アンドレアス・M・アントノプロス講演動画“次なるビットコインは何か?”全訳

アンドレアス・M・アントノプロス講演動画“次なるビットコインは何か?”全訳

世界中を飛び回ってビットコインに関する啓蒙活動を行っているエンジニアであり、名著「マスタリング・ビットコイン」」および「マスタリング・イーサリアム」の著者でもあるアンドレアス・M・アントノプロス氏の最近のプレゼン動画からKatakotoさんが皆と共有したい話題を、翻訳してお届けしております。

今回、一貫してビットコインへの“投資”を推奨してこなかったアンドレアスさんが、めずらしく「ビットコインへの投資」そのものを話題にした講演を行っており、内容も大変面白かったのでひさびさに取り上げる事にしました。

日本の一般層においては、ビットコインの話題はすでに死に絶えたと言ってもよく、巷でビットコインの話題をビットでも口にした所で「まだそんな怪しいのやってんの?」と冷たい視線を浴びせられるのが関の山です。

それでいて「ビットコイン2.0!次なる100倍銘柄はこのコインだ!」みたいな踊り文句に自分の大事な資産を、数百・数千万円単位で平気でぶち込む人々が後を絶たないこの悲しい世の中に一喝入れるべく、今回も渾身のKatakoto一番搾り翻訳でお届けします!

原題は"Why Bitcoin is 'The Next Bitcoin'"(なぜビットコインが次なるビットコインか?)ですが、ビットコイン新規参入者にも読んでもらいたいのであえてこのタイトルにしています。では、早速参りましょう!

世界中を飛びまわって、オープン・ブロックチェーンや暗号通貨の話をしていると、人々は私にしばし様々なモチベーションで、このテクノロジーに関する様々な質問をしてきます。

現在、ここギリシャでの多くの関心事はいったいどうやったら暗号通貨に投資できるかその方法に関してです。

では、ここにいる一体何人の方が、投資に関心がありますが?

(会場の人々、挙手)

よろしい。では、テクノロジーに興味がある方は?

(会場の何人か、挙手)

皆さん、嘘ついてますよね。(会場笑)

そしてしばしばこう尋ねます。

「何に投資したらいんでしょうか?」

でも私は投資アドバイスはしません。なぜって私は技術者だからです。でも今夜は、それに関する話をします。そう、今夜のテーマはズバリ

“次なるビットコイン”

に関してです。そう常々、私がされる質問、“次なるビットコインは一体何か?”です。

時折、次なるイーサリアムは一体何かとも聞かれる時があります。それがまさに今夜私が話したい事であり、分かりやすくするために、最初からネタバレとして皆さんに答えを提示する所から始めたいと思います。

あなたが投資を考えるべき次なるビットコイン・・・

それはビットコインとなるでしょう。

でもこれにはちゃんとした理由があり、それを理解しておく事はとても重要です。

たくさんの人々が、2009年以来ビットコインが成してきた何事かに投資する他の機会を探しています。

彼らはとんでもなく大成功する次なる機会を探しています。それは価格として10倍いや100倍になるかもしれないしならないかもしれない。

ならないかも知れない理由は、ビットコインは大変に稀有な状況で作られ生まれたものであるからです。それは果たしてどんな状況だったのでしょうか?

ある人はそれをビットコインの無原罪・処女懐胎と呼ぶ人もいます。

(翻訳者注:聖母マリアによるイエス・キリストの処女受胎というキリスト教における概念の事。要はそんぐらいミラクル・あり得ない状況で生まれたぐらいの解釈でいんじゃね?)

とりわけここギリシャでは冒涜になるかもしれません。まぁとりあえず、ビットコインの処女懐胎とは一体どういう意味なんでしょうか?

それを理解するにはビットコインが誕生した2009年の状況を理解しなくてはなりません。その当時もしあなたが誰かに

「ねぇ、政府がマネーを管理する代わりにインターネットがそれをやるってのはどうだろう?」と言ったとして、皆の反応は「そんなのうまくいくわけないじゃん。無理無理。うまく行きっこない。あり得ない。」みたいな感じです。

そして大変面白い“アルゴリズム”を説明したとて、ほとんどの人々にとって、“アルゴリズム”なんて聞いた途端、コンピュータ科学者でもない限りは、自動的に会話のスイッチがオフになります。

