになるので、上のような手法を含めてアルトコインの開発者は戦略を検討することが必要になると思います。
なおこの過程でコインX1の総量は減少しますが、価格がどう動くかは不明です。送金時にバーンが必要なので需要は確実に存在しますが利便性が下がるので需要が下がります。しかし強引にビットコインに組み込む動機で需要を作り出すスキームが上手く機能すれば誰も使わなくなる事態は避けられるのではないでしょうか。
アルトコインによる信用創造
すでに現在でもアルトコインが信用創造だという意見がありますが、Drivechainをはじめとするサイドチェーンではこれがもっと露骨になります。つまり、実際には引き出せないコインを大量にサイドチェーンで発行するということです。詐欺的なスキームの想定として、「このチェーンにビットコインを預託すると2倍になって戻ってきます」というチェーンがあったとします。そして実際、預けたコインが識別不可能な大量に発行されたコインと混ぜ合わせられ、そのコインの一部が最初に預託したコインの総量以下であれば引き出せてしまい、このスキームが破綻するのに時間がかかる可能性があります。そのような状況では、あたかもコインの総量が2100万枚以上に増えているかのように錯覚するかもしれませんが、実際には倫理観を捨てれば無制限に国債を引き受けられる日銀と違ってビットコインのネットワークで2100万枚以上のコインが発行されることはないので、このようなスキームに騙されないように注意する必要があります。
このような、原理的に発行上限がある通貨システムにおける信用創造スキームは流通性の低いコインを最後に掴まされた人が損をするゲームです。一度ペグが外れて全てのコインが引き出されると、後に残った数字はビットコインのサイドチェーンの数字ではなく電子クズになります。マイナーが首謀者の出金を停止してくれるとは限らないので、このような怪しいサイドチェーンをビットコインと偽って販売したり購入したりするのは止めておいた方がいいでしょう。
(終わり)
過去記事リスト
暗号通貨ユーザーのためのネットワーク・セキュリティ(1)
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Ethereumをもう一度ちゃんと批判する
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詐欺とは何であるか
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[翻訳] レジスタンスの公理
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写真: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Snow_Chain_Honda.jpg
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