[翻訳] KYC/AMLは誰のため?コストと効果を考える (3)

[翻訳] KYC/AMLは誰のため?コストと効果を考える (3)

(原題: Money Laundering Laws: Ineffective and Expensive, ダニエル・J・ミッチェル, 2016年, https://www.cato.org/blog/money-laundering-laws-ineffective-expensive )


ウォール・ストリート・ジャーナルによる別の報告書( http://www.wsj.com/articles/losing-count-u-s-terror-rules-drive-money-underground-1459349211 )では、現行のAML体制によって法執行機関が本当に悪いことをしているかもしれない人々を監視することが難しくなっているのだと説明されている。

(図: 2015年;テロリズムに関係する取引はほんの一部でしかない)

アメリカ合衆国の銀行は、疑わしいと見られたり、ハイリスクであったり、監視が難しいとみなされる人々や機関の何千もの銀行口座を凍結してきた。例えば送金会社であったり、外国の銀行であったり、海外で活動する非営利団体などだ。顧客が悪いことをしているのではないかという恐怖から口座を閉鎖することによって、金融機関からは無実の人々だけではなくアメリカ合衆国政府が最も監視したいと思っているだろう人々も閉め出されてしまったが、政府はこれを予想していなかったようである。連邦通貨監督庁長官であるトマス・カリーは今月この潜在的な危険について認めることになった。ワシントンで開催された銀行家と規制当局の会合で「合法的に透明性をもって行われていたはずの取引が、地下へと追いやられることになったかもしれない」と発言した。...気まぐれで不規則に振る舞う顧客の中から本当に摘発すべき顧客を特定することができなければペナルティが与えられる、ということを恐れて、多くの銀行は今や少しでもリスクがあるように見える顧客は避けるようになってしまった。そして閉め出された企業は別の手法を使うことになった。例えば外貨の現金が入ったトートバッグなどを使って、グローバル銀行システムから何億ドルもの資金を逃がすのである...「マネーフロー全体が地下に潜ってしまったということは、法律が元々作られた目的である追跡のためには逆効果である」と世界銀行の送金研究部門チーフエコノミストであるディリップ・ラサは言う。「ちょっとしたパラドックスのようだ」と。政府の職員は、銀行が顧客口座を特定のカテゴリーごと凍結するなどとは考えていなかったのだと述べた。


つまり、潜在的な邪悪な顧客というのは追跡がより難しくなっているということだ。
そして、金融機関はかなりの金を無駄にしている(それは顧客にとっては高コストになるということを意味する)。

政府の職員は「リスクのある口座は避けられるのではなく、管理されなければならない」という。...ウェスタンユニオンは年間2億ドルを不審な活動が無いか監視するのに費やしている...JPモルガンは...反マネーロンダリングのために専任の社員を9000人雇用していて、ハイリスクとして見られた何千人もの顧客の口座を凍結してきた。...バンク・オブ・アメリカのコンプライアンス部門の幹部であり、元検察官のジャイクマル・ラマスワミは「自分の仕事として、悪人の選抜ではなく無実の人々を追いかけ回すということにどれだけの時間を割いているのかということに気づいて驚いた」という。藁の山の中から針を見つけるどころか、現在のシステムは「全ての藁をひっくり返す」ことを銀行に要求しているのだという。


やれやれ。

しかし、ここに名案がある。警察は昔ながらの、実際の警察業務に集中してもらうというのはどうだろうか。言い換えれば、全員に高コストを負担させるのではなく、政府は歴史上犯罪を減らすのに役立ってきたアプローチを採用すべきなのだ。例えば、厳罰化や逮捕率を上げるといった政策だ。

しかし、そんなことが起こるとは期待しないほうがいいだろう。

代わりに、政治家や政策決定者たちはマネーロンダリングの法律の負担を拡大する方法を思いついているようだ。たとえば100ドル札を禁止したり( https://danieljmitchell.wordpress.com/2010/12/14/take-your-stinking-paws-off-my-benjamins-you-damn-dirty-statist/ )、現金を完全に禁止したり( https://danieljmitchell.wordpress.com/2015/12/26/the-war-against-cash-part-i/ )するとかだ。結果として、政府は無実の人々の金の使い方をより細かく監視することができるようになるだろう。

もしもっと知りたければ、私がこのトピックについてナレーションをつとめるビデオもある。

https://www.youtube.com/watch?v=5mUdDBYeg_g

大事なことを言い忘れていたが、ヘリテージ財団の研究に戻るとしよう。アメリカ合衆国の上院によって審議されるかもしれない、非常にリスクが高く危険な国際条約( https://danieljmitchell.wordpress.com/2014/07/29/do-you-want-the-global-destruction-of-financial-privacy-to-enable-higher-tax-rates-and-bigger-government/ )に関する警告である。

 

