XRPの証券性のガチ検証 前編

XRPの証券性のガチ検証 前編

0.本記事の目的

  SEC(米国証券取引委員会)は、仮想通貨が証券に該当するかの判断に資するよう、2019年にガイドラインを作成しました。本記事の目的は、恐らく世界で初めて、このガイドラインをベースにXRPの証券性の度合いを検証することです。

  証券性を検証するに当たっては、議論が発散しないよう、事前に整理すべき重要事項がいくつかあります。このため、前編ではその重要事項を中心に記述し、後編で、SECのガイドラインに照らして、約40の項目を一つずつ検証していきます。法律の専門家ではありませんので、誤りのご指摘があれば随時訂正します。

<目次・本記事で分かること>(1~4は基本事項、5~6が本題)

 1.証券認定する際の基準であるHowey testとその限界

 2.SECのガイドラインの新規性は何か

 3.XRPの証券性判断が他の仮想通貨と比べて難しいのはなぜか

 4.証券認定でRipple社が困ることは何か

 5.「いつの・どのXRP」が証券の対象となり得るのか

 6.地裁がXRPの証券性に関して下した画期的な判断とは何か

1.Howey Testとその限界

 1933年証券法では、米国で証券(Security)を販売する際は、SECに証券登録をすることが義務付けられています。証券法を遵守しない場合、企業に罰則が科されます。近年大量発生したICO(Initial Coin Offering)は、株式等の典型的な証券形態はとっていないものの、その資金調達スキームは証券と何ら変わらない点が指摘されてきました。1933年に制定された古い法律である証券法には、何が証券に該当するかが列挙されていますが、その中に仮想通貨の記載はありません。一方、証券法では「Investment Contract(投資契約)」が証券に該当する旨が明記されています。このため、仮想通貨が「投資契約」に当たるかどうかをもって、仮想通貨の証券性を判断することとされています。

 では「投資契約」とは具体的に何でしょうか。証券法にはそれ以上の詳細な定義がありません。このため、投資契約の是非は、過去の判例を参考に判断することが慣例になっています。その判断基準が、当時の裁判名を用いて「Howey test(ハウィー・テスト)」と呼ばれているものです。

 Howey testの元となった判決の原文はこちらから見られます。該当箇所を抜粋すると「The test is whether the scheme involves an investment of money in a common enterprise with profits to come solely from the efforts of others.」です。つまり、ある資金調達スキームが以下の4つの要件を全て満たした場合に、証券に該当するとしています。なお、「投資契約」というと、一見、何らかの契約書を締結するといったイメージを想起しますが、そうしたいわゆる「契約」に限らず、資金調達スキーム、取引などあらゆるタイプに適用されるものであるとされています。

<Howey testの4要件>

① 金銭投資:利益を得るために、現金又はその他の金銭的価値のあるものを支払う

➁ 共通性:複数の投資家の資金が共有され、投資家と企業が共通の利益を有する

➂ 利益期待:投資家の主要な動機が、利益を得ることである

④ 他人の努力:利益が投資家自らでなく、他者の努力で得られる

(参考)野村資本市場研究所

 さて、この4つの要件は、私見ではさらに2つのカテゴリーに分けることができます。①・➁と、➂・④です。前者が客観的な事実関係に基づいて比較的簡単に判断できる要件である一方、後者は主観的な要件を伴うため第三者に解釈の余地が委ねられます。つまり、特に後者については、一つの事実関係だけをもって容易に判断ができないケースが出てきます。特にICOのような新しい資金調達スキームだったり、仮想通貨自体にユーティリティ性がある場合であればなおさらです。これが、Howey testの限界であり、仮想通貨の証券性について、Howey testだけをもって一律判断することが困難だった主な理由と考えられます。

(なお、当たり前ですが、証券判断は各国の国内法で判断されます。このため、本記事の議論は全て米国だけを対象とするものです。日本は資金決済法において暗号資産を定義しており、その定義にXRPが当てはまる以上、日本においてXRPは証券ではありません。)

2.SECのガイドラインの付加価値

 上記のHowey testの限界を克服するため、SEC(正確に言えば、FinHubというSECの部内の検討チーム)は2019年4月に「デジタル資産の『投資契約』分析のためのフレームワーク」(原題:Framework for “Investment Contract” Analysis of Digital Assets)と題するガイドラインを公表しました。

 ガイドライン本文にも注釈がありますが、このガイドラインは、ルール、規制、SECのステートメントの類ではありません。また、SECは、このガイドラインについて受諾も拒否もしていません。このガイドラインは、これまでSECが示してきたガイダンスを補足するものと位置づけられています。つまり、このガイドラインは過去の判例やルールを書き換える新たな基準ではなく、これまでの基準をより具体化しただけのものである旨が注釈で強調されています。

