仮想通貨取引所を締め上げるFATFって一体なんだ?
FATFによる仮想通貨取引所への規制の動きが話題になっています。今回の記事では、FATFという組織の成り立ちやその影響力について紹介したいと思います。
FATFという名前を初めて聞いた、規制ってなんだという方は本記事をお読みいただく前に、以下のニュースをお読みいただくと概要を把握できると思います。
仮想通貨送金の国際ルール、具体的な対策案発表へ 仮想通貨取引所など米企業が連携【FATF】(CoinPost)
簡単に説明すると、仮想通貨取引所間の送金時に送金依頼人と受取人の氏名等の情報を交換することを求めているということです。
仮想通貨は通貨の種類、枚数、アドレスの情報によって送金が行われており、依頼人や受取人の情報を持たないことから、世界中の取引所が対応方法を検討しています。
それでは、突然このような無茶な要求をおこなってくるFATFとはどのような組織なのでしょうか。また、なぜその要求に従う必要があるのでしょうか。
今回の記事で紹介していきたいと思います。
FATFの概要
FATF(Financial Action Task Force、金融活動作業部会)は1989年に設立された組織で、国際的なマネー・ローンダリング対策基準(40の勧告、詳細は後述)を策定するとともに、世界各国のマネロン対策の状況を評価することが主な役割となっています。
設立当初は麻薬取引に関わるマネロン防止が主な役割でしたが、近年ではテロの防止にその役割をシフトさせています。
40の勧告
FATFが公表している40の勧告はマネロン対策の国際標準であり、世界各国はこの勧告に沿って自国の法律を制定しています。日本では「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)」等がそれにあたります。
前回投稿した記事では犯収法の「取引先(コルレス先)の評価」と「通知義務」について簡単に紹介しましたが、それらは40の勧告の「勧告13」および「勧告16」がベースとなっています。
ちなみに、この通知義務こそが冒頭で紹介した通り、今仮想通貨取引所に求められていることになります。
このようにFATFは世界各国にマネロン関係の法律を制定させる程の影響力を持っています。それではなぜ世界中の国がFATFの勧告に従うのでしょうか。
その理由がFATFの役割の一つである相互審査制度にあります。
相互審査
現在のFATF加盟国は日本を含む36カ国ですが、世界の地域ごとにFATF型地域体(Fatf-Style Regional Bodies,FSRB)という組織があり、FSRBが40の勧告を基準にFATF非加盟国の審査・評価を行っています。
そのため、世界中の国々がFATF40の勧告を基準としたマネロン対策の評価を受けていることになります。
世界各国の法制度の整備状況を確認するとともに、実際に各国の当局や金融機関からヒアリングを行い(オンサイト審査)、その国のマネロン対策状況を審査・評価します。
その結果、FATFの求める基準に達していない事項があれば、その国に対して改善を求めることになります。また、マネロン対策に重大な欠陥があると判断されればブラックリストやグレーリスト入りとなり、そうなれば国際的な信用に傷がつくだけでなく、ビジネス上の影響も受けることになります。
現在FATFのブラックリスト対象国は北朝鮮とイランの2カ国です。北朝鮮とイランについては、日本においては外為法によりその取引に規制がかかっており、アメリカにおいてはOFAC規制により取引が原則禁止とされています。こちらも前回の記事で簡単に紹介しています。
特に北朝鮮については、「そもそもマネロン対策を行う気すらない」国という評価であり、同じブラックリストでもイランの評価とは温度差があります。
また、いわゆるグレーリスト対象国は以下の通りです(2020年7月25日現在)
- アルジェリア
- バハマ
- バルバトス
- ボツワナ
- カンボジア
- ジャマイカ
- モーリシャス
- ミャンマー
- ニカラグア
- パキスタン
- パナマ
- シリア
- ウガンダ
- イエメン
- ジンバブエ
グレーリストはマネロン対策が緩い国であることを意味します。そのため、例えばこれらの国に外国送金を行う際には、通常以上にデューデリジェンスが行われることになり、送金にかかる時間が大幅に増加するなどの影響がでます。
また、コンプライアンスの面からグレーリスト内の国の企業との取引を避ける等の動きも考えられることから、ブラックリストはもちろんグレーリスト入りすることも極力避けなければなりません。
<参考>
2020年2月のブラックリスト・グレーリスト国の詳細、評価(財務省)
色付きの国がFATF加盟国(FATFウェブサイトより抜粋)
対日相互審査
それでは、FATFの日本に対する評価はどのようなものでしょうか。
こちらは第4回目の審査(第4次対日相互審査)が昨年2019年に実施され、現在その評価の公表を待っている状況です。
仮想通貨(暗号資産)交換業者が登録制になるなど、ここ2,3年で多くの規制が行われましたが、その要因の一つに第4次対日相互審査があったのではないでしょうか。
なぜ日本だけ取引所への規制が厳しいのか疑問を抱く方も多いと思いますが、その理由は巨額のハッキング被害が発生したことに加え、たまたまFATFの対日相互審査を控えていたことも大きな要因だったのだと思います。
銀行においても、特に外為取引においては第4次対日相互審査をにらみ、多くの対応が求められました。その対応の影響により事務負担が大幅に増し、手数料の引き上げに繋がったのです。
このように日本の規制当局が対策を急ぐ理由は、前回の第3次対日相互審査の結果が芳しくなかったためです。というよりも、ボロボロの評価でした。
今回は同じ轍を踏むまいとして、金融機関や仮想通貨取引所にかなり無茶を言って対応を急がせたというのが私の印象です。
仮に今回の評価が悪いものであれば、それは当局の方針が根本的に間違っていたことを意味し、メンツは丸つぶれでしょうと煽っておきます。
今後の展開
日本の仮想通貨取引所については、前述の通り登録制が採用されているほか、犯収法における取引時確認や疑わしい取引の届出等についても銀行と同様に実施されているなど、無登録の業者が跋扈する世界の状況と比較すれば格段に規制が進んでいることから、第4次対日相互審査で重大な指摘がなされる可能性は小さいと個人的には考えています。
また第4次対日相互審査という一大イベントが終わることや新型コロナウィルスの影響により、取引所に対する規制の強化は一段落するのではないでしょうか。
一方、海外に目を向けると、各国が日本と同じように順次相互審査を受けていきます。その際には日本で行われたのと同様、相互審査前に取引所への規制が強化されるでしょう。
また、既に審査を受けた日本の仮想通貨取引所への規制がひとつのベンチマークとなり、場合によっては各国に日本並みの規制が求められることになるかもしれません。
現在は規制の緩い国に拠点を置くことにより、規制を逃れる取引所も多い印象を受けますが、FATFが世界中の国々を審査している以上、どこにも逃げ場はありません。いずれFATF勧告の影響を受けることになります。
FATFの勧告に従わない取引所はこの世界から消え去る運命にあるのです。
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