[翻訳] KYC/AMLは誰のため?コストと効果を考える (2)

[翻訳] KYC/AMLは誰のため?コストと効果を考える (2)

(原題: Money Laundering Laws: Ineffective and Expensive, ダニエル・J・ミッチェル, 2016年, https://www.cato.org/blog/money-laundering-laws-ineffective-expensive )

このコストを相殺する社会的利益は得られるのだろうか?コストは正当化されるのだろうか?
そんなことは絶対に有り得ない。デービッドとノーバートはコストに比べて我々が得られる社会的利益は非常に小さいものだと指摘している。

(資料: 疑わしい取引と現金取引の報告件数, 2000-2014年)

BSA/AMLの当初の目的はマネーロンダリングそれ自体というよりも違法薬物売買などの犯罪を減少させることにあった。この基準に照らし合わせてみると、このルールが設計された通りに動いているという証拠は非常に少ない。実際、過去40年間でBSA/AMLのルールは継続的に拡大されてきたにも関わらず、トータルで見てBSA/AML規制の枠組みの中で社会的利益となったものを見つけるのは非常に困難である。このルールが実質的に犯罪を減少させるという明瞭な根拠は存在しないにも関わらず、BSA/AMLに関する官僚機構は20年以上前から(主にFATFを通じて)容赦なく拡大し続けている。FATFはこれらのルールが社会的利益のみをもたらしているかのように拡大しているのだが、これに対して包括的な研究が報告するところによれば「今日に至るまで、IMFなどを含む国際機関によってこのコストや社会的利益を検証しようという試みは全くなされていない」のだという。実際にはBSA/AMLはコストだけかかり犯罪を抑制する効果に乏しいのだと鋭く批判されている。...規制遵守のためのコストは金融機関にとって高すぎるため...一人の従業員を雇うだけでも20%も利益が下がるような小さな企業にとっては不公平な負担になっている。他の研究では、銀行のコンプライアンスコストの増加は銀行業界で小さな銀行が合併や淘汰されている現象の理由の一部であるともされる。...米国銀行協会(ABA)の報告書には小規模な銀行が15%もの従業員を法令遵守に関する業務に従事させているという報告もある。ABAの調査によれば、法令遵守に関する一連のコストによって銀行は提供できるサービスが減り手数料を上げることになり、消費者にとっては有害であるともされる。...BSA/AML体制は法執行の手段としては非常に効果が乏しいとされている。少なくとも、これ以上の規制の拡大に対しては疑惑を持って臨まざるをえない。現行の高コストなAML官僚機構のために民間企業が何十億ドルも消費していることを考えると、現行システムに対するデータに基づいたコストと効果を見極める分析は必須である。

(訳注: BSAとは銀行秘密法のこと)

私はこの研究者たちはお行儀が良すぎるのではないかとも思う。コストと効果を見極める分析というものはすでに存在しているのだ。法律と規制が間違っているのである。


この問題に関してもう少し我々の視点を広げてみよう。ウォール・ストリート・ジャーナルいわく( http://www.wsj.com/articles/the-unintended-consequence-of-closing-high-risk-accounts-1459589407 )、銀行がマネーロンダリングに関する嫌疑を掛けられるコストを防ぐために(リスク管理の名のもとで)顧客との関係を切らざるを得ないことがあるため、現行のアプローチでは無数の悪影響があるのだという。


...ここ数年、反テロリズムと反マネーロンダリングのルールに関する厳格なペナルティに直面した金融機関は、増加するリスクの恐怖に耐えかねて何千人もの顧客の口座を封鎖してきた。今週のウォール・ストリート・ジャーナルの調査では、そのようにして口座が閉鎖された結果としてグローバルな銀行システムから閉め出された送金会社の話が載っている。...今年の2月には50の非営利団体がアメリカ財務省に対して自分の団体がハイリスクではないということを公的に宣言するように請願している。...2015年末の世界銀行による2つの調査では、送金会社を含む金融サービスビジネスと外国の銀行の口座の閉鎖がますます増加しているのだという。

