子供の貧困が日本を滅ぼす ~社会的損失40兆円の衝撃~
最近読んだ本で、大変感銘を受けたのでご紹介します。
子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃 日本財団子どもの貧困対策チーム
この本は、タイトルの通り日本の子供の貧困問題について書いた本です。
今までもそういう本はいくつか読みましたが、中でも経済的な側面にスポットを当ててあり、とても興味深い内容でした。
本の内容を以下に簡単にまとめました。
※大前提として、貧困状態の子供とは、「相対的貧困状態(衣食住はなんとかできるが、教育などは行えない状態)の15歳以下の子供」のことです。
▢日本の現状
・日本の子供の貧困率は上昇傾向にあり、2012年には16.3%(6人に1人)が貧困状態にある。
・日本の子供の貧困率はOECD加盟国34か国中10位と、先進国の中でも貧困率は高くなっている。
・家庭の世帯収入は子供の学力と強い相関関係にある(お茶の水女子大学 2014「平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」)
・現在日本では学歴と収入が強く相関している。
以上のことから、相対的貧困家庭の子供とそうでない子供の間には教育格差が生まれ、将来の所得格差につながり、貧困が世代をこえて受け継がれてしまう、貧困の連鎖を生み出している。
▢子供の貧困がもたらす社会的損失
・現在日本には、15歳以下の子供120万人のうち、18万人が相対的貧困と考えられている。
・現在貧困状態の子供では、高校進学率が低く、かつ高校中退率も高い。その状態に介入を行わなかった場合(現状維持)と、社会的介入により高校進学率・大学進学率が上昇し高校中退率も低下する(非貧困世帯と同じになる)2つのシナリオの間で、日本経済が受ける経済的影響をシュミレーションしてある。
・現状のままでは、最終学歴が悪化するため、無業者や非正社員が増加する。そのためおさめる税金や社会保障料が低く、社会保障給付額が増加する。
つまり、教育介入ができないと、就業形態が悪化し、税収が減り公的支出が増える。
・子供の貧困が改善すれば、子供は社会に支えられる側ら支える側になることができる。
これにより、子供ひとりあたり3800万円の増収を見込める。
・現在0-15歳の子供すべてに上記をあてはめ計算すると、こども達全体での所得の減少額は42兆9千億円、財政収入の減少額は15兆9千億円になる。
・これを1年あたりに換算すると、現状を放置した場合に財政収入の減少額は3500億/年になる。
・現在子供の貧困対策に投じられている予算は33億円と、期待される額にくらべ少ない。
・現在日本の高齢者への支出は54兆9千億円であるが、子供を含む家族に対する支出は6兆6千億円と対GDP比を考慮して、国際的に少ない。
※今回は、治安については推計されていない。貧困が放置されれば、犯罪に関与する子供も増え、治安の悪化によるコスト増や子供の社会復帰プログラムなどの支出の増加が予想される。
▢貧困から抜け出すために必要なこと
・「社会的相続」という概念が重要。社会的相続とは親から子供へ相続される、自立する能力のことである(子供にかける時間、お金や関係性、受け継がれる生活習慣や価値観)。
・子供はライフサイクルの中で、親と関係性を深め、それにより社会的相続は補完される。コミュニケーションや社会性を得るために重要な家庭であるが、貧困状態にあるとこれが得られないことが多い。
▢実際にどういったプログラムが有効なのか?
・アメリカでは、1960-70年代に貧困状態の子供を対象としたランダム化比較試験が行われている。(ペリー就学前計画、アベセダリアンプロジェクト)
これらは3歳から4歳の児童を対象として社会的、知的な発達を重視したプログラムを毎日2.5時間週5回2年間受ける。その後40歳になるまえ社会的予後を追跡調査している。この結果、40歳時点での年間所得、生活保護比率、5回以上逮捕された人の割合などに有意差を認めた。
一方、このプログラムを受けた子供は5歳までは非処置群とIQの差がみられたが8歳の時点は処置群と非処置群で差がなくなっている。
この計画の費用対効果は16倍と高い効果が得られた。
アベセダリアンプロジェクト
この試験では新生児を対象として毎日8時間の言語力を重視したプログラムを5年間行った。この結果、30歳時点で大学進学率が22%改善し、処置群の方がフルタイムで働く人の割合も高かった。またこの試験により、納税者一人あたり2.5ドルの節税になることが示された。
以上のことから、子供への貧困への支援は経済合理性があり、高い費用対効果が期待される。
これらのことから、幼児期の教育は生涯にわたって影響をおよぼすことがわかる。このことから、ヘックマン教授は子供の貧困対策について「恵まれない境遇にある子供たちに対する投資は、公平性や社会正義を改善すると同時に、経済的な効率性も高める非常にまれな公共政策である」と述べている。
この本は、子供の貧困問題は、日本にある社会問題のひとつ、という位置付けだけでなく、放っておけばかならず自分たちの身にふりかかる問題である「ジブンゴト」であると理解してほしいと訴えています。とても興味深く、私たちがこの問題をもっと共有し、関心をもつべきだと感じました。寄付や実際ボランティアに参加するなど、さまざまなオプションがあることが紹介されています。
以前坂本不惑さんが書いておられましたが、社会全体で子供を育てていく、という考え方が重要とも感じました。
興味があればぜひ読んでみてください。
将来私たちの子供がよりよい社会で暮らせるように、自分も少しずつアプローチできたら、と思いました。