仮想通貨Yearn/YFIのここがすごい!
DeFiプロダクトのYearn、そして仮想通貨のYFIは、世間一般には全く知られていないプロダクトだと思います。仮想通貨民の間でも「BTC価格を抜いたことで話題になった、いっぱいあるYF系トークンの一つ」というくらいのイメージしかない人が多いのではないでしょうか。
しかし、Yearnは、個人的には2014年に仮想通貨を始めて以来、久しぶりに今後が楽しみなプロジェクトです。
本記事では、Yearn/YFIのココがすごいと感じた点について、軽いノリで書きたいと思います。
<Yearnのココがすごい>
1.DeFi界の「食べログ」ですごい
いきなり「食べログ」って何?と思われるかもしれませんので、Yearnとはどんなプロダクトかを簡単に解説します。
Yearnの代表的な機能は、仮想通貨を預けるだけで、最高(と思われる)の利回りで自動的に運用してくれることです。
最初に生み出された製品が「Earn」です。これはレンディングの最適化を図るものです。ユーザーがステーブルコインをYearnに預けると、ユーザーはyTokenを受け取ります。例えば、DAIを預けると、プロトコルは同数のyDAIを発行します。預けられたDAIはプールされ、Aave、dYdX、Compoundの3つのレンディングプロトコルの中から最も良い利回り先へ自動で移動されます(なお、Earnにデポジットされた資金はCurveのypoolの流動性供給の原資ともなり、収益を最大化させます)。ユーザーが資金を引き出す場合、最初に預けたDAIに加えて、yDAIをバーンすることでレンディングで得られた利息分を受け取る、という流れです。
Earnでは、他のトークンに交換した方が利率が高くなる場合であっても、トークンの売買(swap)を行わないのが特徴です(例えばUSDTよりUSDCの方がレンディング利率が高くても、預けられたUSDTをUSDCに替えたりしない)。このため、USDTで預けた資金は、利息も含めて必ずUSDTで戻ってきます。当初は、レンディングも非常に単純だったので、こうしたやり方でワークしてきました。
しかし、2020年6月のCompoundのCOMP配布を皮切りに、DeFiを巡る状況は一変しました。YAM、CREAM、SUSHI、Buger、UNI・・・。目まぐるしく高利回りのプロダクトが量産され、レンディングや流動性供給で生み出される利息計算は非常に複雑になりました。そして、新しい製品が出るたび、ユーザーは資金移動の判断に迫られる。さらに年利は1日で大変動する。ユーザーは気が休まらない。DeFiユーザーの中でも、そろそろ疲れたな、と思っている方もいるのではないでしょうか(私です)。
Yearnは、こうした状況を改善し得るものです。それを実現する現在の主力商品が「Vaults」です。ここでは、単にレンディングにとどまらず、ファーミングや流動性供給、ステーブルコインの借入れなど、多様な手法で利益を最大化します。
ただし、これは、Earnと異なり、自動で利息を最適化してくれるものではありません。随時、通貨ごとにその都度、最適な戦略を決定していきます。戦略はコミュニティの投票で決定されますが、戦略案は誰でも提出することができます。戦略が採用された者には、そのプールが生み出した利益の約10%が報酬として支払われるので、開発者にとって良い戦略を生み出すインセンティブがあります。
(戦略を考えた者には、利益(利得の5%相当分)の10%がインセンティブとして支払われる。図の出典はこちら)
こうして、ユーザーは、自分が頭を使って考えることなく、投票によって選ばれたデキる人が作った最適な戦略で、資産の運用ができることになります。インターネットの世界で言えば、私はコンシェルジュ付きの「食べログ」とか「価格.com」に近いと思っています。Yearnは、それ自体がレンディング・流動性供給の商品では(現時点では)ないですが、各種のレンディング・流動性供給プロトコルを一覧にしてまとめ、その中から一番良いものを探し出してくれます。
飲み屋を予約するときに、直接飲み屋を検索せず、食べログ経由で調べる人は多いと思います。それと同じで、利率が高いプロダクトを直接調べるのではなく、とりあえずYearnにデポジットして専門家にお任せしよう、というイメージです。さらに、Yearnの場合は、飲み屋の決定権も自分にはありません。資産をデポジットすれば、全て勝手にやってくれることになります。
このDeFi界の食べログ的位置づけを獲得するメリットは何でしょうか。私は「1stムーバーアドバンテージが働きやすい+競争が少ない」だと考えています。