 では、このガイドラインには意味がないのかというと、そうでもありません。このガイドラインには、Howey testに該当するかどうかについて、仮想通貨の実態に合わせた非常に詳細なチェックリストが設けられています。特にICOを中心とした仮想通貨が証券に当たるかを判断するに当たって、記載されたチェック項目は約40に上ります。上述のHowey testは4項目でしたが、これを掘り下げて、仮想通貨に特化した約40もの判断事項を記載しているということです。このため、Howey testだけを読んでも判断困難だった点が明確になる意味で付加価値があります。

 なお、上で述べたとおり、通常、証券性の検証に当たって判断が難しいとされていたのは、Howey testのうち主観的要素が大きい「利益期待」と「他人の努力」の2要件です。このため、本ガイドラインの大半はこの2つの要件の明確化に大きな努力が割かれているという特徴を持っています。約40の確認項目のうち多くが、この2つの要件を具体化したものになっています。

3.XRPの証券性問題を議論する難しさ

 多くのICO案件と比べ、XRPの証券性を議論するのは簡単ではありません。それは主に以下の2つの理由によります。

 ① SECが主に証券として想定するのはICOによる投資契約であるが、RippleはICOを行っていない

 ➁ Howey testの4要件のうち、多くのICOにおいて簡単に判別可能と思われる「共通性」の要件をRipple社が満たしているかについて疑義がある。

 「共通性」とは、誤解を恐れずに一言で言えば「XRPはRipple社のものかどうか」ということです。歴史を紐解けば、XRPはRipple社が設立される前から存在しています。あらゆる場において、Ripple社は、同社がXRPとは独立に存在することを主張しています。もちろん、これに対する疑義もあります。「XRPの方がRipple社より先に存在していたとしても、Ripple社がすぐにほぼ全てのXRPを取得し商用利用したのだから、設立の前後は詭弁である」「実際にはRipple社がXRPを生み出した」などです(Ripple社設立当時の一次資料に基づく疑義はこの記事に詳しい)。しかし一方で、他のICOと比較すれば分かるとおり、仮想通貨が発行企業よりも(少なくとも形式的に)先に存在していた、というケースは非常に珍しいです。したがって、SECのガイドラインで事細かに記載した「利益期待」「他人の努力」を子細に検証する以前に、Rippleの場合は争わなければならない点がある、ということです。

 SECの立場からすれば、より証券性が高そうに見える怪しいICO案件が多い中で、Howey testの最初の要件でつまづくXRPを優先的に判断するのは筋違いに見えます。SECの人的リソースも踏まえれば、私個人としては、SECが他の怪しいICO案件に先んじてXRPの証券性を判断することは、まずないと考えています。現在係争中の訴訟があるので、その結果が出れば何らかの動きをとるかもしれませんが、SEC自体が先に何かの判断を下す可能性はほぼゼロでしょう。

<コラム①:FinCenがXRPを「通貨」認定したという錯誤>

 巷でよく聞かれる「FinCen(米金融犯罪取締ネットワーク)が2015年にRipple社を取り締まり、XRPを通貨と判定したのだから、XRPは証券ではない」という主張は、私個人としては誤りであると考えています。

 FinCenがRippleに対する取締りを行ったのは、Rippleが当時、自前で仮想通貨を販売していたにも関わらず、マネー・サービス・ビジネス(MSB)の登録をしていなかったためです。これはXRPが証券か通貨か、というよりは、FinCenが定めるマネーサービスビジネスをRipple社が行っていたのに届出をせず、またマネーロンダリングの対抗措置もとっていなかったことが問題視されたものであり、取締り自体が証券性を否定する理由になっていません。

 特に仮想通貨のような新たなサービスは、従前の枠組みで捉えられないからこそ判断が難しいのであり、その結果として、現在、デジタル資産の再定義を行って3つの新分類(Crypt Commodity, Crypt Currency, Crypt Security)を創設し、それぞれの管轄をCFTC(米商品先物取引委員会), FinCen, SECに分けることを内容とする連邦法案が提出されているわけです。

 上述のFinCen=通貨説の論拠は「通貨に該当するものは証券に該当しない」という暗黙の前提を置いていますが、少なくとも現時点では、ある仮想通貨が通貨にも当たるし証券にも当たる、ということがあったとしても論理的に矛盾はないと考えられます。

