[和訳]The Geology of Lost Coins:BTC地質学/ロストしたBTCを追え
勉強になりました。Part1「BTC HODL wave ーBTCのガチホの割合ー」からの続きで遂にGOXされしロストBTCに関してのお話Part2「The Geology of Lost Coins by unchained capital」の和訳になります。
BTCは完全に自己責任のアセットで、皆様も自身のミスによるGOX等でヒヤッとしたことはあるかと存じます。当然世の中には「完全にやってしまった」というケースも散見されまして、BTCの実際の流通量は総採掘数からロスト分差っ引いたものになると考えられます。クリプト界隈では意図的な枚数消却であるバーンはポジティブに捉えられることもあり、このロストBTCの推定に興味を惹かれ今回勉強致しました。また、この一連のHODL wave研究では大口や投資家動向も推定できる可能性があるため、引き続きモニターしていきたいと思いました。
[ ]内は僕のコメントです。
The Geology of Lost Coins
BTCを大量に失った人の話はよく聞かれます。特に初期のBTCにはそれほどの価値がなく、保存に使われた古いHDD・USBメモリ・紙なんて簡単に忘れ去られていました。
では実際にどのくらいのBTCが失われているのかを定量化することは可能なのでしょうか?ブロックチェーンは内部データを永遠に追跡しており、このシリーズのパート1(URL)で示したように、ビットコインのUTXOの年齢分布を可視化することで、所有権の傾向を明らかにすることができます。
上記のUTXOの年代分布を見て、Part1の多くの読者は "かなりの割合が失われているのでは? "とコメントしています。この直感には一理あります。2017ー18年のBTC保有者は取引するのに多くの理由がありました:価格の上昇・下落、ICO、BTC/BCHのHF、segwitアドレスなど。恐らく5年以上使われずに放置されたBTCはロストした可能性が高いでしょうが、この直感をより正確にできるでしょうか。
ブロックチェーンのデータが豊富であるにもかかわらず、どれだけのビットコインが失われたかを実際に測定することは非常に困難です。失われたBTCは、最後の取引のUTXOの中でのんびり過ごしていて、時間が経つにつれて静かに老朽化していきます。問題は”一見紛失したようには見えない”多くのロストBTCがブロックチェーン上で全く同じ様に見えることです。
それでも、UTXOの年齢分布は、失われたBTCをどう考えるかについての洞察を与えてくれます。寒色の古い年齢のバンドは、最も古いコインだけを通過させるような、いわゆる”ローパスフィルター”と考えることができます。その結果、色の濃い若い年齢帯よりも遅く、変動が少なくなります。[#青バンドはいまだにガンガン増えてますね。]
UTXOの年代帯は、地質学的な地層のようなもので、より最近の取引の層の下に埋もれている、しばらく前に保管されていたコインの存在証明です。”ロストBTC”と”大切に保管されているBTC”を区別するには、ブロックチェーンの最も深い記録の中から、すなわち最も古い層から微妙なデータを発掘する必要があります。
失われたビットコインの探求、データサイエンスの皮を被った地質学
ビットコインの損失は2つの異なる「暗号-地質学的」な時代に発生したと考えています。
1. 全体的紛失 (systemic loss):サトシや他のマイナーによってビットコインの初期に一斉に採掘され、同時に一斉に失われたBTCの大きな一群。(ビットコインの”石炭紀”)
2. 緩徐的紛失 (incremental loss):個々のユーザーが異なる期間を経て、徐々に失ったBTC。
今回、全体的紛失の時代が終わったことを示し、現在は緩徐的紛失の時代に入っていることを示します。そして最後にビットコインがどれくらい失われているかを推定します。
初期の全体的紛失
サトシは、それまでの数年間、コンセプトとコードに取り組んできた後、2008年10月にオリジナルのホワイトペーパーを発表しました。その後2009年1月3日にジェネシスブロックを採掘し、1月9日にビットコインソフトウェアの最初のバージョン(v. 0.1)をリリースしました。
当時、サトシやビットコインを真剣に見ていた人はほとんどいませんでした。Gwern Branwen氏の素晴らしい記事 "Bitcoin-is-Worse-is-Better" では、「プロの」暗号技術者からの初期の否定的な反応のいくつかを説明しています。[#worse is betterも興味深いのでいつか読みたいです。]
ビットコインの最初の頃、哀れなサトシはほとんど一人でマイニングをしていました、時折ハル・フィニーのようなクレイジーな人たちが参加してくる程度です。そしてその結果、下のチャートが示すような極端に小さなハッシュレートでありました。サトシや初期のマイナーは、2010年初頭まで、難易度上昇を引き起こすハッシュレートに達しませんでした。ブロック間の平均時間が目標の10分に到達したのは、1ヶ月後の2010年2月のことでした。