そんな所で“アルゴリズム”なんて口走った日には「こいつ今アルゴリズムって言った。このパーティーで他の話し相手探さなくちゃ!」みたいな感じになります。

それがどれだけ面白い話だと言った所で場違いなんです。

「これは分散化されたシステムで、デフレーション資産のマネタリーサプライを可能としプルーフ・オブ・ワーク・コンセンサスを通して暗号技術的に分配され、そして・・・」

そこまで話した所で「このパーティー、早く他の話し相手探さなきゃ!」です。

あなたは2009年の時点では、誰もこんなクソみたいなものが、実際に機能すると思っていない事に気づかなくてはならない。

だからこそビットコインは成功したのです。

もしあなたが、これが実際に10倍になり100倍になると信じていたとしたら、一体どうしますか?

価値が100倍になると分かっていたとしたら、どうしますか?

持ってるもの全部売り払ってでも、それを買って、そして100倍になってあなたは大金持ちだ。家に帰ってリタイアして、わかんないけど何か良さげなパーティーにでも行ける。

もし知ってたとしたら、みんなそうしてるし、みんながそうしたなら、そうはならないんです。

このテクノロジーがバブルにあるのかを見極める最も保障された方法は、高校以来会ってないような知り合いが、僕みたいなやつに電話して来てこう言いだした時です。

「よぉ、アンドレアス。俺の事、覚えてる?今ってビットコインってのの買い時かい?値段がなんだかすごい事になってるらしいじゃないか。なあ?今って買い時?」

ありえない。28年も会ってないやつがいきなり電話して来てこんな事を言いだすなんて、おそらく明らかに売るべきタイミングのサインだ。

元から興味がなかったこの手の人々を引き付けはじめたら、自分なら売った方が良さそうだと考え始める。2年前には自分の事を頭がおかしいと呼んだやつらだ。売り抜けるなら今だ。

これが市場で実際に起きる事です。もしあまりにも大勢が「この投資は間違いない!」と思ってるなら、あなたはヤヴェえやつらと取引してるって事です。でしょ?

ポーカーで30分以内に、テーブルにいる誰がバカなのか見分けられなかったら、自分がバカって事でしょ?

なので「いや、違うんだ。友人全員に言ってるけど、これは間違いないんだ。」と言ってまわって皆が信じたら、もうそれは売り抜けるタイミングなんです。

だから私が何度も何度も繰り返し人々にアドバイスしているのは

“このテクノロジーの理解に投資しなさいという事”

“このテクノロジーのスキルに投資しなさいという事”

“このテクノロジーの教育と、知識に投資しなさいという事”

なぜなら、それらの価値は週末に40%も下落したりしないからです。知識はクラッシュしたりしないからです。知識は、昨今のハッカー集団にクラックされたりもしないからです。知識は、政府からでも何の発表によってでもいいですが、禁止される事もなければ、今日あったみたいにトランプ大統領にツイートされるような事もありません。

ビットコインの事が今日、ドナルド・トランプ大統領によってツィートされましたね。彼はこう言ってました。

「ビットコインには何の価値もない。おそらく犯罪者によって使われてる。」

たぶん彼は友人かなんかにでもビットコインの事を聞いたのでしょう。

つまり結論としては、知識と教育があなたができ、その後も残る投資だという事です。もしビットコインが失敗したとしても、ビットコインから得られた知識と教育はどこへも行きません。そうでしょ?

でも、私が人々にそう話してもいつも反応はこんな感じです。

「はいはい。わかりました。でも、一体何を買ったらいいんでしょうか?」

「いや、違うんだ。自分自身を教育するべきなんだ。」

「ですよねぇ。ですよねぇ。ところで、一体何を買ったらいいんでしょうか?」

それこそが問題なんです。でしょ?だって自分が何を買うべきで、実際何を買うべきじゃないかの指針があるとして、それを他の誰かに聞かなければいけないとしたら、自分でその決断を下せるほどに十分にはそのテクノロジーを理解していない事を意味しています。

あなたには「このテクノロジーには、ユニークで他と差別化できる特徴があってマーケットにもフィットし、タイミングもバッチリで、流動性にも勢いがある。」と自信を持って言えますか?

もしそういったこと全部をちゃんと理解していてるようなら、自分でそうした決断を下すのに十分な資格がある事でしょう。まだそうした決断を自分で下す資格がないのなら、まさにそうしたものに投資すべきではないのです。でしょ?