4.証券認定された場合にRipple社が困ること

 ところで仮にXRPが証券認定されると、何が困るのでしょうか。具体的に考えられる点は、主に以下の4つです。

 ①Ripple社の目玉商品である国際送金が実施できなくなる恐れがある

  Ripple社の送金ビジネスモデルは、仮想通貨取引所間のXRP売買・移動により安価・瞬時の国際送金を実現するものです。取引所の流動性が送金スキームのカギとなっています。一方、証券認定された仮想通貨を取引所が扱う場合には、その取引所は、国法証券取引所又は代替取引システムとして登録することが義務付けられています。直近のSECのウェブサイトを確認する限り、Coinbaseを除いて米国の仮想通貨取引所がこれらに登録している形跡はありません。したがって、仮にXRPが証券認定された場合、現状のままでは、期待する米ドルペアの国際送金が実現できなくなる可能性があります。(注:証券法が適用されない米国外の取引所同士の場合は適用除外になり得る点や、Ripple社が売却するXRP以外のXRPについては適用除外になり得る点については留意が必要)

 ➁罰金等の金銭負担

  証券法では、民事上の罰則(Civil penalty)として法人に対しては最大50万ドルの罰金が科されます。これは、Ripple社にとって大したことはないでしょう。なお、一般的には証券登録の費用は250万ドル程度かかると言われています。これも今のRipple社の資金力を見れば、大した問題にはならないと思われます。

 ➂Ripple社が販売したXRPで得た利益を顧客に返還する必要がある

 恐らく最も面倒なのがこれでしょう。証券法上、未登録証券の販売益が罰則額を上回る場合、上回った額の責任も負うこととされています(参考)。したがって、仮にRipple社が販売したXRPが証券とみなされると、これまでRipple社がXRPを個人に販売して得た利益については、個人を特定した上で全て返還するという作業が必要になります。ICOのように募集時に個人のBTCアドレス等を特定できるならまだしも、取引所で売買したXRPを誰が買ったか、などがすぐに分かるはずもないので、返還の事務手続きは非常に煩雑になることが予想されます(真面目にやろうとすれば、対象者に提訴してもらい、その都度、和解手続きを取るような形か。)これはRipple社としては100%避けたいところでしょう。

 ④情報開示義務・名声

  このほか、証券を登録する場合には、役員報酬、財務状況、得たお金の使途等の情報を開示しなければなりません。また、仮にRipple社が違法な証券を販売していた、という情報が伝われば、その名声が大きく傷つくのは間違いありません。これまでRipple社はXRPは証券ではないと強く主張していたのですから、なおさらです。

 以上、仮にXRPが証券と認定された場合には、Ripple社にとって痛手が大きいため、Ripple社としては、社の命運をかけてでも、証券認定を避ける必要があると推察されます。

 

5.証券議論の対象とすべきXRPの範囲

 前置きが長くなりました。ここからが本題となります。

 そもそも証券議論をする際に、「いつの・どのXRP」を議論の対象とすれば良いでしょうか。

 証券法では、登録義務を免除されるいくつかの適用除外があります。例えば、「1年間に5000万ドルまでの募集」(証券法3条⒝⑵)や、「発行者,引受人またはディーラー以外の者による取引」(証券法4条⒜⑴)、「公衆に対する分売を含まない発行者による取引(いわゆる私募)」(証券法4条⒜⑵)などは適用除外とされています。(参考

 では、Ripple社が企業に直接販売したXRPは証券法の対象でしょうか?また、Ripple社は、設立当初、The World Community Gridを通じて、XRPを個人に無償配布していた時代がありました。これらは対象でしょうか?さらに、ジェドに譲渡されたXRPは?

 これらのXRPは、基本的には、違法性の問われる証券には該当しないのではないかと考えられます。証券法は、企業の詐欺的行為、無価値証券の販売、情報虚偽等を防ぐことを目的として制定された顧客保護のための法律です。これらのケースでは、保護すべき個人がいません。(特に、ジェドとか一切保護する必要ありませんよね?w)

 つまり、XRPの証券問題を議論するといっても、発行数1000億枚全てのXRPが対象になるわけではない、という点に留意が必要です。あくまでRipple社が不特定多数の個人に販売したXRPのみを議論の対象とすべきです。本件を語る場合には、いつ・どこで販売されたXRPが対象なのかを最初に特定した上で、それが特定できて初めてSECのガイドラインに当てはめて考えることができる、ということになります。

 では、そもそもRipple社は個人にXRPを販売していたのか?また、Ripple社が市場に放出していたプログラム売却などは個人に販売したXRPと言えるのか?が次の論点になります。Ripple社は過去の訴訟においても、不特定多数の個人にXRPを販売したことはないと主張してきました。

 そこで、この問題を考えるために、現在係争中の訴訟で裁判所がこうした主張をどのように判断しているのかを見る必要があります。裁判所が検討した上で判断した結果であれば、本記事でXRPの証券性を検証するに当たって、議論の土台になるからです。

