分散化ソクラテス:(16)「ゼロポジション」の計算=分散化ソクラテス

分散化ソクラテス:(16)「ゼロポジション」の計算=分散化ソクラテス

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レトリック検証は、本質的に分散組織でしかできない。それが前回の結論だった。また、それはこのエッセイで最初に掲げた「分散組織にしかできないことはなにか?」という問いへの答えでもある。

実はレトリック検証には副産物がある。それが、この連載で触れたソクラテスの問答法と関係を持つ。

たくさんの人やサイトにレトリック検証結果が割り当てられたとしよう。

検証結果は、たとえば、「サイトor人物→{トピック1×ポジション、トピック2×ポジション・・・}」という形をしたデータの集まりだろう。たとえば、「トランプ元大統領→{ロシア→+0.7、メキシコ→-0.4・・・}」というような感じだ。つまり、サイトや人ごとに、トピックとポジションが数多く割り当てられる。そして、そのようなデータがサイトや人の数だけある。

その時、たくさんのポジショントークが同時に埋め込まれた地図のようなものが存在することになる。それを無理やり二次元や三次元の地図として表示することもできるだろう。

だが、もっと重要なことがある。様々なポジションを持つ色々な主体たちをうまく使えば、「可能な限りポジションを持たない語り=ゼロポジションもしくは重心」に相当するものが計算可能だということだ。

素朴なイメージでは、三角形の頂点が、それぞれ様々なポジションに基づいた主体、三角形の重心が、どのポジションにも属さない主体を表す。三角形の頂点に相当するポジション(もしくは計算して作った基底になるポジション)が得られれば、「重心=ゼロポジション」がどのような立場になるか、それに近い主体は誰か、は導出できる。

もちろん、実際の計算は、二次元空間上の三角形ではなく、n次元空間上の、m角形、もしくはもっと複雑な図形を対象とする。そして「重心」の計算方法も多様でありうる。前回、指摘したように、このような計算方法の多様性はむしろ望ましい。一つの計算方法だけでは、方法自体に含まれるバイアスを排除できないからだ。

もちろん、何の意見も表明していない主体はポジションゼロだ。しかし、それは意味がない。このケースは、その主体が言及するトピックが全然ないことに相当するからだ。

だが、たくさんの意見を表明しているにも関わらず、レトリック検証によってトピックに対するポジションがニュートラルであると判定される主体、もしくはそれに近い主体もいるはずだ。

「ニュートラル」かどうかは、他のポジショントークに対する相対的な問題なので、様々なポジショントークをする主体が数多くいるほど、その中で相対的にニュートラルに近い主体、逆に極端なポジションを持つ主体がみえてくる。

ここでレトリック検証が分散化可能であることが利いていて、充分に分散化したシステムは、自然や市場と同じく、それ自体は特定のポジションに立てない。前回確認したように、それが分散組織とレトリック検証を結ぶ核だった。

だから、そうしたシステムで計算された「ニュートラル」なポジションは、「本当にニュートラル」な立場である可能性が高い。少なくとも利害関係者を多く持つ特定巨大プラットフォームが計算した数値よりは。

このように、様々なポジショントークから、「ゼロポジション=ポジションのない主体や立場」を計算できるシステムを、「分散化ソクラテス」と呼ぼう。

「特定のポジションを推さない=バイアスを持たない」というのが、ソクラテス問答法の第一段階、ソクラテスに指摘された自己矛盾によってバイアス=ポジションを解除された状態だった。

分散ソクラテスは、問答法が持つこの効果を自動化したものだ。それは分散化されて、属人性が無い。だから、憎しみを抱く対象となる主体がいない。その意味で、問答法が持つ課題の一つである、憎しみによる持続可能性の無さをクリアしている。もちろん「分散化ソクラテス」というシステム自体への憎しみを抱く者はいるはずだ。しかし、脆弱な個人より、ブロックチェーンの方が攻撃には強いだろう。

もし、分散化ソクラテスに対して、ある人やサイトが、「特定のポジション=バイアスを持つ」というレッテルを貼られたくくなければ、たんに、そのように振る舞えばいい。分散化ソクラテスが十分に分散化され、アルゴリズムの透明性も確保されていれば、その人は色々な観点から判定して「ゼロポジション=普遍的立場」に立っていると判定されるだろう。

ここで重要な仮説がある。それは、サーチエンジンに対する検索されやすさの最適化のように、分散ソクラテスのアルゴリズムにある弱点を利用して「普遍的立場のフリ」ができないということだ。もしくは、そのような擬態をすると、結局、それは普遍的立場と同じ振る舞いになってしまうという、第13回で述べた仮説だ。

分散ソクラテス自体がアップデート可能なので、この仮説はかなりの程度成り立つ可能性が高いと思う。セキュリティ対策とは逆に、分散ソクラテスへの対策を考えて行動する攻撃者の方が、より面倒な情報操作=レトリックを考えねばならず、コストが高くなる割に理解されなくなっていく(=メリットは低くなる)からだ。

ここで重要なのは、結局人間が情報の意味を取らなければならない、という制約だ。

AI同士が騙し合ったり、相手のAIを混乱させる技術は現在盛んに研究されている。AI同士で騙し合いをするなら、果てしなく複雑なレトリック操作と防衛操作が進化していくだろう。だが、人間に理解される記事を書く必要性、という制約がある場合、複雑なレトリック操作は認知の限界に阻まれて、コストに見合わなくなる。

ところで、分散化ソクラテスでゼロポジション=普遍的立場が計算できるとして、何か意味があるだろうか?どうせ誰もが相対的な趣味判断をしているだけのだから、普遍的立場に立とうとするより、嘘と知りつつ馬鹿げた信念でフォロワーを増やすべきではないだろうか?そのような人にとって、分散化ソクラテスでゼロポジションが計算できたとしても、なんの意味もない、もしくは邪魔なだけだ。

もっと積極的に、「人が普遍的立場に立とうとすること」自体が、生きることに有利になるメカニズムは作れないのだろうか?

その点を次回に。

次回(coming soon)

冒頭画像
Triple moon flask with fretwork center (one of a pair), ca. 1880, Worcester factory

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