それがはたして投資なのか?そうじゃないのか?そして “次なるビットコイン”が何であるのかという質問。

それこそが根本的な問題なのです。なぜならビットコインが達成できたような事を成し得る“次なるビットコイン”など存在しないからです。なぜって3、4年もの間、誰一人としてそれが動くと信じていなかったからであり、そうであるからこそ、ビットコインはそれを成し得たのですから。

誰かがそのテクノロジーに投資するのを見てる時、彼らの周りの誰もがそれを頭がおかしいと考えるからこそ、彼らはその投資から100倍ものリターンを得る事ができるのです。

彼らが100倍ものリターンを得られた理由は、周囲の誰もが彼らは頭がイカレてると考え、とても大きなリスクを取ったからこそです。

私が初めてビットコインを買った時の話をしましょう。
ビットコインの事はそれまで一年ほど見聞きしていました。あらゆる関連する科学論文を読み漁り、ビットコインがどうやって動くのかを理解しようとしていました。

コンピューター科学者である私にとって非常に面白く、大変な興味を持っていました。そしてまた使ってみたいと思うようになりました。

そう、使ってみたいと思ったがゆえに少量のビットコインを買う必要があったのです。

その時点で、気軽に買える金額は100ドル分位だったので2012年に、その分だけのビットコインを購入する事にしました。

そのためには、“マネーグラム”というサービスを利用するため雑貨屋に出向く必要があり、アメリカの赤い電話の前に立って担当者に電話し、送金のための代金をクレジットカードから引き落としてもらう必要がありました。

このサービスは、主に銀行口座を持たない貧しい人々の請求書の支払いに使われていました。お金を機械に入れるか、雑貨屋の店員に渡してそれがいったん承認されると送金が行われ、電気代や電話代として支払えるといった仕組みです。

銀行口座を持たない人々によって利用されるサービス。

私はそのサービスを、その時点でビットコインのための唯一の取引所であった“マウント・ゴックス”と呼ばれる日本の取引所に、100ドル送金するのに利用しました。もし“マウント・ゴックス”について知っているなら、のちに起こった大変な出来事についても知っている事でしょう。でも、その時にはそのような事は私の身には起こらず、私はこのようにしてどうにかいくらかのビットコインを買う事ができました。

私の周りの人は一人残らず、私の事を頭がおかしいと言いました。

私の頭がおかしかっただけじゃなく、お金が実際になくなってるわけですからね。でもまあ100ドルくらいなら全然大丈夫です。

そして今日、人々は同じ答えを欲しがっています。

今、一体何に投資したらいいのか、その答えを見つけ出そうとしています。

私が100ドルを機械にぶっこんだような、次なるビットコイン。ビットコインが成してきたような事をまた実現させる次なる暗号通貨。

それに対するシンプルな答えは、“そんなものは存在しません”です。

そんなものが存在しない理由は、全世界中が次なるビットコインを探していて、皆がそれを探している時に起こる事は、あなたよりもマーケットの経験が豊富にあって、そしてより多くのお金を持った人々が、興味を持ち出すという事です。

そして、彼らが“これはうまく行きそうだ!”という何かを見つけたとして、ここで言う“うまく行きそう”って一体どういう意味でしょう?

ここでの“うまく行く”は、彼らがこれがビットコインを置き換えるテクノロジーだと考えているという意味ではありません。彼らは“あなた方”が、これがビットコインを置き換えるテクノロジーだと考えるだろうと考えているのです。

彼らは“投資に関して何も知らない多くの人々”が、それを次なるビットコインだと思うと考えているわけです。

洗練されたマーケティングがなされ、ウェブサイトにはインフルエンサーや著名人、クォンタム・AI・ドローン・オートノマスといったファンシーなワードが並んでいて、次なるビットコインを探している、このマーケットの事を何も知らない人々は、これこそが次なるビットコインだと信じ込んでしまいます。

彼らがしている事は、価格が早期の頃に大金をつぎ込んで参入し、そしてその後、皆がやってくるのを待っているのです。

(そして、みんなこんな感じでやってきます。)“ちょっと100ユーロぐらい突っ込んで見るわ。まあ最悪失っても100ユーロだし。”

これが実際にマーケットで起こっている事です。そしてこうした投資の仕組みは、“パンプ&ダンプ(価格操作)と呼ばれます。

彼らがやってるのは、私たちのお金を投資させ、SNSに出向いていって、著名人・インフルエンサーを買収し、“これぞ次なるビットコインだ!絶対に投資すべきコイイインッ!”と煽り散らかせ、“ちょっと試しに100ユーロぐらい投資してみよう。もしかしたらラッキーが得られるかもしれないし、宝くじ買うよりいいだろう。”と思わせる事です。

“プロッポ(ギリシアのサッカーくじ)やるよりいいだろ。”です。ところでプロッポってまだありますか?

