[翻訳] インサイダー取引を擁護する
(原題: Criminalizing business,トマス・ソーウェル, 2004年)
「インサイダー取引」を調査する連邦捜査局に対して偽証した罪に問われていたマーサ・スチュアートに対する先日の有罪判決は、我々が生きている現代という時代を象徴する残念な出来事であった。大量の法律を作れば、全ての市民を犯罪者にすることが可能なのは明らかだ。
アメリカの大統領であっても偽証は当然罪に問われるべきだが、インサイダー取引に関しては別だ。
インサイダー取引に反対する主要な論点として、株取引を行う片側にだけ知識があって、他方には知識がないというのが公平でないというものがある。これを、中古車におけるレモン市場や、シロアリ被害など欠陥を隠して販売される住宅に例えられることもある。
しかし、そこには1つの決定的な差がある。株式とは、明示的にも暗黙的にも何らかの保証付きで売られているものではないのだ。株式は常に保証無しで市場が評価するままに売られている。リスクというものが株式が存在するそもそもの理由なのだ。さらに、別に誰も株式の購入を強制されてはいない。
ほとんど全てというわけではないにせよ多くのケースにおいて、株式が売られる理由というのは、売り手と買い手が未来の株式の価値について非常に異なる評価をしていることが原因になる。取引相手がどのような情報を使って価値を導き出したかについては誰も知らないにも関わらず、相手が自分と異なる評価をしているということは互いに合意しているはずである。
もしも全ての人間が他の人間と全く同じ能力で持って情報を分析できたとしたら、それは素晴らしいことである。しかし冷静に考えてみれば、現実の世界ではそのようなことが全く不可能であると分かるだろう。バカバカしいゲームから生きるか死ぬかの選択に至るまで、そのような能力の平等さというものは人類において全く存在していない。
知識格差とは数値化できない不完全性である。全ての不完全性に対処するために刑罰を制定するのであれば、罰金などで留まることはなく、そのまま全体主義の社会に突き進むことだって可能になってしまう。
政治家は人生について考えつく全ての不完全性について「解決策」を無数に思いつくだろう。しかし、総合的に見て彼ら政治家たちに権力と金を与えることは社会にとって良い結末にはなりえないだろう。
20世紀の専制の歴史は、指導者たちが民衆の問題を民衆のために解決してやると約束してきた歴史であった。そして、解決すべきだった問題よりもさらに酷い問題を引き起こすことが常であった。
権力に対して警戒を怠らないことで発生するコストは、自由の価値を成す一部にすぎない。不完全性とともに生きる在り方を肯定することが、また別の重要な自由の価値の一部である。
人類は全ての人間を同一に扱うルールを作ることができるという意味では平等になりうる。しかし、人生は未だかつて公平であった試しがない。同じ屋根の下、同じ両親から生まれた兄弟にとってさえ、環境というものは非常に大きく変わりうる。
人生における不平等さを犯罪化することは、解決策にはならない。このような古い過ちを繰り返すことで、理想主義的な夢から始まって専制的な悪夢に陥るという事態が、様々な分野で何度も何度も繰り返されてきた。インサイダー取引の例で言えば、この世界の不完全性を認めるのであれば「caveat emptor」(買い手に責任があるという原則)が望ましいと言える。
これには別の側面もある。政治的左翼は、リベラルが減刑を望む本職の犯罪者たちよりもずっと無害なはずのビジネスに対して刑罰を作るなどますますビジネスに対して敵対的になりつつある。
リベラルはストリートの犯罪と「ホワイトカラーの犯罪」を同じものにしたいらしい。しかし、マーサ・スチュアートが株を売りつけにくるという理由で夜中近所であっても怖くて外出できないなどということはありえないだろう。彼らの言説は現実を無視したものである。
ここ数十年において外交から農業に至るまで全ての分野において犯罪化が進んでいる。政治家への献金は刑事罰に巻き込まれる恐れが大きすぎて、弁護士を雇うことができる人間だけにしか許されなくなってしまった。弁護士を雇うことでそのような刑事罰を避けることができるどころか、法律が元々作られた目的すらも回避することができてしまうのである。
世の中のあらゆる良くないことにたいするあなたの反応が、「それを取り締まる法があるべきだ」だとするならば、あなたは自由というものを非常に軽く考えている。
元の記事(英語):
https://townhall.com/columnists/thomassowell/2004/04/22/criminalizing-business-n1150746
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[翻訳] インサイダー取引を擁護する
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参考:
インサイダー取引を擁護する
インサイダー取引肯定論
http://libertarian.cocolog-nifty.com/blog/2018/03/post-bfcc.html
写真: https://en.wikipedia.org/wiki/File:Handcuffed_Hands_-_to_the_front.png を編集
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