暗号通貨のプレマインについてもう一度考えてみる (2)
前編: 暗号通貨のプレマインについてもう一度考えてみる (1)
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アルトコインのプレマイン
次にEthereumを含む、アルトコインのプレマインについて考える。
ナカモトコンセンサスが発明された後の世界ではアルトコインというビットコインと似た仕組みのものを作ることでビットコインよりは弱いながらも分散型電子マネーが作れるということが明らかになった。アルトコインの存在価値が、弱いビットコインのテストネットという考えに立つならば、アルトコイン自体の価値をそのような形で一応は認めることができる。
Tone Vaysの言葉を借りれば、アルトコインは車メーカーから頼まれて車の破壊検査をする会社である。車の破壊検査をする会社に価値がないわけではないが、車の破壊検査をする会社が自身を車メーカーとしてマーケティングしているのであれば、それはその時点で詐欺である。以下のアルトコインはビットコインのテスト用としての価値を主張しており、その意味では詐欺ではないものである(あるいは、好意的に解釈してそのように主張していると見做す)。 車メーカーと車の破壊検査会社が相手にする市場が異なるように、アルトコインのプレマインについてはビットコイン(の候補)とは異なる市場力学を考えなければならない。
モネロとバイトコイン
- モネロ: プレマインなし/後発/大規模
- バイトコイン: プレマインあり/先発/小規模
モネロとバイトコインの例が、実需のあるテスト用のモデルとしては適した例である。 モネロが主張する匿名性は投機ではない実需が存在する。 したがって、実需のあるアルトコイン市場のモデルにふさわしいと考えられる。 モネロはバイトコインの後発フォークであるにも関わらず、市場の規模が大きい。 これはプレマインの存在しないモネロがより公平な条件を提示することができたためである。
zcashとzclassic
- zcash: プレマインあり/先発/大規模
- zclassic: プレマインなし/後発/小規模
オープンソースである以上、ノーコストでソースコードをコピーしてプレマインを削除することが可能である。実際にはzclassicとzcashの価格はzcashの方が高い。一方で市場にはzcashに常に売り圧力が発生しているのは確かである。この逆転現象を説明するのはzcash側の「マーケティング」による所が大きいように見える。例えば取引所に対して金を支払うことができるのはzcashだけであるし、そのほかの宣伝活動にも金を使うことができる分、上で述べたような人間の本能のバイアスを悪用してコインを買うように仕向けることができる。 zcashはモネロと違いテスト用コインとして様々な面で失敗しており、投機以外の実需が存在しないのが理由であると考えられる。全てはマーケティングによる大馬鹿理論に従った投機であり、市場の選択は働かない。zcashに実需が存在しない理由は、宣伝している機能(匿名性)の不備による。事実匿名性が重視されるダークネットマーケットで利用されるのはほとんどがモネロとビットコインである。
https://www.newsbtc.com/2018/03/17/monero-favorite-cryptocurrency-cyber-criminals-study-finds/
EthereumとEthereum Classic
- Ethereum: プレマインあり/先発/大規模
- Ethereum Classic: プレマインあり(ただし開発者以外が保有)/後発/小規模
- Rootstock: プレマインなし/後発/小規模 (参考)
EthereumやEthereum Classicには投機以外の実需が実態として存在しない。これはzcashとzclassicと同型である。 すなわち、ビットコインを使わずにEthereumを使う理由のほとんどは投機である。 あるいはEthereumが検証しづらいスマートコントラクトが失敗するという形でテストをしているが、そのテストは成功を検証するテストではなく失敗を検証するテストになってしまっているため、テストネットとしても十分に機能していない。 このような投機市場においては合理的な個人による選択の前提は機能しない。 投機市場でより多くの人間を巻き込んで利益を得るための手段として、マーケティングは有効である。 マーケティングが機能するために、その原資としてプレマインのような不公平な手法が用いられても、 その不公平さから来る損失を補えるほどに詐欺の規模を拡大することができるのであれば、プレマインは有効である。 事実ICOを前提として行われたEthereumのプレマインはそのような理由で作られたものである。 また、Ethereum Classicの売り浴びせによる市場操作は過剰なプレマインが明白にネットワークの自発的発展を阻害しうる障害点になった例としても重要である。
アルトコインマーケットにおいてある機能(例えば匿名性や拡張性)の素晴らしさを主張するコインが存在したとして、それが詐欺コインを売り込むためではなく本当に実需に基づいたものであり、投機的な要素ではなく実需が価格を形成しているのであれば、プレマインのあるバージョンとプレマインの無いバージョンの市場での評価は、常にプレマインの無いバージョンの方が高くなると考えられる。
ビットコインがプレマインを実装しているかどうかによって、他のビットコインと競合しうる候補がプレマインを実装すべきかが変わりうるのに対して、アルトコインマーケットでの実需からなる市場ではビットコインの先行者としての利益から影響を受けないため、ビットコイン本体がプレマインを実装しているかどうかに依らず、他の機能が同じであればプレマインを実装したコインが常に不利に働く。
逆にもしもプレマイン付きのアルトコインがプレマインの無いバージョンの評価を上回っているのであれば、そのコインの提供する機能は実需ではなく短期的な投機に強く結びついているとも考えられる。したがって、例えばEthereum(↔Ethereum Classic)やzcash(↔zclassic)は実需ではなく投機に結びついており、モネロ(↔バイトコイン)は比較的実需に結びついていると言える。
以上のように、Ethereumにはプレマインがありながらも市場規模が大きい理由は、投機が先行しているためである。また、開発者のプレマインのないEthereum Classicとの比較から、Ethereumの提供する機能自体が実需によって支えられたものではないことが示唆されている。
過去記事リスト
暗号通貨ユーザーのためのネットワーク・セキュリティ(1)
https://spotlight.soy/detail?article_id=bj8t69tml
暗号通貨ユーザーのためのネットワーク・セキュリティ(2)
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暗号通貨のプレマインについてもう一度考えてみる (1)
https://spotlight.soy/detail?article_id=f18pngmal
暗号通貨のプレマインについてもう一度考えてみる (2)
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サイドチェーン完全に理解した(1)
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サイドチェーン完全に理解した(2)
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[翻訳] レジスタンスの公理
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