こうした“パンプ&ダンプ”に関して何も知らされていない多くの人々が、少額のユーロでそういったコインを買いだすや否や、彼らは計画の第2のステージに移ります。

そうダンプと呼ばれるステージです。

パンプ(価格急騰)が完了したから、次はダンプ(価格暴落)です。彼らがやるのは持っているありったけのシットコインを売り抜けて、価格をクラッシュさせる代わりに自分たちは投資への巨額のリターンを得ます。そしてもしかしたらと少額のユーロを投資していた人々は“あぁ、これじゃなかったんだな。”としょんぼりです。

“でも次のは、IoT関連だしAIにドローン、そしてクォオオオオンタムなわけだからこれこそ次なるビットコインに違いない!” あとはずーっとこれの繰り返し。

私が言いたいのは、歴史においてビットコインは誰一人としてそれがうまく行くとは期待していなかった時に始まり、初期に関わった誰一人として、それが良い投資だなどとは思っていなかったという事です。

彼らはそれを面白いテクノロジーだと思い、私がしたように、そのテクノロジーを実際に試して利用するために、いくつか手に入れて試す必要があったわけです。

いわばある意味、事故的に投資になってしまったわけです。

ところで、さっきの話みたいに雑貨屋に行って、赤い電話機を持ち上げて2ドルのビットコインを買ったなんて言ったら、私が金持ちになったと思うでしょう?

でもそうはなりませんでした。

確かに実際に起こった事ですよ。私は100ドル分のビットコインを買いました。1BTC≒2ドルだったので50BTCぐらいです。そして次の週にもう50BTCくらい買いました。

そしたらしばらくしてニヤニヤですよ。なんだかすごい事になってきた。

そして実際に起こった事はこうです。3カ月後、ビットコインは2ドルから8ドルになりました。

「やったぜ!すっげぇ!投資が4倍になった!つまり現在の200ドル分のビットコインを売れば・・・」

「やっべー!800ドルになりやがる!X BOX買えるじゃんか!」

んで、全部売り払ってX BOX買いました。

後はこれの繰り返しです。これは私だけじゃなく初期に関わっていた人全員に起こった事です。

なぜって考えるのは簡単ですよ。“私はこの投資が何千ドルもの価値になる事を即座に理解した!”って。

でも2012年の時点で価格がまだ2ドルの時に、あなたが私に“2019年には13000ドルになりますよ。”と言ったとして、“がははははは!はいはい。そうですね。つか、そんな事絶対ありえないし。”って思うのが関の山です。

同じ実験をしてみましょう。

もし私が、今後3年でビットコインが15万ドルになると言ったとしたら、何人がそう思いますか?

(聴衆挙手。わりといる。)

そうですか。非現実的です。完全にあり得ないです。もしかしたらそうなるかもしれないし、ならないかもしれない。でしょ?

で、そういったリスクを取りたいですか?

いつかの1月みたいに“今3,000ドルか。2年間もマーケットがクラッシュし続けていたから今が買い時に違いない。”

誰もがそう考え、実行に移す。戦略は表面上は極めてシンプルに思えます。

“底で買って天井で売れ”(Buy low Sell high)

でも現実では、ある意味こんな戦略に陥る羽目になるのです。

“天井で買って底で売る”(Buy high Sell low)

何でそうなるかって、皆が興奮に沸き立っている最中に慌てて買って、クラッシュしたらパニックになって、最低価格で売ってしまうからですよ。その後も同じ事の繰り返し。

何で知ってるかって?私も経験者だからです。

皆そうでしょう?実際の話、そんな経験のない人っていますか?

(会場、5人くらい挙手)

5人いますね。それは良かった。

言いたいのは、我々全員が次なるチャンスを探しているけれども、決してそれが起こらないのはその独特な状況があるがゆえです。

私はこの状況を生態学と比較して考えるのが好きです。

生態学について考えると、大いに繁栄し成功した1つの種がある時、進化がどのように働き、環境的ニッチさやエリアがどのように機能するかの理解が得られます。

充分な食料があり、捕食者がいない等などこうした環境を見つけられた種は大成功できます。そういった種は環境を支配するのです。 

例で考えてみましょう。アホなヨーロッパ人がうさぎをオーストラリアに持ち込んだ時に何が起こったか?

