分散化ソクラテス:(11)問答法からファクトチェック無しのフェイク対策へ

分散化ソクラテス:(11)問答法からファクトチェック無しのフェイク対策へ

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結局の所、ソクラテスの問答法で達成されるのは、バイアスの解除だ。バイアスの解除、つまり「自分の共同体や伝統・利益・価値・立場からくるおかしな推論をやめること」を続ける態度を「普遍的立場」と呼んでおこう。

普遍的立場の反対が、ポジショントークやフェイクニュースといった現在ネット上を埋め尽くす勢いの意見だ。それらは、知ってか知らずか、自分の利益を守るもしくは権力を拡大するために、バイアスをできるだけ拡散し強化しようとする活動で、ちょうど問答法によるバイアス解除と逆となる。

そう考えると、現代の問答法は、「ボジショントークやフェイクニュースを積極的に行う人の影響から、本来それと無関係な人々を守ること」となるべきだろう。

しかし、そんなことができるのだろうか?

ポジショントークにせよ、フェイクニュースにせよ、あからさまに事実に反することが書いてあれば、ファクトチェックで原理的には回避できる。だから、ファクトチェックをうまく自動化する仕組みを作ればいいようにみえる。そして、フェイクレベルやポジション偏向のレベルをサイトやツィートに常に表示するUIをプラットフォームが用意する。実際すでにそうした仕組みは存在するし、今後も発展し続けるはずだ。

だが、この仕組には二つ問題がある。一つは、ポジショントークやフェイクニュースは、「虚偽とは限らない」ということだ。むしろ手の混んだポジショントークでは、事実に反することをそのまま書くことは少ない。

解釈の割れそうな事柄に対し自分の支持する立場の扱いを大きくする、反対の立場を意図的に消去する、反対の立場を述べた後突如自説に対するポジティブな意見をつけて終わる、など読み手の印象を操作するレトリカルな操作を行う方法は様々だ。

こうした言動をここではとりあえず「ポジショントーク」と一括する。いわゆるフェイクニュースは、本人が自説を信じるあまり、事実と矛盾が出てしまった「ポジショントークの極端なタイプ」だからだ。逆に、ポジショントークのフェイクニュースと反対の極には、「特に事実に反することは述べていないが、読み手の印象が書き手の意図に沿うようにレトリカルな操作だけ行っている」場合が来る。

ポジショントークに対し、ファクトチェックだけで挑もうとすると、レトリカル操作だけ行っているタイプの記事に対し何もできなくなって行き詰まる。間違ったことを書いているわけではなく、誰もがやるように自説を優位に導いている文章に対し、警告を発するのは、それこそ言論の自由に反すると言われかねない。

しかし、ファクトチェックの挫折は「結局どの意見もポジショントーク」という価値観を導きかねない。どんなひどい説でも誰かはひっかかる。だから、なんでも言っておいた方がいい、もしくは事実や真実はどうでもよく、そもそも論証や証明なんていう手続き自体が詐欺だという反知性主義にまで至りうる。

ちなみに、ほぼ今書いたとおりのことが『我が闘争』に書いてある。ヒトラー自身の主張では、彼をそうした態度に駆り立てた背景には、自らが参戦した第一次世界大戦で、後方の政治家たちが議論と駆け引きに明け暮れ、前線の無駄な犠牲を強いたことへの義憤がある。

ファクトチェックによる真実の検証は重要だ。しかし、それとパラレルにできることがある。ボジショントークが、レトリックと編集による印象操作であることが多いことを利用することだ。

冒頭画像
The Ghost in the Stereoscope, ca. 1856, London  Stereoscopic Company, British

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