なぜ仮想通貨取引所は銀行並みのマネロン対策をしなくてもよいのか?

なぜ仮想通貨取引所は銀行並みのマネロン対策をしなくてもよいのか?

今回は、前回投稿した記事「仮想通貨送金の手数料は本当に安いのか?銀行の外国送金と徹底比較」の続編です。

前回の記事では、仮想通貨取引所の仮想通貨送金手数料と銀行の外国送金手数料を比較し、外国送金手数料がケタ違いに(それも2ケタ)高いことを紹介しました。

そして、その理由の一つがマネロン対策のコストであり、同じ価値の移転を業務として行っているにも関わらず、仮想通貨取引所は同様の対策を行っていないことを紹介しました。

今回は前回の記事の内容を踏まえ、銀行の外国送金時のマネロン対策と、なぜ手数料が高いのかを紹介する予定でした。

が、そもそもなぜ銀行がマネロン対策を講ずる一方、仮想通貨取引所はそれを行っていないのか、その理由をご理解いただいてから具体的な手法を紹介したほうが皆さんの理解が深まると思いましたので予定を変更します。

本記事をお読みいただければ、現在FATFが仮想通貨取引所に求めているトラベルルールやその影響についても理解することができるかと思います。

参考記事:仮想通貨送金の国際ルール、具体的な対策案発表へ 仮想通貨取引所など米企業が連携【FATF】(COINPOST)

それでは、本題に入っていきましょう。

銀行がマネロン対策を行う根拠

最初に記事のタイトル「仮想通貨取引所はなぜ銀行並みのマネロン対策を行わなくてもよいのか?」に対する答えを言ってしまうと、単純に「適用される法律や規制が違うから」となりますそれでは、銀行の外国送金にはどのような法律や規制が適用されるのでしょうか。

日本国内の法律としては、「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)」「外国為替及び外国貿易法(外為法)」を挙げることができます。

それ以外にも、米国の財務省外国資産管理室(Office of Foreign Asset Control, OFAC)による規制を最も重要な規制として挙げることができます。

それでは、犯収法から順に確認していきましょう。

犯収法

犯収法のなかで、外国送金に関わる部分としては、第九条「(外国所在為替取引業者との契約締結の際の確認)」第十条「(外国為替取引に係る通知義務)」が挙げられます。

まずは第九条から見ていきます。

犯罪による収益の移転防止に関する法律第九条

これだけ見てもよく分からないので、順に解説していきます。

冒頭にこの第九条が適用されるのは「特定業者(第二条第二項第一号から第十五号まで及び第三十号に掲げる特定事業者)」であることが記載されています。

そこで、第二条第二項を見ると、以下のような記載があります。

2 この法律において「特定事業者」とは、次に掲げる者をいう。
一 銀行
二 信用金庫
三 信用金庫連合会
四 労働金庫
五 労働金庫連合会
六 信用協同組合
七 信用協同組合連合会
八 農業協同組合
九 農業協同組合連合会
十 漁業協同組合
十一 漁業協同組合連合会
十二 水産加工業協同組合
十三 水産加工業協同組合連合会
十四 農林中央金庫
十五 株式会社商工組合中央金庫

・・・

三十 資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第三項に規定する資金移動業者
三十一 資金決済に関する法律第二条第八項に規定する暗号資産交換業者

対象が信金や農協を含む広義の銀行と資金移動業者であり、第三十一号の暗号資産交換業者(仮想通貨取引所)は対象外であることがわかります。

次に内容を要約すると、「取引先(コルレス先)の評価を行う」こととなります。さらに詳しい内容については、(外国送金の仕組みと仮想通貨送金の未来(1))で紹介していますので、未読の方はこちらをお読みください。

それでは第十条についても見ていきましょう。

第十条 特定事業者は、顧客と本邦から外国(政令で定める国又は地域を除く。以下この条において同じ。)へ向けた支払に係る為替取引(小切手の振出しその他の政令で定める方法によるものを除く。)を行う場合において、当該支払を他の特定事業者又は外国所在為替取引業者(当該政令で定める国又は地域に所在するものを除く。以下この条において同じ。)に委託するときは、当該顧客に係る本人特定事項その他の事項で主務省令で定めるものを通知して行わなければならない。