うさぎを食べる動物がいなかったため、そこら中がうさぎだらけになった。

「他の種をそのままにして、この種を持ち込んでみよう!うわっめっちゃ増えてるやん!」みたいな感じです。

その特別でニッチな、適応する種が他にいない環境でそんな事をしたらそうなるのは当たり前です。捕食者もいないし、食べ物はたんまりとある。やる事はひとつ。

そこら中がうさぎだらけになるまで、日がな一日ファックしまくりです。

全世代で8匹、だいたい6日毎に飛び出してきます。気が付けば、指数関数的な成長の話になっている。ビットコインとうさぎとを比べるような所は何もないんですけどね。

言いたいのは、ある種が繁栄に成功する環境があった場合、その種はその環境を独占してしまう。でも興味深いのは、その場にその種と似ているけれど、少しだけ効率的でうまくやりそうな種を持ち込んで見ると、完全にうまくいかないという点です。

なぜかと言うと、その環境はすでに独占されてしまっているから。

簡単に言えば、非常に多くの数と言うのはたとえ、新たに持ち込まれる種がもっと効率的であっても、5匹の新種に対して600万匹のうさぎがいては、その環境で広まる事はできないんです。

なので、たとえどうにかその環境でうまくいっても、同じ種の仲間に出会うのが難しい。どこに行ってもうさぎに出会い続けるばかりです。

毎回、食料を得る機会があるたびに、たくさんのうさぎたちが現れる。

ある一種の生物がめちゃくちゃ成功した環境がある場合、その種が環境を支配し、他にもフィットしうる生物全部に対してその環境を閉ざしてしまう。これが生態学的進化の考え方です。

では、ビットコインには何が起こったでしょうか。

ビットコインはとてもユニークなアプリケーションを発見しました。それは、世界中に広がり、完全に検閲されず、分散型で止められない、ボーダレスで純粋なデジタルの形をした“政府のないお金”です。

そのような環境のそのようなアプリケーションは、今の所ビットコインによって独占されています。

なので誰かがやって来て「私たちの方がいくらかビットコインよりもうまくやれます!」と言ったとします。

素晴らしい。ビットコインよりうまい事やれるんですね。でも、誰も気にも留めないんです。

なぜって、ソフトウェア開発者全員、そのビットコインよりいくらかよいビットコインには訓練されていないからです。

ビットコインをとりあえずB、他のをCと呼ぶことにしましょう。次なる繰り返し、“C"itcoin(シットコイン)です。

そんなシットコインがあったとして、「我こそが次なるビットコインだ!」みたいな感じで登場したとしても、まあそれは本当なのかもしれない。いくらかはビットコインより拡張性があって、より良いセキュリティ特性があり使いやすいのかもしれない。ビットコインとの差異も十分にある。もし一緒に同時にスタートしたのなら、ビットコインに勝てたのかもしれない。完全勝利だったかもしれない。

けれども、今、あらゆる開発者がすでにビットコインの扱い方を把握しているこの環境、“マスタリング・ビットコイン”といった本があり、ビットコイン用ソフトウェア・ライブラリも豊富、取引所での扱いもあり流動性も十分、26種類ものウォレットもあり、地元のスターバックスやちょっとましなコーヒーショップで、簡単にトレード相手が見つかったりビットコインが手に入る環境から始めるんです。

それをこんな感じで始めたとして・・・

「このシットコイン持ってる?」

「いや、持ってない。」

「でも、こっちの方がビットコインより良いんだよ!」

「いや、でも持ってないし、それに興味がある知り合いも誰もいないし。」

こんな中、新しい方はどれぐらい差別化されていないといけないでしょう?