2009年と2010年第1四半期のハッシュレートと平均ブロック生成時間の推移。2009年中にビットコインをマイニングしていたのは、サトシと少数のグループだけだったようです。チャートは元々、Evan Klitzke氏の記事に掲載されていたものです。
上記のような見かけ上の停滞にもかかわらず、2009年には多くの、とても多くのブロックがマイニングされており、2011年までにサトシと最初の採掘者によってこの期間に500万BTC以上がマイニングされました。これは、今後存在する全BTCの23%以上に相当します。さて、どこに行ってしまったのでしょうか?[#初期のマイニング量って莫大ですね・・・]
このチャートは、現在の UTXO を年齢別にグループ化し、各年齢グループでの UTXO あたりの平均 BTC 残高をプロットしたものです。2011年以前に採掘された7年以上のUTXO(約190万BTC)の一群は、プロットの右側に「棚」の様に明確に表示されており、平均残高はその時代の採掘報酬である50BTCになっています。
上のプロットは、現存するUTXOの中で最も古い190万BTCがある特殊な集団であることを示しています。これらは初期にサトシと初期マイナーによって採掘されたコインの一群です。当時のブロック報酬が50BTCであったため(手数料は無視できるので)、チャート上では50BTCで右方の「棚」の様にプロットされています。(6.5-7年前[#200615 今では8年前程度]のこの棚の急速な崩壊は2011年に起こったことに注意。)
ビットコインの石炭紀
約3億年前に発生した石炭紀は、地球が木で覆われていた時代に相当します。その時代、木を食べられるものは存在しませんでした。その結果、朽ち果てることのない枯れ木の層が積み重なっていきました。
2009年から2011年はまさにビットコインの石炭紀でした。膨大な量のコインが採掘されたものの、使われずにブロックチェーンに蓄積され、最終的には失われていきました。
皮肉なことに、数百年後この石炭紀に蓄積された木が石炭となり、現在ビットコインの採掘に使われている主なエネルギー源となっています 🙂
緩徐的紛失への移行
2011年にビットコインに劇的な出来事が起こりました。上述した最古のUTXOの一群が急速に減少したのです。そこから5年後の2016年に、BTCが5歳以上の年齢帯に入る割合が減少しています。これは、この年齢帯における変曲点として確認できます。5年前、2011年に起こったビットコインの劇的な変化の”やまびこ”です。
このチャートは、”5年以上老化したBTCの量”の経時的変化を示しています(90dMA)。2014年から2016年の間(青ハイライト)では、その5年前に多くのコインが失われた2009年から2011年に発生したビットコインの「石炭紀」の影響が見て取れます。この期間は2016年に突然終了しています。(これは5年前の2011年の劇的な変化に対応しています。)チャートの時間軸は2014年から始まっていますが、これはBTCが5年以上の年齢帯に入った最初の年であるためです(ジェネシスブロックは2009年に採掘されていますので)
上のプロットは、この推移をまとめたものです。2014年から2016年の間(青ハイライト)、BTCが5年以上の年齢帯に入っていく割合は非常に高くなっていました。これは、サトシと初期マイナーが採掘し、その後多くのコインを失った2009年から2011年のビットコインの石炭紀に最後に取引されたコインに対応しています。
BTCが5年以上の年齢帯に入っていく割合の劇的な減少が2016年に発生しました。これは2011年のビットコインの石炭紀の終了に対応しています。地質学における石炭紀は、木材を消化することができるバクテリアが進化し、枯れた木が堆積しなくなったときに終わりました。ではビットコインの炭化時代が終わった原因とはなんでしょうか?
”お遊び”から”価値のある商品(コモディティ)”へ
2011年6月、ビットコインは最初の大規模な上昇を経験しました。数ヶ月の間にビットコイン価格は1ドル未満からピークの33ドルへと上昇しました。これによって多くの初期マイナー(その中でも秘密鍵をなくさなかった人たち)に莫大な富をもたらしました。
価格が33ドルに急上昇する以前はこれら初期のマイナー達はBTCの管理方法がずさんだった可能性があります。この時期には「ビットコインが入ったHDDが無くなった」といった悲劇的な話が多く聞かれました。その後にマイナーは、1) BTCは価値があること、2) BTCはすぐにまた桁違いに価値が上がる可能性があることに気がついたのでしょう。
これらの教訓は、マイニングと保管に対する新しい認識を生みました。価格が1ドル以下では、1日のマイニング収入はわずか数千ドルで、年間100万ドル程度にしかなりません。しかし、33ドルでは、1日のマイニング収益はほぼ25万ドルに達し、年間8000万ドルを超える収益を生み出されます。ビットコインは単なるお遊びから商品へと進化し、マイニングは趣味から産業へと大きく変化しました。
グレートHODLのやまびこ?