多くのDeFiプロダクトは、常に利息を最大化するためにTVL(Total Value Locked)を他から奪い合う血みどろの戦いを強いられます。Sushiなどを見ても明白なとおり、製品はコピーで簡単に生み出せるので、過当競争が起きます。パイの奪い合いなので、本質的にはゼロサムゲームに近いところがあります。
しかし、一度食べログ的な位置づけ(DeFi用語で「アグリゲーター」と言います)を獲得できれば、一つのDeFiプロダクトに影響を受けずに、高い利率を提供し続けることができます(つまりSushiが死んでもOK)。
数々のDeFiプロダクトは、利率が高ければ簡単に資金移動が起こるため、1st moverアドバンテージはほとんど働きません。しかし、アグリゲータは、使い勝手さえ良ければ(そして良い戦略が維持され続ければ)、1st moverアドバンテージが働きやすい、というメリットがあります。
また、アグリゲーター自体は、全体の調整役に過ぎないので、Sushi、CREAMといったDeFiプロトコルとは異なり、業界に1~3つくらいあれば十分です。つまり、勝者総取りを獲得するチャンスがあると考えます。(検索サービスはGoogleがあれば十分なのと同じ)
そして、(あくまで現時点では、)Yearnはアグリゲーターの1st moverとしての地位を獲得しているように見えます。少なくともTVL量では、他のアグリゲーターの追随を許していません。
2.UIが使いやすくてすごい
Yearnがいくら製品として優れていても、ユーザーインターフェース(UI)が優れていなければ、ユーザーも増えません。アグリゲーターは、自分で面倒な調査や計算をしなくても簡単に利益を得られるようにしてくれるものです。つまり、DeFiと一般人をつなぐ架け橋になり得るものです。商品が使いやすいかどうか、素人でも使えるか、というのが決定的に重要になってきます。(あとは利率が納得できるほど高いか、というのも大事ですが)
そこでYearnのUIをウェブサイトで見てみましょう。
上が、YearnのVaultsの画面です。非常に単純です。預けられる資産一覧が出てきます。例えば、上の図のようにUSDTを選択すると、年間推定利率(図では25.25%)や月間・週間利率が出てきます。あとは左の枠に預け入れたい資産額を入力して、Depositするだけです。すると、yUSDTが発行されて資産が右に移ります。引き出す時は、右のWithdrawから引き出せば、原資+利息が手に入ります。様々なDeFiプロトコルの中でも、非常に分かりやすい部類かと思います。
3.最速で革新的なプロダクトを量産していてすごい
Yearnは、Andre Conjeという一人のデベロッパーと、彼を慕うコミュニティのみで運営されていますが、その開発スピードと革新性は目を見張るものがあります。いくつも新たなアイディアが提案されていますが、ここでは、2つだけ例を取り上げます。
(1)yInsurance(別名Cover)
DeFiで密かに今後熱い分野として注目されているのが、スマートコントラクトの悪用・失敗時の損失補償です。いわゆるDeFi保険の分野ですね。Nexus Mutual が代表的です。
yInsuranceは、このNexus Mutualの保険をNFT(非代替性トークン)としてトークン化し、ユーザーが売買できるようにしたものです。Nexus Mutual自体は、サービスを使う場合にKYCが必要なほか、そもそも日本からの利用が制限されています。yInsuranceでは、NFT化という離れ業を使うことによって、KYCなしでの保険販売を可能にしました。
現在、Aave、Balancer、Compound、Curve、Opyn、UMA、Uniswapなどの保険を購入することができます。
yInsuanceの登場によって、保険がNFTトークン化され、誰でも買える身近な商品になりました。(NFTのクリエーターとコレクターを結ぶRARIでもyInsuranceが転売されたりしていますね)
(2)StableCredit
これも非常に革新的なアイディアで、私も正直、まだ完全に理解できていませんが、MakerDAO(担保付き借入れ)+Aave(レンディング)+Bancor(シングルアセットの流動性供給)を全て足したもの、と表現されています。
理論上、LINKのオラクルレートが存在する全てのトークンに関し、それを担保にStableCreditUSD(1ドルにソフトペグするトークン)を借り入れることができ、それをレンディングしたり、市場で売買することができます。
(概念図(出典はMessari)と、識者によるTwitterの解説)
