セーシェルの仮想通貨ビジネスは終わるのか

セーシェルの仮想通貨ビジネスは終わるのか

久々にspotlightで記事を投稿します。twitterに細々と生息している閲覧用 @etsuranpazzと申します。

今回は㊙おまる師 @bit_weaponの以下のツイートを見て「ついにセーシェルの仮想通貨取引所の時代が終わるのか!?」と色めき立って調べた結果をシェアしたいと思います。

まあ早い話がFATFの地域体である東南部アフリカ FATF 型地域体が今年の1月に発表したフォローアップレポートを見てください、ということになりますが、レポートを読み解く上である程度の前提知識が必要となることから、そちらを共有したいと思います。

まずそもそもFATFおよびFATF型地域体とはなんぞやということですが、その点については以前投稿した記事をご参照ください。

リンクを開くのが面倒な人に簡単に説明すると

  • FATFは、国際的なマネー・ローンダリング対策基準を策定するとともに、世界各国のマネロン対策の状況を評価している
  • FATF型地域体は、FATF非加盟国のマネロン対策の状況を評価している
  • 評価では主にFATFの40の勧告の遵守状況が評価される
  • 悪い評価を受けると貿易・金融取引等に支障が出る可能性がある

といった内容となっています。

評価方法については、上記40の勧告等を一つひとつ4段階評価(Compliant, Largely Compliant, Partially Compliant, Non Compliant)しCompliantまたはLargely Comliantの割合が大きいほど良い評価とされます。下表のような感じです。

上記はレポート内の4ページに記載された2018年9月実施のセーシェルの評価です。内容を見ると、Compliantが10、Largely Compliantが10、Partially Compliantが16、Non Compliantが4となっています。この結果がどうなのかというと、意外にも悪くない評価といった印象です。例えば現在FATFのグレーリスト入りしているカンボジア、パキスタン、ミャンマー辺りと比較するとかなりよい評価です。セーシェルというとマネロン対策など全く行っていない印象でしたが、そうではないようですね。

今回のレポートは上記の評価を受けたセーシェルが法整備等を行ったうえで再評価を受けた結果となります。レポートを順に確認していくと長くなるので、仮想通貨関連のみ抜粋します。12ページをご覧ください。

3.2.2 Recommendation 15-New Technologies (originally rated NC-No Rerating)

33. The MER identified that there were no requirements in Seychelles to comply with obligations relating to ML/TF risk posed by new technologies. In June 2019, R.15 was revised to include obligations related to virtual assets (VA) and virtual asset serviceproviders (VASPs). These new requirements include: requirements on identifying,assessing and understanding ML/TF risk associated with VA activities or operationsof VASPs; requirements for VASPs to be licensed or registered; requirements forcountries to apply adequate risk-based AML/CFT supervision (including sanctions)to VASPs and that such supervision should be conducted by a competent authority;as well as requirements to apply measures related to preventive measures andinternational co-operation to VASPs.

34. Though Seychelles has enabling provisions to identify and assess ML/TF risks that arise from new technologies and products both at a country and institutional level,the laws have not yet been implemented.

35. As per section 32(4), all reporting entities, inclusive of Financial Institutions arerequired to: Prior to the launch of a new product or business practice or the use of anew or developing technology, [the reporting entity] shall identify and asses themoney laundering and terrorist financing risks that may arise in relation to thedevelopment and use of new products or business practices, or new or developingtechnologies for both new and pre-existing products, and take appropriate measuresto manage and mitigate those risks.

36. There are no measures that have been undertaken to address requirements relating to VAs and activities of VASPs.

Weighting and Conclusion

37. Whilst Seychelles has addressed issues identified in the MER 2018 against Criterion15.2 and partly addressed Criterion 15.1, there are no measures that have been undertaken to address requirements relating to VAs and activities of VASPs. In view of the importance of the remaining deficiencies, there is no rerating on R.15. 

長々と書いてありますが、太字部分を見ていただければ十分です。太字の部分を上から訳していくと、

  • セーシェルでは新しいテクノロジーに起因するマネロン・テロ資金供与リスクに関する義務を遵守する要請はなかった
  • セーシェルではマネロン・テロ資金供与リスクの特定・評価を行うための規定があるものの、法律は施行されていない
  • 仮想通貨や仮想通貨取引所の活動に関する要請に対する施策は講じられていない

ということで、簡単に言うとセーシェルは仮想通貨、VASPs仮想通貨取引所に対するマネロン対策を今も昔もやっていないということになるかと思います。

つまり当面セーシェルの仮想通貨取引所は安泰ではないかというのが記事のタイトルに対する私の結論です。ただし、この状況が永続するかというとそれは疑問です。なぜなら、FATFあるいはFSRBのフォローアップは数年かけて行われるため、セーシェルは自国のマネロン態勢を更に向上させ再評価を受ける必要があります。その過程で、仮想通貨ビジネスに厳しいスタンスが取られる可能性は十分考えられます。

特にセーシェルに登記がある取引所を利用されている方は、リスクを理解したうえでご利用されることをお勧めします。

なんだか思っていたのと違う感が満載ですが、現実はこんなものです。今後もセーシェルの動向は随時追っていきたいと思います。

最後にどうでもいいことですが、ヘッダーの画像はセーシェルではなくモルディブの写真です。

(了)

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外為業務に携わる銀行員。主に仮想通貨についてtwitterで(ごくまれに)呟きます。

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