これは本当に難しいチャレンジです。十分にビットコインから差別化され、十分にビットコインとは違っていても、この同じニッチな環境を占有するのは難しいからです。

もはやビットコインと競合する事はできません。別の何かとは競合するかもしれない。そのスペースを支配できるかもしれない。そのためには、多くの懸命な努力が必要となります。なぜって、独自のセキュリティで新しい暗号通貨を始めたいのなら、1日目から人々が攻撃を仕掛けてくる環境で、何もない所からそのセキュリティの立ち上げを始めなければならないのですから。

第1日目、誰もビットコインに攻撃なんかしてきませんでした。2日目もそう。1074日目、誰も攻撃せず。誰も聞いた事さえない。誰もうまく行くと思ってない。2500日目、誰も攻撃せず。

ビットコインは、これが実際に動くと誰かが思うに至り、攻撃してくるまで何年も掛かっている。そしてそれまでには、攻撃に対抗するための強化が十分になされていた。

今あなたが表立って「いい考えがある!ビットコインより優れてる!」なんてやった日には、いたる所からシステムに攻撃を受けて、次の日には消えてなくなってしまいます。

なぜって、ハックされ、クラッシュさせられるからです。

表立ってProof of Workをやろうとして、新しいProof of Workアルゴリズムを試したなら、全員がGPUを携えてやって来ます。なんでみんながGPUを持ってるかって?なぜって過去5年間それでEthereumや何やをマイニングしてたからです。十分なGPUを持ってて、数千のGPUでもその新しいコインに投じて、ネットワークを支配できるか試してみましょう。たぶんできるでしょうね。彼らがネットワークを支配した時点でセキュリティは終わりです。

なるほどProof of Workはうまくいかない。それならProof of Stakeを試そう。

Proof of Stakeを始めるのはもっと簡単でしょう。なぜって、攻撃するにはお金持ちじゃないといけないから。

けどなんてこった。周りはめちゃめちゃ金持ちだらけだし、全員クリプトを攻撃しようと狙ってる。Proof of Stakeでは全部のステークを誰が買っているのかを知る事になる。そうリッチなやつら。

そのリッチなやつらが初期の頃にビットコインを買っていなかった唯一の理由は、それがうまく行くとは思っていなかったからです。

でも同じことを今試したなら、全員が次なるビットコインを探していて彼らは“あなた”にそれを売りつける事ができる。クリプトの事を良く知らない人々に向けて。

私はイーサリアムがローンチされた日の事を覚えています。ヴィタリックからメールが送られてきてコメントを求められた日の事を。

あれは、2013年の12月でした。彼はこの業界の多くの人々にこのメールを送ってこう言いました。

「聞いて欲しい。新しいアイデアがあるんだ。今、開発者、投資家を探していて、皆さんにもホワイトペーパーを読んで見てほしい。」

そこで私はホワイトペーパーを読みに行って、1つの疑問を持ちました。その疑問は

「どうしてこれをビットコイン上でやらないの?なんで別の独立したチェーンのローンチに全精力を使う方向に行くわけ?」

私はSkypeでヴィタリックに電話をかけ、彼のキッチンで会話をしました。

彼は辛抱強く私に説明してくれました。すでにビットコイン上でそれを試してみたんだと。彼はすでにビットコイン上のマスターコイン・プロトコルと呼ばれるものでそのアイデアを試し、すぐに気が付いたそうです。ビットコインは、イーサリアムの目的とする事を行うには、機能があまりに特定され過ぎていると。

同じセキュリティ・モデルで行うことはできず、彼が言うには、イーサリアムには十分な一般性、相違性、重要性があり、新たなセキュリティ・チェーンを一から立ち上げる努力には、そうする価値があると述べました。別チェーンを立ち上げるのは、本当に本当に難しい事であり、 イーサリアムはそれを行うのに、ビットコインとは十分な違いがあったのです。 

それは正しかったかもしれないし、うまく行くかもしれない。まだ確かではありませんが、今の所は時に大丈夫そうに見えますし、時にはあまりうまく行ってないように見える時もあります。 

しかしながら、彼らは新しいセキュリティ・チェーンの立ち上げをどうにかやり遂げたのであり、それはイーサリアムがビットコインとは十分に違っていたからです。 

でも、今、本当にイーサリアムが大好きな人々と話すと、面白いことに彼らはまるでビットコインができる事を含め、自分たちが全てのことが可能であるかのように話します。

いや、そんな事はできないんです。

それができるのは、ビットコインから十分に差異化をはかったからこそです。つまり、全く異なった環境でプレイするからこそ、汎用的で柔軟なスマートコントラクトで色々できるんです。政府からの攻撃にも耐える事ができる世界のオープンフリーマネーアプリケーションとして、既にビットコインが占有しているスペースにおいては、それはできない事なんです。

