分散化ソクラテス:(14)フェイクニュース対策の原理的困難:レフリーの信頼不能性

分散化ソクラテス:(14)フェイクニュース対策の原理的困難:レフリーの信頼不能性

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レトリック検証をうまくやれば、ファクトチェック不可能なポジショントークやフェイクニュースを、検出・警告する仕組みになりうる。これはフェイクニュース対策に関し、先に触れた課題の一つを解消しうる。

だが、文章やサイトに対するレトリック検証は、一見、誰かにレッテルを貼るメカニズムにも見えてしまう。レトリック検証を実行するある特定の組織、主体、プラットフォームが、意図的に「フェイクのレトリック偏向レッテル」を貼る可能性があるからだ。

つい最近、中国外務省の報道官が、英国BBCに対しそれが「フェイクニュース報道局」であり、「(BBCが)中国国民に不人気なのも仕方ない」「理由のない憎しみなど存在しない」という見解を発表したという。これは、中国で起きた洪水を取材していたBBCの記者に対し、中国共産党関連組織に刺激された人々が個人攻撃を行っていることへのBBCの抗議に対する、中国側の反論だ。筆者にはBBCがフェイクニュース報道局にみえないから、これは「フェイクのレトリック偏向レッテル」の例だ。が、それはあくまで筆者にとってにすぎない。

また似たような事例として、コロナウィルスのワクチンに対するものがある。極端な例では「ビル・ゲイツが人体を遠隔操作するウィルスを散布するために作った」というような多数のフェイクニュースがある。様々なバイアスやフェイクニュースに対し、それが科学的に根拠のないものだ、という解説はできる。ただ、その解説自体が陰謀だ、という反論には効果がない。

これが、もう一つのフェイクニュース対策の課題、「レフリー(中立者)の信頼不能性」とでもいうべきものだ。

つまり、ある特定プラットフォームによるバイアス解除は、たとえ主催者の意図が完全な善意で事実に即していたとしても、(他人から見れば)検証行為それ自体が「プラットフォーム運営者のポジショントーク」である可能性を原理的に消せない。

この場合、レトリック操作と違い、ファクトチェックによって記事の事実との矛盾を指摘することはできる。しかし、「中立者」によるその調査や指摘自体が偏向しているという訴えが「レフリーの信頼不能性」なので、やはりファクトチェックには効果がない。

問題となっているのは「実際に嘘をつくこと」ではなく「原理的に嘘をつくことができること」で、陰謀論者の攻撃はそこをつく。コロナのワクチンがDNAを意図的に改変するという主張に対し、その可能性は極めて少ない、といくら大手メディアが報道しても無駄だ。なぜなら、その報道が、「フェイクでありうる、特定の少数者が操作可能な情報でること」自体は事実だからだ。陰謀論者が涼しい顔で「自分は陰謀論者だと思われているし、大手メディアの意見全てと矛盾している」と認めた上で、自説を延々と反復できるのはそのせいだ。

特定の大組織(企業や政府など)がレトリック検証を行う限り、レフリーの信頼不能性は克服できない。実際、歴史を参照すれば、本来中立であるべき大組織がフェイクニュースを流した事例は数え切れない。

しかし、レトリック検証の作業は分散化可能で、単一のレフリーに対する信頼を必要としない。ここには、分散組織にしかできないことと、真正性を保証するレフリーそれ自体が信用に値しないという陰謀論者やフェイクニュース作成者の主張に対する対策を結ぶ鍵がある。

次回

冒頭画像Fig. 6. Georges Seurat, "Study for 'Circus Sideshow',” 1887–88. Oil on wood, 6 1/2 x 10 1/4 in. (16.5 x 26 cm). Foundation E. G. Bührle Collection, Zürich

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