犯罪による収益の移転防止に関する法律第十条

こちらも対象は第九条と同様です。つまり仮想通貨取引所は対象外です。

内容はいわゆる「通知義務」と言われるもので、外国送金の際、相手銀行等に送金人情報や受取人情報を正しく通知する必要があるといった内容になります。この内容を聞いて、ピンときた方もみえるのではないでしょうか。

この通知義務は英語ではTravel Ruleと呼ばれており、現在FATFが仮想通貨取引所に求めている内容と同じです

なぜ今話題のトラベルルールが日本の犯収法にあるのでしょうか。日本がFATFに圧力をかけたのでしょうか。逆です。日本の犯収法はFATFの勧告(FATF 40 Recommendations)をもとに作られたものだからです。

また、犯収法にあたる法律は日本だけではなく世界各国にありますが、その理由はFATFが勧告を遵守するよう世界各国に求めているからです。FATFの影響力を計り知ることができますね。

さて、上記の犯収法成立の経緯を踏まえると、今後FATFのトラベルルールが正式に適用となった際には、犯収法の第十条「通知義務」の対象に仮想通貨取引所(暗号資産交換業者)が追加されるという形で仮想通貨取引所への規制が行われることが予想されます。

また、現状FATFが仮想通貨取引所に求めているのは犯収法の第十条「通知義務」にあたる部分ですが、その正確性を担保するためには相手銀行のマネロン、KYC対策が十分である必要があることから、第九条にあたる内容についてもいずれ求められることになるでしょう。

その他にもFATF勧告や犯収法にはさまざまな内容が含まれていますが、その中の取引時確認や疑わしい取引については、既に日本の仮想通貨取引所は対応済であり、これが日本の仮想通貨取引所が規制面で世界の先を行っていると言われる所以です。

取引時確認とは、口座開設の際等に氏名や住所、生年月日のほか、職業や取引目的を確認することで、犯収法の第四条から第七条が関連しています。

また、疑わしい取引については犯収法第八条に規定されています。疑わしい取引については、その報告等を取りまとめた「犯罪収益移転危険度調査書」が参考になるかと思います。

taakeさんが仮想通貨部分について、spotlightの記事を投稿されていましたので、興味のある方はご覧いただくと理解が深まると思います。

「犯罪収益移転危険度調査書 令和元年度版」①仮想通貨部分についてまとめてみた

「犯罪収益移転危険度調査書 令和元年度版」②危険度の高い取引についてまとめてみた
 

外為法

次に外為法を見ていきます。外国送金を行う際のマネロン対策として、重要なのが外為法第十七条です。

第十七条 銀行等は、その顧客の支払等が、次の各号に掲げる支払等のいずれにも該当しないこと、又は次の各号に掲げる支払等に該当すると認められる場合には当該各号に定める要件を備えていることを確認した後でなければ、当該顧客と当該支払等に係る為替取引を行つてはならない。
一 第十六条第一項から第三項までの規定により許可を受ける義務が課された支払等 当該許可を受けていること。
二 第二十一条第一項又は第二項の規定により許可を受ける義務が課された第二十条に規定する資本取引に係る支払等 当該許可を受けていること。
三 その他この法律又はこの法律に基づく命令の規定により許可若しくは承認を受け、又は届出をする義務が課された取引又は行為のうち政令で定めるものに係る支払等 当該許可若しくは承認を受け、又は当該届出後の所要の手続を完了していること。

外国為替及び外国貿易法第十七条

これだけでは、さっぱり分からなので解説していきます。

まずこの十七条が適用されるのは銀行等であり、こちらも仮想通貨取引所は含まれません。そのため、現状仮想通貨取引所は外為法十七条で規定された確認を行う必要はありません

内容については、三井住友銀行のウェブサイトに分かりやすい説明がありましたので、こちらを参考にご紹介しましょう。

三井住友銀行ウェブサイト「外国為替及び外国貿易法」における各種規制

内容を簡単にまとめると、

  1. 北朝鮮関連の送金ではない
  2. 財務省の指定する資産凍結者への送金ではない
  3. イランの核関連、大型兵器関連の送金ではない

ことを確認することが肝となります。

外為法十七条については、近々に仮想通貨取引所に同様の規制が適用されることはないかと思いますので、この程度の説明としておきます。

OFAC規制

最後にOFAC規制について見ていきましょう。そもそもOFACとはなんでしょうか。OFACとはアメリカの財務省管轄の外国資産管理局(Office of Foreign Asset Control)を意味しています。

