分散化ソクラテス:(4)交換様式Dの特徴、本稿全体の構成、リベラルな態度

分散化ソクラテス:(4)交換様式Dの特徴、本稿全体の構成、リベラルな態度

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前回最後に触れたソクラテスの問答法は、『世界史の構造』『哲学の起源』で柄谷の提唱する「交換様式D」の具体例だ。

交換様式Dの特徴は、

- 共同体に閉じられた価値とは別に存在する普遍的価値(神、無、道など)の主張
- 普遍的価値との間に(御恩と奉公、愛と憎しみのような)互酬性的感情関係(交換様式Aと呼ばれていた)が復元する=「高次元での回帰」

・・・だとされる。

つまり、特定の家、村、組織の内部でしか通じないバイアス(男性が偉い、年長者が偉い、奴隷は必要・・・など) を否定し、その否定作業そのものを普遍的価値(=「神」や「無」)として信仰の対象にする。

もちろん、神や無もまた「キリスト教」や「仏教」という共同体の価値に過ぎない。だから、この否定作業には終わりがない。換言すれば、「交換様式D」とは、「バイアス解除作業」と「信仰という感情」の終わりなく続く「交換」だ。

柄谷の見方では、各種交換様式たちと世界史の構造(交換様式A(互酬性)=共同体、交換様式B(国家)=国家、交換様式C(市場)=グローバル化・・・)には対応がある。しかし、交換様式Dに「対応するはずの制度」はよくわからない。

交換様式Dと制度との関係を探る手がかりとして、『哲学の起源』では、イオニア文化、「ソクラテス問答法」と「プラトン的哲人王」などが取り上げられた。

そこで、これから、これらの個人の資質に強く依存した「政治制度」について説明するつもりだ。だがその前に、この連続エッセイ全体の構成と、なぜこのような議論を今とりあげる必要があるのかを簡単に整理しておく。

このエッセイ全体の構成は以下の通りとなる予定だ。

- 課題=分散自律組織でしかできないことを見つける

- 分散自律組織DAOの現状
- 個人の資質に依存した「交換様式D的政治制度」の解説
- その分散化手法のスケッチ
- 分散自律組織DAOでなければできないことを探る

現在は、DAOの現状解説が終わり、交換様式D的政治制度の解説に入る直前ということになる。

現在、世界各地で「普遍的価値」の相対性、普遍的価値それ自体の共同体依存性が明らかになっている。たとえば、「基本的人権」と「イスラム教に従った女性の扱い」は、どちらも「自らの普遍的価値」を主張するに違いない。しかし、両者を同時に同じ人間に対し実行することはできない。

だから、普遍的価値はどちらにもない。このように普遍的価値も所詮特定共同体に縛られた信条だとするなら、後に残るのはそれぞれの思想信条の意義ではなく、それを支える共同体のパワーバランスと地政学ということになるだろう。このようなリアリストともシニカルともいえるような立場は、2021年現在、とてもよくある態度のはずだ。

そのような状況下で、「共同体のバイアスを解除することの継続=普遍的価値」という主張は、題材も古代ギリシャだけに、いかにも時代遅れにみえる。そのようなタイプの普遍的価値を「リベラルな態度」と呼ぶなら、それもまた相対的なもののはずだからだ。

筆者の解釈では、柄谷はこの「リベラルな態度」の相対性という問題にはっきりとは答えていない。だが、色々な「普遍的価値」の中で、「リベラルな態度」は、「共同体のバイアス解除だけ」を意図していて、積極的な目標・信条を提示しない。この点で、他の様々な普遍的価値とはレベルが異なるものだと彼は考えているようにもみえる。

どのような普遍的価値も、それが明文化され、形式化された共同体の手続きになっていくにつれ、「その共同体特有の慣習」に形骸化していく。現在パワーバランスを競い合っている「かつての普遍的価値」たちは皆そのようなものだ。しかし、どのような共同体のバイアスであれ、その解除することだけを目標とするなら、そういう態度そのもの(=ここでいう「リベラルな態度」)は、形骸化しない、といえるかもしれない。それは積極的な目標を持たない。ゆえに、明文化・形式化・形骸化というルートを辿らない。

だが、「リベラルな態度」も、結局長い目でみると、(信条の形骸化が起きなくとも)傍観者あるいは、ひたすら現状の批判を続けて自己満足する、というタイプの形骸化を免れない。また、そのようなリベラルな態度の形骸化を放置すると、その反動として「(傍観と自己満足ではなく)力と実現(あるいは実装)こそ全てである」という思考のベクトルを生みやすい。そこから「ユダヤ人絶滅、大東亜共栄圏の設立、理想的な共産主義社会、などが無意味な理念であると知りつつも、力と崇高さを得るために、あえてその実現に身を捧げる」という全体主義的な態度までの距離もまた近い。

このエッセイの目標は、「リベラルな態度」を継承しつつ、別の仕方で積極的な目標を持ちうる、という思想を探すことにある。

次回は、再び本論に戻って、ソクラテスの問答法とプラトン的哲人王について

冒頭画像
Antislavery medallion ca. 1787 Josiah Wedgwood British

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