三権分立の脆弱性を修正する (Part V, 2/2):局所的な逆転、相対主義、権力分立維持
3.サイクルの方向 Reversal (逆方向の場合)
逆方向のサイクル
- (意思決定可能な)選択肢の範囲限定
- 法規制、情報制限、指導、権利制約
- 資源獲得
- (環境)搾取、観光、市場獲得、脱税、
- (国際)普遍的権利の獲得、植民
- 境界条件悪化
- (国際)国際法、国際協調ルール、経済封鎖、国際世論による行動範囲の制約
- (環境)公害、環境悪化による支出増大
正方向のサイクルについては前回検討した。今度はサイクルが逆方向の場合を検討してみよう。「政府」から「国民」への制約は法による規制や情報利用の制限を通じて行われる。それは国民の「(意思決定可能な)選択肢の範囲限定」だと言える。
「国民」から「世界」への働きかけは、国際社会にかんしては(人権など)普遍的な権利の獲得や植民地の設営、環境にかんしては観光や資源搾取としてあらわれる。これは国民による世界からの「資源獲得」だ。
「世界」から「政府」への圧力は、国際社会としては国際法などの国際間のルール制定による拘束、環境としては公害など環境変化による支出の増加などがある。世界からの圧力により、政府には「境界条件悪化」が突きつけられる。
正逆サイクルの比較
図は、正逆方向のサイクルを比較できるようにしたものだ。
3レイヤーサイクルでは、ある時間において正方向か逆方向かのどちらかの循環さえ成立していれば、権力は分立されていることになる。また、一時的に不均衡が起こったとしても、それが、自然に、あるいは制度設定により回復可能であれば、分立していると言ってよいだろう。また、上の例(たとえば「資源獲得」など)をみれば、局所的にどちらの向きが「正しい」のかはかなり相対的な問題で、重要なのは分立性が維持されていること、つまり矢印の部分的逆転による弱者の固定化が起きないことである。この点を理解しないで、局所的な矢印の向きがどちらでもいいという点にばかり固執すると、何もかもが「発言者のポジションに依存する」という態度に導かれやすいので、注意されたい。
ゆえに、分立を維持する仕組みがとても重要になるが、一時的な不均衡が永続するのを拒む仕組みは、3レイヤーサイクルに内蔵されていない。その点について考えるのが後続する本論の目標になる。
Credits:
原案:西川アサキ
草稿執筆:古谷利裕
同時編集:VECTION
作図:掬矢吉水
冒頭画像
Inlay, part of head, 100 BC–100 AD, Ptolemaic Period–Roman Period