「ソロスの講義録」レビュー④ /市場原理の批判と「開かれた社会」
ジョージ・ソロスは、投資によって巨万の富を得た人物です。
当然、市場経済や資本主義を、全面的に肯定するーーのかと思いきや、そうじゃないところが、一筋縄ではいかないところです。
『ソロスの講義録』で、ソロスは語ります。
「市場原理主義は社会を崩壊へと導くものなのです」と。(P131)
つまり、市場経済での考え方や行動原理を、社会全般に広げるべきではないと言うのです。
どういうことでしょうか?
市場参加者は、道徳的判断ではなく、利益のために行動します。市場価値は、社会的価値とは対立するものなのです。そうした市場原理を、他の領域に広げれば、そこでも道徳的判断を下す余地がなくなってしまうーー。そうソロスは語ります。
では、そんな市場原理を、当局が規制すべきなのか?
それに対して、ソロスは「政府による規制は必要だが、最低限にとどめるべきだ」と主張します。
引用します。
「ここで、私は自分の立場をはっきりさせておきたいと思います。私は市場原理主義が、偽りの危険な教義であると考え、事あるごとにこれを非難しています。しかし、私は同時に、市場原理主義と同様、政府による経済の介入やその規制を最低限にとどめておくべきだと考えるものであります。だた、そう考える理由が「市場原理主義よりも政府のほうがましだから」という違いはあります。」(P140)
市場に全てを委ねるわけにはいかず、かといって、政府にも全面的には頼れない。
では、どうすべきか?
目指すべき社会のあり方として、ソロスが掲げているのが、「開かれた社会(オープン・ソサエティ)」 です。
この理想の前提には、カール・ポパーの哲学があります。