6.Zakinov対リップル社訴訟が切り開いた新展開

 参考とするのは現在係争中の訴訟のうち代表的な「Zakinov 対 Ripple社訴訟」です。特に、2020年2月26日の裁判所判示を参照します。これは、Ripple社が原告の主張を棄却すべきとして申し立てた7つの意見について、管轄のカリフォルニア地方裁判所が個別に判断を下したものになります。裁判所の判示全文は、こちらで読めます。細かい結果は省略しますが、ここで、裁判所は以下の重要な判断を下しています。

 ① 2017年5月18日(※1)以降、Ripple社が仮想通貨取引所で売却したXRP(※2)は、証券に該当し得るものとして争う余地がある。

 (※1)Ripple社が取引所でXRPを不特定多数を対象に売却していることを示唆した最も早い日として原告が主張した日

 (※2)Ripple社は、四半期ごとのレポートでも公表しているとおり、自社保有のXRPについて、「機関投資家販売」と「取引所での売買(流動性向上のためのプログラム売却)」による収益を上げている

 ➁ 原告が取引所で購入したXRPについて、Ripple社から直接購入したものなのか、それともRipple社以外の個人から購入したものなのかが分からなくても、当該XRPは証券に該当し得るものとして争う余地がある。

 つまり、これらの判断の意味するところは、「Ripple社がXRPの流動性を向上させるために行っていたプログラム売却のように、必ずしも収益を得ることだけを目的としていない(もっと言えば、プログラム売却はRipple社自らが行っているものでもない)セカンダリー市場の売買まで証券性の議論の対象になり得る」こと、購入者自身が、Ripple社から直接購入したXRPなのか分からなかったとしても、取引所で購入したXRPであれば証券性の議論の対象になり得る」ことを暗示しており、非常に画期的なものです。なお、私は、Ripple社がこれまで大きな収益源だったプログラム売却について、昨年以降、段階的に縮小し、現在ゼロになっているのは、こうした訴訟対応も背景の一つにあったのではないか、と想像しています。

 いずれにせよ、この裁判所の判断は明らかにRipple社にとって不利なものです。個人的には、少なくともカリフォルニア地裁の訴訟においては、最終的にXRPが一部証券認定されるか、もしくは証券認定される前にRipple社が原告と和解協議に持ち込むか、いずれかの可能性も出てきた、と推察しています。(もちろん現時点では、これらのXRPが証券と認定されたわけではありません。あくまで、これらの特徴を持つXRPは証券性の議論から除外されるものでないことを裁判所が示したものになります。)

 以上を踏まえ、本記事では、「2017年5月18日以降、Ripple社が取引所で売却していたXRP」を証券性の吟味に当たっての検討対象としたいと思います。これにより、範囲を相当限定して議論できるようになりました。2017年当時、Ripple社が取引所に放出していたXRPがどのような性質をもっていたのか、そして、XRPエコシステムの成長に伴って現在XRPはどのような姿をしているか、という点に留意しつつ、後編でその証券性を検証していきたいと思います。

<コラム②:原告は訴訟で勝っても救われない?>

 裁判所は上記に関連して非常に面白い判断もしています。それは、原告が主張する対象期間のうち、Ripple社がXRPを放出したのは市場売買全体の0.095%なので、原告代表が取引所で購入した129,000XRPのうち、本件訴訟の対象(証券)となり得るのは、その0.095%に当たる122XRP、原告のトレード期間等を踏まえると更にディスカウントされて19XRPである、と示唆した点です。

 つまり、原告代表が購入したXRPのうち、どれだけのXRPがRipple社保有分だったのかは知りようがないので、単純に市場全体の売却高に占めるRipple社の放出高で案分する解釈を採用したということです。

 私はこの裁判所の判示を読んだ時、思わず笑ってしまいました。つまり、私の理解が正しければ、原告代表は今後、自分が購入した19XRP(現在の価値で600円程度)のために裁判を戦い続けなければならないことになるので。

6.小括

 以上、本編では、Howey testの限界、SECガイドラインの利点、XRPの証券認定の困難さ、証券認定でRipple社が困ること、対象とするXRPの範囲、訴訟における裁判所の判断など、証券性の検討に当たって重要な前提事項を整理しました。本記事がRipple/XRPの証券性問題を理解する一助となれば幸いです。(後編につづく)

(おまけ)

 以下は、本編とは全く関係ないコラムです。Twitterなど公の場では絶対に書かない、XRPコミュニティに対する私のぶっちゃけトークです笑。限定公開にしているのは、私のXRP保有枚数を記載しているのと、内容が非常にブラックであるためです。通常のリップラーは読むのをオススメしませんw。

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