補遺:「多様性」なら何でもいいのか? 
ー Google vs Pynchon

補遺:「多様性」なら何でもいいのか? ー Google vs Pynchon

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補遺:「多様性」なら何でもいいのか?
ー Google vs Pynchon

ゲームの幾何学

上の図は、「ジャンケン」での「グー・チョキ・パー」のような、サイクリックな戦略の強弱を持つゲームにおいて、戦略が作るサイクルの大きさ(たとえば、ジャンケンの場合は、大きさは「3」のように数える)(横軸)とプレイヤー集団の(平均的な)スキルの巧拙(縦軸)の関係を描いた模式図だ(出典: “Real World Games Look Like Spinning Tops”, 2020)。

縦軸に沿って上に行くほどプレイヤーのゲームスキルは高く、頂上(Nash of the game)は「神のように最適戦略を計算できる」場合、一番下は、「プレイヤーがわざと負けるような無意味な行動しかできないほどスキルがない」場合、中間は「徐々にスキル平均が上昇するプレイヤー集団」を表現している。一方、横軸の広がりは、先に述べたように、そのスキルレベルの集団に存在する戦略サイクルの大きさを表す。

まず、誰も何のスキルもない場合、(誰もがすぐ負けるので)戦略サイクルはできない(一番下 Agents trying to lose)。縦軸に沿って上昇していくと、皆がそこそこスキルを持ち始め、戦略の多様性が増加し、戦略間に大きなサイクルが形成される段階(Extremely non-transitive)が来る。その後、例えば囲碁のような「よくできたゲーム」では、洗練された少数の戦略間の小さなサイクルだけが維持される段階(Non-transitivity gradually disappears)が来る。

この論文の文脈では、多様な戦略による巨大なサイクルが形成されるより、それらの戦略全体を超えたスキルレベルの高い戦略の少数集団が現れることが望ましい(ゲームとしての質が高い)とされている。その理由は、以下の通り。多くの「面白い」ゲームでは、プレイヤースキルが全般的に低い最初期は、さまざまな「びっくり戦略」のようなものが数多く出現する。しかし、やがて、そうしたトリッキーな戦略に対応する定石がプレイヤー間に蓄積され、トリッキーな戦略は淘汰される。その後、残った戦略間での高度な駆け引きが出現する。最初の段階は、一見多様だが、実際は定石で一挙に対策されてしまうという意味で、本質的には無意味、ともいえる。そうした観点から、「単純に多様であること」を、望ましいとしない。

要するに、「皆が色々な仕方でむちゃくちゃなことだけをやっている」ゲームは「面白くない」あるいは「深みがない」という、ある意味エリート主義的で、トマス・ピンチョンなら批判しそうな価値観に基づいている。論文の著作者であるDeepMindをあえて戯画的に「Google」と呼ぶなら、この図をどう評価するかという点に、Google vs Pynchon的な構図が隠れている。

Google (DeepMind) vs Thomas Pynchon

一方、本稿では「(レイヤー間の)制御ー被制御」の関係を「(ゲーム戦略の)勝ちー負け」とするなら、「戦略間にサイクルが存在すること」を、「権力が一つのレイヤーに集中していないこと=分立」としてポジティブにとらえている。

「多様性が重要」ということはよく指摘される。しかし、「どのようなタイプの多様性が社会として望ましい」のか、は「スキルレベル」のような能力差の概念が入る場合、とてもデリケートな問題になる。

本稿で論じたことは、「実験室的に理想化された状況での最適解」ではなく、ノイズのある環境下で「あるレベルの多様性とサイクルサイズの範囲を保ち続けること」を目標とするメカニズムデザインに向けた、とても初歩的な考察といえる。

たとえば、熱帯雨林のような巨大な依存関係と多様性のある集団は、恐らく上の図で「横幅が極端に広がった状態」であり、一方、厳選された少数の制度がお互いを抑制するのは「横幅が狭い状態」と解釈でき、レイヤーサイクルの議論は、後者を主に扱っている。

しかしながら、レイヤーサイクルは、囲碁のようなボードゲームと違い、「世界」のような「なんでも入るレイヤー」を通じて、「(ルールの集合がはっきり決まっていない、ゲームの進行に多くの偶然的要素が絡む)開かれたルール」の運営をターゲットにしているともいえる。その場合、レイヤーの数がそもそも洗練・少数化していくのか?ということも含め、さらなる議論が必要になる。

Credits:
原案:西川アサキ
草稿執筆:(この項)西川アサキ
同時編集:VECTION
作図:掬矢吉水

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