 

なんということか。このAMLプロセスによって、遵法的な商業を行う企業や人々の活動がますます困難になっている。
オバマ政権化で行われた憎むべき「チョークポイント作戦」(2013年に米国司法省が行った銀行と企業の取引への介入; https://danieljmitchell.wordpress.com/2016/04/06/operation-choke-point-bank-de-risking-and-obama-administration-coercion/ )に見られるように、政府が拡大した権力を悪用するだろうことは言うまでもない。

(続く)

 

過去記事リスト

暗号通貨ユーザーのためのネットワーク・セキュリティ(1)
https://spotlight.soy/detail?article_id=bj8t69tml

暗号通貨ユーザーのためのネットワーク・セキュリティ(2)
https://spotlight.soy/detail?article_id=xwada9rw4

暗号通貨のプレマインについてもう一度考えてみる (1)
https://spotlight.soy/detail?article_id=f18pngmal

暗号通貨のプレマインについてもう一度考えてみる (2)
https://spotlight.soy/detail?article_id=w19kfuoxb

サイドチェーン完全に理解した(1)
https://spotlight.soy/detail?article_id=fuhmf3v4a

サイドチェーン完全に理解した(2)
https://spotlight.soy/detail?article_id=09td38ogu

ビットコインのサイドチェーンがもたらすメリットとアルトコインへの負の影響 | サイドチェーン完全に理解した(3)
https://spotlight.soy/detail?article_id=xenqycujl

サイドチェーンの問題点を考える | サイドチェーン完全に理解した(4)

https://spotlight.soy/detail?article_id=1lkzboesj

サイドチェーンはこうやって使う | サイドチェーン完全に理解した(5)
https://spotlight.soy/detail?article_id=693eud9j7

ビットコインのサイドチェーンがもたらす不都合な未来 | サイドチェーン完全に理解した(6)
https://spotlight.soy/detail?article_id=cj4sgrxim

Ethereumをもう一度ちゃんと批判する
https://spotlight.soy/detail?article_id=evrs1yn3d

詐欺とは何であるか

https://spotlight.soy/detail?article_id=7rwt4fj9s

[翻訳] レジスタンスの公理

https://spotlight.soy/detail?article_id=8vknao9mr

[翻訳] インサイダー取引を擁護する

https://spotlight.soy/detail?article_id=dkg9id7z1

[翻訳] 57種類のパイライト: 取引所は今やビットコインの敵である

https://spotlight.soy/detail?article_id=tt7ger55z

[翻訳] KYC/AMLは誰のため?コストと効果を考える (1)

https://spotlight.soy/detail?article_id=8bzqsbuor

[翻訳] KYC/AMLは誰のため?コストと効果を考える (2)

https://spotlight.soy/detail?article_id=o8x9zfnbe

 

写真: https://en.wikivoyage.org/wiki/File:Bankomaty_na_dworcu_Pozna%C5%84_G%C5%82%C3%B3wny_01.JPG

This file is licensed under the Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Poland license.
 
You are free:to share – to copy, distribute and transmit the work
to remix – to adapt the work
Under the following conditions:attribution – You must give appropriate credit, provide a link to the license, and indicate if changes were made. You may do so in any reasonable manner, but not in any way that suggests the licensor endorses you or your use.
share alike – If you remix, transform, or build upon the material, you must distribute your contributions under the same or compatible license as the original.

Description: Polski: Bankomaty na dworcu Poznań Główny
English: ATMs at the Poznań Główny railway station
Date: 16 February 2014, 11:33:05
Source: Own work
Author: Adrian Grycuk

この続き : 0字 / 画像 0枚
100

会員登録 / ログインして続きを読む

参加しているキャンペーン

関連記事

記事を書いた人

SNSにシェア

このクリエイターの人気記事

Ethereumをもう一度ちゃんと批判する

1020

ビットコインのサイドチェーンがもたらすメリットとアルトコインへの負の影響 |サイドチェーン(3)

513

サイドチェーン完全に理解した(1)

502