三権分立の脆弱性を修正する (Part Ⅰ):権力分立の条件と国民の位置
1. 序
VECTIONでは、ガバナンスにおける権力分立の望ましいあり方についてのエッセイを準備中であり、そこで、現状の権力分立の問題点を検討し、新たなあり方について提案している。本稿では、そのための前走として、三権分立を検討する。
まず問題意識を簡単に示す。我々は、権力の暴走や腐敗を防ぎ、フェアな権力分立を維持するために、次の三つの前提が必要だろうと考える。
(1) 永続的・絶対的な権力者(王)を認めないこと
(2) 分立された権力のフェアな行使を監視するための、第三者機関(権力の外部)の中立性をあてにしないこと。
さらに、(2) を実現するにあたり、
(3) 権力を監視する者、を監視する者、を監視する者……、といった監視(メタレベル)の無限後退を避けること。
つまり、王様もなく、外部もなく、メタのメタもない、をすべてクリアした状態が必要だと考えている。
近代国家に多く見られる「司法・行政・立法」の三権分立は元々絶対王政の権力を分解したものなので、「王様がない」という点はクリアしているようにみえる。また、三権の相互抑制により「外部がない」「メタのメタがない」も実現できそうだ。
しかし、実はそこに隠れた「王様」のような構造があるなら、話は違ってくる。三権分立は、上の前提を満たすフェアな権力分立になっているのだろうか?
本稿ではまず、現状の三権分立を検討し、それが実は「政府」と「国民」の二層構造であることを示す。そして、それ以外に「世界」という三つめのレイヤーがあるという事実を確認する。三つのレイヤーによって形成される3レイヤーサイクルとして権力分立を考えることで、現状の三権分立のような二層構造ではうまく考えられない、「王がない」「外部がない」「メタのメタがない」をすべて満たす状態を表現可能であることを示したい。
2. 国民は三権分立の外にある
通常、三権分立は下のような図によって説明される。ここで注目して欲しいのは、三権分立においては、意外にも、国民がそもそも「三権」の外にあるという点だ。この点の重要性と含意について、次に考える。
Credits:
原案:西川アサキ
草稿執筆:古谷利裕
作図:掬矢吉水
同時編集:VECTION
カバー画像:Tripartite vase
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/325529