イーサリアムは“次なるビットコイン”には、なり得ないんです。

次に起こる面白い事には、イーサリアム界隈の人達が「次なるビットコインは我々だ!」と言う一方、他の人達が「次なるイーサリアムは我々だ!」と言いだしているんです。

そして気が付けばイーサリアム界隈の人々は肩越しに「あんた誰?」「なんで俺らのアプリから始めてんの?」

それでいいんです。なぜなら彼らもまた次のイーサリアムには、なれないのだから。

まったく同じ理由です。アプリケーションのスペース、ヴァーチャルマシンベースの汎用スマートコントラクト・アプリ・プラットフォームは、今ではイーサリアムによりしっかり占有されています。

それがベストだからではありません。

なぜって最初にそこにたどり着き十分長い間、生き残ってまあどうにかこうにか、そのスペースを独占して長い事やってきたからです。

そして今や、イーサリアム用のあらゆるライブラリがあり、多くのイーサリアムアプリ開発者がおり、結果として、自分のものを他者のものと競合しようとする試みは十分な注目を得ることができません。

ですから“次なるイーサリアム”と言うのはないのです。

なぜならそのスペースは既に取られてしまっているから。

これらのテクノロジーの1つを置き換えるには、何が必要でしょうか。他の何かがビットコインやイーサリアムを置き換えるには、一体何が必要となるでしょうか?

誰かが、ほんの少し優れた解決策を発明したとしてもそうはなりません。もしくはずっと優れていたとしても、そうはなりません。

その代わり、それが起こり得るのはスペースを完全に占有していたシステムが、自ら自滅して行った場合のみです。

他の何かが“次なるビットコイン”になるためには、最初にビットコインが失敗しなければなりません。本当に、壮絶なまでの失敗です。

ちょっと小突かれたぐらいの「あぁ、また取引所がハックされて2億ドル失ってしまった」ぐらいなものでなしに。あきらかに、それだけでは十分ではありません。

「中国に禁止されてしまった。これで37回目だ。今回ばかりは本気らしい。」

こんなのでもだめ。ですよね?

トランプ大統領が、ビットコインをドラッグディーラー呼ばわりした所で、何だと言うんだ。全然十分じゃない。以前にも、ドラック・ディラー呼ばわりされた事はあります。トランプより深刻な人達にね。

FacebookやJPモルガンが「我々も暗号通貨を作るよ!」と言いだしたとしても、いやいや、作れっこない。それも十分でない。

唯一ビットコインが失敗できるのは内側からです。

失敗する原因は修復不可能、もしくは人々が修復したがらない致命的な脆弱性があった場合です。

またはコミュニティの失敗が原因となるはずです。

ビットコインの失敗は、信頼や文化の失敗が原因となり、それはこのテクノロジーの分野ではとても起こりにくい事なのです。

なぜならこのテクノロジーには、多くの参加者が様々に異なる動機、文化、言語、OS、ソフトウェア・プラットフォームを有していて、それら全部が1つの核となる基本的なアイデアの元、協力しているためです。

彼ら全員が、異なった理由で一斉に幻滅するような事は大変に起こりにくいですし、これと同じ理由で“次なるイーサリアム”を見つけたいなら、他の何かが現れるためには、まずは現在のイーサリアムが失敗しなければなりません。

ここで良いニュースと悪いニュースがあります。

もしあなたが次なるシットコインを推したいのなら、これは悪いニュースとなるでしょう。なぜなら残念ながら、それが“次なるビットコイン”や”次なるイーサリアム”にはなり得ないからです。

実際、多くのアイデアが現れています。それら成功するには早すぎるか、現在の市場から十分な差異化がなされていません。

世界最高のアイデアとチームを持っていても、まだあなたの時代ではなければ完璧に失敗に終わります。でしょ?

誰かが言うでしょう。「でも、FacebookやMySpaceやGoogleをご覧よ。」

Googleは21番目のサーチエンジンです。彼らは最初の20個が失敗するまで待っていたのです。

ここにいる何人の人がAltaVistaを使った事がありますか?

そうですか。では、何人の人がまだAltaVistaを使ってますか?

マイクロソフトが出てきて「我々は次なるGoogleになる。もっと楽しい名前だしね。その名もBing!」と言ってたのを覚えてますか。

何人の人がBingを使ってますか?新しいコンピュータでまだ他のをインストールできない状態でもない限り。

でしょ?