先に紹介した犯収法や外為法は日本の法律であったため、日本の銀行が遵守する必要があることは皆さんお分かりいただけるかと思います。しかし、OFAC規制はあくまでアメリカの規制です。なぜ日本の銀行がこの規制を守る必要があるのでしょうか。

それはアメリカの通貨である米ドルが世界の基軸通貨であり、アメリカが米ドルを通して金の流れをコントロールしているからに他なりません。

世界の貿易等のお金のやり取りの大半は米ドルにて行われていますが、現在の外国送金の仕組み上、米ドルでの決済を行う際にはアメリカの銀行が関わってくることから、アメリカの銀行を規制することによって世界中の銀行等が影響を受けることになります。アメリカ外の銀行でもアメリカ国内に現地法人があるなどすれば、直接的にOFAC規制の対象となります。

仮想通貨取引所では、アメリカの法人であるCoinbaseやGemini等は当然OFAC規制を遵守する立場にあります。

それでは、OFAC規制に違反するとどうなるのでしょうか。以下をご覧ください。

  • 2013年 三菱東京UFJ銀行(当時) 2.5憶ドル
  • 2014年 スタンダードチャータード銀行 3憶ドル
  • 2015年 コメルツ銀行 14.5憶ドル
  • 2018年 ソシエテ・ジェネラル 13.4憶ドル

これらは、OFAC規制対策に不備があったとして、金融機関が当局に支払った罰金の金額です。

OFAC規制対策に不備があると、上記のように巨額の罰金を支払うことになります。経営に与えるインパクトは重大であり、こういった罰金を避けるためにも銀行はOFAC規制の遵守を徹底しています。

それでは、OFAC規制の内容はどのようなものなのでしょうか。主な内容は、「OFACの定める包括制裁国との取引の原則禁止」、「制裁対象者リスト(SDNリスト)記載の人物・団体等との取引の禁止」となります。

包括制裁対象国には、イラン、北朝鮮のほかキューバやシリアが含まれており、いわばアメリカが敵とみなす国々です。こういった国を米ドル決済網から締め出すことによって経済的な打撃を与えているのです。

また、SDNリストはOFACの定めるブラックリストであり、同リスト記載の人物・団体等への資金をブロック(凍結)することで、マネロンを防止する意図があります。

本リストについては、今年このような動きがありました。

北朝鮮ハッカー関連とされるビットコインアドレスをブラックリストに追加、米財務省(コインデスク)

SDNリストに初めてビットコインアドレスが記載されたのです。アメリカ財務省のウェブサイトからSDNリストを見にいくと、下のようにブラックリストとなったビットコインアドレスを確認できます。

今回ビットコインアドレスがSDNリストに加わったことは、今後米当局が仮想通貨を通したマネロンの対策を強化していく意思の表れでしょう。

米規制当局にとって、従来のように米ドルを通してコントロールすることができない仮想通貨による金の流れは、マネロン対策を行ううえでの大きな脅威です。仮想通貨の市場規模が大きくなるにつれ、厳しい目が向けられていくことは間違いないでしょう。

<参考記事>

三菱東京UFJ銀がNY州に和解金2.5億ドル、イラン取引などで(ロイター)

スタンダードチャータード3億ドル支払い-資金洗浄監視に不備(Bloomberg)

独コメルツ銀が14.5億ドル支払い、オリンパス問題などで米と和解(ロイター)

ソシエテ:米当局に1460億円支払いで合意、対イランなど制裁違反(Bloomberg)

 

まとめ

かなり長くなってしまったので簡単なまとめです。

  • 外国送金の際には「犯収法」と「外為法」にのっとった確認事務を行う必要がある
  • 「取引先(コルレス先)の確認」や「通知義務(トラベルルール)」、「外為法上の確認」は仮想通貨取引所が対象外となっているが、トラベルルールについては適用対象となっていく見込みである
  • 基軸通貨が米ドルであることから、アメリカのOFAC規制の遵守も非常に重要である
  • OFACのSDNリストに仮想通貨アドレスが加わったことから、今後OFACが仮想通貨に対する規制を強化していく動きにも注目

以上、みなさまの参考となれば幸いです。

 

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