三権分立の脆弱性を修正する(Part III, 1/2):「世界」の入った3レイヤーサイクル
1. 三つめのレイヤーとして「世界」を導入する
「国民」と「政府」の関係は、根本に問題を抱えた二層構造(2レイヤー)に見える。しかし、視野を広げて考えてみると、国家の存立には国民と政府だけではなく、それらを取り巻く環境の存在を忘れることはできないだろう。
我々は、国家における権力構造を構成する三つめの要素、新たなレイヤーとして「世界」を導入し、考えを進める。
ここで「世界」とは、国際社会という意味での世界でもあり、自然や環境という意味での世界でもあり、つまり、国(国民+政府)以外の要素(=外部性)の総称である。国の権力構造のなかにその外である「世界」が含まれるのだ。この追加により、「世界」「国民」「政府(立法・行政・司法)」の3つのレイヤーが成立する。
「世界」を最上層としたトップダウン構造
しかしこれでは、「国民」が「政府」を制御し「世界」が「国民」を制御するという、「世界」を最上層としたトップダウン構造になり(「世界」は、「国民」が投票や世論を通じて制御できるものではないので最上位と考えられる)、「世界」が王様になってしまう。が、世界をたとえば自然災害だとして、それをただ放置するようなことは人間にはできそうにないので、このような構造もまた不自然だ。
そこで、最下層(オブジェクトレベル)である「政府」から最上層(メタレベル)である「世界」への関与を想定する形で、三者それぞれが互いに制御し合う構造を考え、以下で、その構造が現実世界に当てはまるかどうか検討する。
三者それぞれが互いに制御し合う構造
実は、これはまるで、エッシャー(あるいはペンローズ)の無限階段のような、奇妙な構造と言える。これ以降、三角形のように平面化して書かれるグラフには、全てこのような奇妙さが含まれることに留意されたい。
図:「Monument Valley」というエッシャーにインスパイアされたゲームの画面。キャラクターの道筋を追っていくといつのまにか表と裏の関係が逆転してしまう。
これらの構造は、みな、局所的には上下関係が決まるが、全体としては決めることができないようになっている。本稿では、その構造を権力分立の条件(1)(2)(3)の表現として使いたい。
ここで、3レイヤーサイクルの奇妙な構造と、それを構成するレイヤーと矢印という要素について、三権分立との違いを明確にし、イメージを平板化させないために、比喩を示したい。
Photoshopという有名な画像編集ソフトには、レイヤーとチャネルという概念がある。レイヤーは、イメージを層として重ねることで画像を構成する概念であり、チャネルは、その層を貫いて、いわば縦に作用することで画像を制御する概念だと言える。
レイヤー
http://photoshop-tutorial.org/getting-started/photoshop-basics-layers/
チャネルhttps://www.myphotoshopsite.com/tutorials/level_2/2-03.htm
本稿では、「国民」「政府」「世界」を「レイヤー」とするならば、それらを制御する「シグナルの方向」を表現する矢印は「チャネル」である、というイメージで、レイヤーと矢印を捉えている。
原案:西川アサキ
草稿執筆:古谷利裕
同時編集:VECTION
作図:掬矢吉水
画像:The World Disposing of Justice, from The Unrestrained World, plate 1 / 1550 / Dirck Volckertsz Coornhert / Netherlandish
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/631208