既に完全にスペースを占有したテクノロジーを引きずり下ろすのは、とても難しい事なのです。

さて、良いニュースですが、もしこうしたテクノロジーの1つが失敗するとしたら同時に豊かな環境も明け渡す事になります。

その土壌はシステムの大きな成功をサポートしますから、それはつまり、“次なるX”になるための候補者たちの長い列が出来ている事を意味します。

どちらが本当に悪いニュースなのでしょうか?

全ての政府や規制当局、そして大企業が、10年の証拠の後にも強くこう願い続けています。

「まだ起こっていないだけで今年こそは、今年こそはビットコインは確実に失敗する。」

「ビットコインはシャットダウンされる。」

彼らは願い続け、自分に言い聞かせています。

「心配ない。政府がこんなのを許すわけがない。」

「こんなものが成功するはずがない。」

そうして10年間違い続けた後も、彼らは対抗する少しの手がかりもないばかりに、ビットコインが自滅して失敗するという希望に未だにすがりついているのです。

さて、ここに彼らにとっての悪いニュースがあります。ビットコインが失敗した瞬間、わずかばかりに優れたソリューションを持つあらゆるライバルたち、失敗に至ったそもそもの原因を具体的に修復するアイデアが、環境にどっと溢れ出し新しい何かを立ち上げ始めるでしょう。

そしてその時彼らが本当に賢明であれば、彼らはそれをビットコインと呼ぶでしょう。

なぜならそれが成し得る最高のブランディングだからです。

ですから、ビットコインは決して死にません。

なぜなら名前を変え続けながら、スペースを占有することはできないけれど、同じスペースを占有して、同じ名前もまた占有していく事はおそらく可能であるからです。

だからこそ“次なるビットコイン”はやはり、ビットコインなのです。

 

翻訳者後記

翻訳を完了させるまでだいぶ時間を費やしてしまいましたが、どうにか最後までやり遂げる事ができました。一時、完全に翻訳作業へのモチベーションが失われておりましたが、何の気なしにアンドレアスさんのこの動画宣伝ツイートに、途中までの翻訳記事を追加してリツイートした所、何と御本人から「動画にこの日本語字幕追加してよ!」とのコメントを頂き、がぜんやる気が再着火。無事最後までやり遂げることができました。

他のクリプト特化のブログサービス内ではまったく需要も人気も感じられず、不遇の時を過ごしたアンドレアスさん動画翻訳シリーズですが、ここに来て少しずつ外部の人にも認められてきており、大変うれしいです。

字幕の方も、アンドレアスさんの公式チャンネルで無事採用して頂きました。

が!

字幕の申請は、レビュー・修正後、表示されるようになるのですが、本人的に納得のいっていない個所が何か所かあります。

①おそらくアンドレアスさんは“イーサリアム”と発言しているが、Youtubeの自動翻訳スクリプト側が“Theory”と翻訳しているため、日本語訳が“理論”となってしまっていて、意味の通らない箇所がある。

②同じ理由で“イーサリアムは次のビットコインにはなり得ない”の箇所が、“なり得るかもしれない。”に修正されている。("can"と"can't”の違い)文脈上も"can't"だと思うんだけどな・・・

③長いセリフには長めの表示期間などで読みやすさの微調整していたが、レビュー版ではあまり考慮されていない。

当然、レビューも人間がやっている事ですから、僕も含めて聞き間違い、誤訳、タイポ、大いにあり得るわけで、やはりこういったものはどんどんオープンソース・プロジェクト化して、皆の力でより良い日本語字幕に仕上げて、どんどんアンドレアスさん関連動画の翻訳を増やしていけたらな!

そんな思いから、現在、利用法学習中のGithubでプロジェクト化してみました。Githubがまだまだ不慣れな点も多く、今後ご迷惑をおかけするかもしれませんが、良かったら遊びに来てください。さて、次は何を訳そうか。

この続き : 0字 / 画像 0枚
100

会員登録 / ログインして続きを読む

関連記事

記事を書いた人

『俺が、そしてここへ来て、全てをBitcoinに捧げた奴等が望んだのは、俺たちがサトシを愛したように、サトシも俺たちを愛してほしい、それが俺たちの望む事だ!』ランボーのコスプレで₿を乱射しながら崖からダイブ!

SNSにシェア

このクリエイターの人気記事

親愛なる家族、親愛なる友人たちへ

1036

『ザ・インターネット・オブ・マネー』第1章 What is Bitcoin? 日本語訳

859

🐇21のレッスン - ビットコイン・ラビットホールに落ちて学んだコト🕳️もくじ

790