分散化ソクラテス:(2) 自律分散組織のフィーリング
現時点で、DAOの定義を正確に述べるのは難しい。
だから、とりあえず、次のような特徴を持つ組織をDAOということにしておこう:
DAOの意思決定対象は以下のようなもの:
- 生産・サービスの量・質
- 取引
- メンバーの参加・退出
- アップデート方針や紛争解決
DAOの意思決定の方法は以下のような特徴を持つ:
- 中央集権的な機関や個人がいない
- メンバーが各自の判断をバラバラに行う
- 判断は自動で集計され、システムに反映される
とりあえず、こうした特徴を定義の代わりに使う。
具体例の方がDAOの雰囲気をつかみやすい。
たとえば「ビットコイン」という仮想通貨を発行しているのは、世界中に存在する「マイナー」と呼ばれる人々または会社だ。発行するビットコインの総量を制御している、中央銀行や政府のような機関は存在しない。にも関わらず、その運営=ビットコインの生産と交換は持続するし、攻撃にも耐え続ける。
ただし、現在のビットコインには紛争解決やアップデート方針決定に関する自動調整システムはない。そのあたりは利害関係者の話し合いや投票を、システムの外部でやっている。
ビットコインの場合、決定結果を強制する執行メカニズムもない。だから投票結果に不満がある場合、システムを、勝手に分割(ハードフォーク)して、不満分子用のシステムを新たに立ち上げる(ビットコインより新しいブロックチェーンではアップデート=執行を自動実行するタイプもある)。
現在では、多くの人が「取引所」という会社組織を通じてビットコインを購入・交換している。だが、本来ビットコインは取引所などなくとも所有者が直接交換できるものだ。法定通貨との交換を除けば、中央集権的取引所を必要としていない。近年では分散型取引所が勃興し、取引所なしでもうまく交換相手が確保されるメカニズムができている。
今の所、実際に機能しているDAOは、こうした仮想通貨絡みが多い。だが原理的には「組織」ができる多くのことを分散化できるだろうし、そうした技術開発は進んでいる。
上のようなDAOの定義や特徴は抽象的すぎるし、まだ参加も難しい。DAOがもたらす「フィーリング」を得るには、r/placeという2017年の実験がいい。
r/placeは、Web上に一枚の白いキャンバスを共有し、そこに皆がバラバラに1ピクセルずつ、色を描き込めるシステムだ。特に協調しあっているわけではないので、意味のある画像ができる保証はない。しかし、実際にやってみると、絵画や国旗などの意味ありげな図形を描こうとする協調と、それを破壊する活動が拮抗する複雑な動画になる。
r/placeは、協調の仕組みが「一枚の絵を皆がみれる」ことで確保されている。誰でもいつでも許可なく他人の描いたピクセルを上書きできる。極端に単純なガバナンスを備えたDAOがあったら、こんな風に動くかもしれない。DAOベースの仮想土地システムなら、独自トークンで土地の売買を行うのが一般的だ。また、r/placeでは、バックエンドにある計算機が分散化しているわけではない。なので、r/placeはDAOではない。だがそれは、そこで起きるはずのできごとを一望するイラストではある。
ちなみにDAOベースの仮想土地システムは、多くの場合、現実の模倣を試み、「希少な土地」を無理やり作ることで投機(=地価上昇)を招こうとしている。
むしろ、仮想空間では土地がいくらでも作れることを活かした設計の方が可能性が広がると個人的には思う。
とりあえず最小限のDAOの説明はしたので、次はソクラテスについて。
次回はこちら
2021/05/27:コメントを受けて文章微修正
2021/06/14:誤字訂正
冒頭画像
The True American ca. 1874 Enoch Wood Perryhttps://www.metmuseum.org/art/collection/search/11759