苦痛のトレーサビリティで組織を改善する 2: 組織に対する最小限の理想、PS3

苦痛のトレーサビリティで組織を改善する 2: 組織に対する最小限の理想、PS3

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組織の望ましいあり方に、最小限の理想として、以下の4つの条件を仮定してみたい。

1.持続可能性:既存の組織形式と競争力を持つ程度に効率的である

たとえ組織がメンバー(例えば労働者)にとって「夢の労働環境」を提供したとしても、あまりに効率が悪かったり、生産性が低かったりしたら、その生産物は競争力を持たない。組織はやがて解散に追い込まれてしまうだろう。効率の比較対象は、同じ生産物を作っている既存の組織だ。

2.苦痛最小化:ステークホルダーの苦痛総量を可能な限り減らす

非常に良い効率が得られたとする。だが、その効率が組織メンバー集団の激しい苦痛によって贖われるなら、その組織は望ましくない。

苦痛最小であって、幸福(効用)の合計最大化ではないのは、巨大な格差を持つ組織なら、苦痛があっても「効用の怪物」に相当する一部のメンバーによって合計は増大しうる、または投資家の効用だけが増大するという事態を想定してのことだ。過去、多くの革命活動がこの条件を無視した。それゆえに「組織(革命)のための犠牲」を強いた。

3.スケーラビリティ:メンバーが増大しても、他の条件を満たし続けられる

少人数で始まった雰囲気の良いベンチャー企業が、巨大化後、単なる官僚組織になるのはありふれた事態だ。しかし、メンバーの知能や認知能力に限界がある以上、組織の巨大化と分業、権限の分割は避けられない。既存組織は多くの場合それを階層化によって解消している。他の方法はあるかもしれないが、未だ発見されていない。また、単純に組織を分散化しても、認知能力の問題は解消されない。ただし、管理者や階層が上のメンバーが高い報酬で報われる必要がどの程度あるのかは判然としない。ゆえに、そこを変更することは可能かもしれない。

4.セキュリティ:悪意ある攻撃者によって組織を破壊される可能性が低い

いい人しかいない世界を考えよう。そこでたまたますべての条件を満たした組織ができたとする。しかし、それがたった一人の利己的な侵入者によって破壊されるなら、その組織構造は不安定すぎて採用できない。「革命」によって一時的に「よい制度」ができ、そして一気に様変わりする事例も、歴史は数多く提供する。では、すべての人を信用しないのか?それもまたうまくいかないだろう。組織がセキュリティにかけるコストをできるだけ下げられることが理想だ。もちろん、どうやればいいかは分からない。 

以下では覚えやすいようにこれらの「理想」をPS3条件と呼んでおく(Pain, Scalability, Sustainability, Security)。

PS3は、たとえば「才能への資源集中とその創造性のみを社会的な評価」とする、というような立場とは相容れない。だからそれは万人の理想ではない。ただし、PS3は組織の理想を、「組織自体の性質(苦痛、スケーラビリティ、持続可能性、セキュリティ)」を通じてしか定義していない。その意味で「ミニマム」な理想ではある。だから、ここに「(メンバーの)自由と平等」というような理念を追加していくことは可能だが、その都度、PS3を破壊しないかどうかを吟味する必要がある。その意味で、PS3は普通の「理想」というよりは、「条件」に近い。

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Credits:

原案:西川アサキ
草稿執筆:古谷利裕、もや、西川アサキ
同時編集:VECTION

冒頭画像:Slentolate, 19th century, Javanese

本稿は、「ブロックチェーンとレボリューション──分散が「革命」でありうる条件とはなんですか?

r/place的主体とガバナンス──革命へと誘うブロックチェーンとインターフェイス から、苦痛トークンとPS3について記述された部分を取り出して、加筆、再編集したものです。

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