...テロリズムや犯罪の防止が目的である場合と比べて、民間企業に課すコストや一般市民のプライバシー侵害といったものは、税金の情報共有の場面ではより抑制されなければならない。加えて、税金の情報共有というものは税金の低い地域(タックスヘイブンなど)との租税競争を抑制しようとする試みであることが多い。租税競争は有益であり、政府が不当な税金を課すことを防ぐ。...アメリカ合衆国の上院では現在「租税問題の相互監督補助に関する多国間の取り決め」というものが議論されている。これは外国の政府が税を徴収するのを助けるために、金融機関に様々な情報提供を義務付けるものである。これよりも悪い2つ目の条約は、「税務目的の多国間自動的情報交換条約」というOECDの後継条約である。この後継条約では先述の取り決めとOECDによる311ページの「金融口座自動的情報交換制度の基準」が含まれている。この取り決め、多国間条約、そしてOECD基準の3つがOECDと国際的徴税官僚たちによって推奨されている、新しい自動的な情報交換の仕組みの中核を成している。もしも米国がこの取り決めを批准して新しいOECDの基準を制定すると、アメリカ合衆国政府は社会保障番号や税に関するその他の番号を含むプライベートな個人情報や財政情報を他国に自動的に送信することになる。他国とは、アルゼンチン、中国、コロンビア、インドネシア、カザフスタン、ナイジェリア、ロシア、そしてその他70もの国である。言い換えれば、アメリカ合衆国に対して敵対的であったり、汚職が蔓延していたり、データの保護が不十分であったりするような国々も、一部のアメリカ人やアメリカに居住する外国人の口座情報や個人情報を自動的に手に入れられるということである。


本当に酷い条約である。そして、これが世界租税機関(World Tax Organization; https://danieljmitchell.wordpress.com/2011/06/01/with-the-support-of-the-obama-administration-paris-based-oecd-now-wants-de-facto-world-tax-organization-as-part-of-its-anti-tax-competition-campaign/ )といったものが設立されるきっかけになるかもしれないのだ。(訳注: 日本は既に批准している。アメリカはOECD主導の条約は批准していない...はず)


追伸: この記事を税とマネーロンダリングに関する議論で締めくくったので、付け加えておくことがある。大きな政府を支持する人々はタックスヘイブンを汚い金の温床だとして非難することがよくあるが、数年前にガバナンス研究所が出している資料( https://danieljmitchell.wordpress.com/2010/02/19/tax-havens-are-not-money-laundering-centers/ )からは28の税金の低い地域のうちたったの1つだけがそのような指摘を受けているということが分かる。

さらに追伸: マネーロンダリングに関するジョークなんて考えつくことができないと思っているなら、ここ( https://danieljmitchell.wordpress.com/2011/09/10/barack-obamas-bank-adventure/ )にオバマ大統領とマネーロンダリングに関するジョークが載っている。

さらにさらに追伸: しかしこれらの法律の結果として出現する現実世界の悪夢( https://danieljmitchell.wordpress.com/2013/10/07/some-parts-of-government-should-be-shut-down-forever/ )を想像すれば、マネーロンダリングに関する現在のシステムは笑い事ではないと気づくはずだ。

(終わり)

過去記事リスト

暗号通貨ユーザーのためのネットワーク・セキュリティ(1)
https://spotlight.soy/detail?article_id=bj8t69tml

暗号通貨ユーザーのためのネットワーク・セキュリティ(2)
https://spotlight.soy/detail?article_id=xwada9rw4

暗号通貨のプレマインについてもう一度考えてみる (1)
https://spotlight.soy/detail?article_id=f18pngmal

暗号通貨のプレマインについてもう一度考えてみる (2)
https://spotlight.soy/detail?article_id=w19kfuoxb

サイドチェーン完全に理解した(1)
https://spotlight.soy/detail?article_id=fuhmf3v4a

サイドチェーン完全に理解した(2)
https://spotlight.soy/detail?article_id=09td38ogu

ビットコインのサイドチェーンがもたらすメリットとアルトコインへの負の影響 | サイドチェーン完全に理解した(3)
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サイドチェーンの問題点を考える | サイドチェーン完全に理解した(4)

https://spotlight.soy/detail?article_id=1lkzboesj

サイドチェーンはこうやって使う | サイドチェーン完全に理解した(5)
https://spotlight.soy/detail?article_id=693eud9j7

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https://spotlight.soy/detail?article_id=evrs1yn3d

詐欺とは何であるか

https://spotlight.soy/detail?article_id=7rwt4fj9s

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[翻訳] インサイダー取引を擁護する

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[翻訳] 57種類のパイライト: 取引所は今やビットコインの敵である

https://spotlight.soy/detail?article_id=tt7ger55z

[翻訳] KYC/AMLは誰のため?コストと効果を考える (1)

https://spotlight.soy/detail?article_id=8bzqsbuor

[翻訳] KYC/AMLは誰のため?コストと効果を考える (2)

https://spotlight.soy/detail?article_id=o8x9zfnbe

[翻訳] KYC/AMLは誰のため?コストと効果を考える (3)

https://spotlight.soy/detail?article_id=ey39fckxs

 

写真: https://es.wikipedia.org/wiki/Archivo:LavanderiaBrasil.jpg

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Fecha: 18 de marzo de 2015
Fuente: http://agenciabrasil.ebc.com.br/geral/foto/2015-03/lavanderia-brasil-e-instalada-na-esplanada-dos-ministerios
Autor: Marcello Casal Jr/Agência Brasil

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