自分の理解では、借り入れを行うにも関わらず、担保価値が毀損しても清算という概念がない、非常に不思議な仕組みです。9月18日現在ではまだローンチしていませんが、近日中に開始見込みであり、どのようにワークするのか、非常に注目が集まります。
この他にも、ETHをwETHにラッピングすることなく、そのままDepositして高利率を実現できるようにしたりと、YearnはDeFiの様々な分野で革新的な製品を生み出しています。下図では、あらゆるDeFi分野にYearnプロジェクトが製品を生み出していることが示されています。「DeFiの動きは速い。Yearnはそれよりも速い」のです。
<YFIのココがすごい>
お次は、仮想通貨YFIの説明です。
4.YFIはフェアローンチのお手本ですごい
YFIは、Yearnの創設者・デベロッパーであるAndre Cronjeが作ったガバナンストークン(ERC20トークン)です。Andreは、YFIを作った際「YFIは無価値。ファーミングするものであって、買ってはいけない」と強調しましたが、結果として、約1か月で初期価格の3ドルから最大4万ドルまで高騰しました。(といっても3ドルで買えた人はほぼ皆無でしょうが)
この仮想通貨の大きな特徴の一つは、プロジェクトのコアメンバーや、ベンチャーキャピタル、初期投資家への割り当てが一切行われず、Yearnのユーザーに平等にトークンが配布されたことです。
通常、ほとんどの仮想通貨プロジェクトでは、運営側が実質的に多数の仮想通貨を保有し、それを資金源としながらプロジェクトを進めていくことを考えると、非常に例外的です。これは海外では「フェア・ローンチ」と呼ばれて、新たな潮流を作りつつあります。
もちろん、初期のコミュニティメンバーは実質的には多くのYFIを保有することにはなっているとは思いますが、いわゆる「売り圧」がないというのは、他の通貨とは違う安心感があるでしょう。
5.株式のようなトークン設計がすごい
YFIは、コミュニティ内の意思決定時の投票として使われますが、それ以外に、配当としての役割も持っています。
どういうことかというと、Yearnのプロダクトが得た収益が50万ドルを超えると、超過利益分について、YFI保有者(ガバナンスプールにYFIをデポジットした者)に分配されることになっています。
なお、Yearnの収益は、ユーザーの引き出し時手数料0.5%と、ファーミング益5%(ファーミングで利益を増やす戦略を実行する場合に限る)からなります。したがって、Yearnが使われるようになればなるほど、収益の増加が見込め、YFIホルダーに配布される配当額も大きくなる、という仕組みです。
この投票権+配当の仕組みは、既存の株式に非常によく似ています。良いプロダクトであれば高配当が期待できるという意味において、実需としては理想的なトークン設計になっています。株式を保有している感じで保有できるということです。
6.発行枚数が3万枚しかなくてすごい
YFIの発行枚数はわずか3万枚で、かつ既に全てが市場に配布済です。これは、ガバナンスの投票により変更ありうべしですが(一度否決されたこともあり)、恐らく、当分変えられることはないでしょう。
仮想通貨の世界では、「発行枚数より時価総額が大事」が定説なので、発行枚数自体にはあまり意味がないという考え方もあります。他方、個人的には、3万枚という簡単にイメージできてしまう数字は、市場が強気な時は、なかなかに買いを煽ると思っています。
投機は「この通貨を今買うことのお得感」によって導かれるものであり、2017年のバブル時には、安い通貨が多く買われたのも記憶に新しいところです。
発行枚数が少ないと言われるBTC(2100万枚)の0.14%(現在のYFI価格は3倍程度)の発行枚数しかないので、1YFIでも持てば、全体の相当分を持っている感覚になります。
以上、ややDeFiの勢いも衰えつつあるように見える今日この頃ですが、Yearnのプロダクトの進展と革新性には目を見張るものがあります。今後も引き続き注視していきたいと思います。(終)
<参考:Yearn/YFIを知るためのリンク集>
・YFIのS/E(株価収益率)とDCF(企業価値算定手法の一つ)試算
(留意事項)
・YFIの将来価格を予想する能力はありませんし、プロダクトに内在するリスクがゼロであるとも断言できません。本記事はYFIへの投資及びYearnの使用を推奨するものでは一切ありません。
・プロダクトの全貌を理解するに至っていないため、内容に間違いがある可能性があります。また、一部の記述に関し、分かりやすさの観点から、あえて詳細を捨象しています。