上のチャートの注目すべき特徴は、ここ数ヶ月の間 [#当時2018年5月の記事です] にBTCが5歳以上の年齢帯に入っていく割合が上昇していることです。この上昇は5年前の2013年半ばに最後に取引されたBTCを表しています。[200615 今ではこの値はあんまり高くないんですよね。]
このシリーズの第1部では、UTXOの年齢分布の変化のHODL waveのパターンを確認しました。BTCが5歳以上の年齢帯に入る割合が最近上昇しているのは、ビットコインが1000ドルまで暴騰した2013/2014年に始まったグレートHODL waveの予兆でもあります。
グレートHODL waveは2017年の19000ドルへの上昇期によって乱れたことを知っているので、2016年に3~5歳の年齢帯に入ったUTXOの150万BTCがすべて2018年に5年以上の年齢帯にそのまま入ったとは考えにくいです。多くは上昇期、HF、SegWitというイベントの間に取引されたのでしょう。
そのため、ビットコインの石炭紀とは異なり、この割合の上昇は以前より小さく、早く衰退すると予測しています。私たちは、今後18ヶ月間に50万BTC未満のビットコインが5歳以上の年齢層に入ると予測しています。
では、どのくらいのビットコインが失われているのか?
これを知ることは不可能です。しかし、上記の分析に基づいて推測を行うことはできます。これはUTXOの年齢分布の絶対値版を使えばより簡単になります。
供給量で正規化されていないUTXOの年齢分布図の絶対値版。2つの半減期は、全体的な生産率の変曲点としてはっきりと見えます。2009年と2018年の間のBTC供給量に大きな差があるため、2013/2014年のグレートHODLはまだはっきりしていますが、それ以前のHODLの波は見えにくくなっています。[#値が小さくグラフが潰れちゃっているので]
ロストBTC量の下限は、2009ー11年にサトシと最初の採掘者によって採掘されたコインのうち、今日まで使われずに残っているコインの一群で、190万BTCと推定できます。これは5歳以上の年齢帯のBTCの約2/3に相当します。2011年以降の間に失われたビットコインは確かにもっとたくさんありますが、この量は定量化できるのでしょうか?
2017年のラリーでは、3~5年の年齢帯(第二層)は大きく縮小していますが、5年以上の年齢帯(第一層)はほとんど変化していません。これは、3-5年の年齢帯のコインの多くはまだ誰かに管理されているが、5年以上の年齢帯のコインの多くは失われていることを強く示唆しています。3~5年の間のどこかの年齢帯で、前者のパターン(管理・使用されている)が後者のパターン(失われている)に変化すると予想されます。
より詳細にみていくと[#生データがなぜか見れないので文章のみにてご容赦]、36~39ヶ月の年齢帯は、ほとんどが2017年のラリー中に取引できた人によってコントロールされていることを示しています。より古い年齢帯(57~60ヶ月)は、5年以上の年齢帯と同様に、2017年のラリー中にほとんど変化が見られませんでした。
これらの境目は45ヶ月から51ヶ月の間に発生する[#つまりこれ以上の放置=ロスト]と推定しています。これよりも古いコインのほとんどが失われているというざっくりとした仮定をすると、多めに見積もって380万BTCがロストしたと推定できます。
より正確な推定
BTCがどれだけ失われたかを推定するためにUTXOの年代だけを使用すると、正確さを出すのは難しいです。より良いアプローチは、個々のUTXOを外部メタデータでラベル付けして追跡することで、採掘者、取引所などの異なる取引の文脈を区別することができます。このアプローチは、地質学よりも考古学を参考にしています。
幸いなことに、Chainalysisの友人がすでにこのような分析を行っており、昨年発表されたフォーブスの優れた記事では、彼らはこのようなアプローチを使用して、278万-379万 BTCがロストしたと推定しています。UTXOの年代だけを見ることに基づいたシンプルなアプローチが、Chainalysisのより洗練されたアプローチと一致していることは心強いです。役に立つ議論をしてくれたChainalysisチームのPhilip Gradwell氏とKim Grauer氏に感謝します。Chainalysisブログでは、彼らのチームの魅力的な研究成果を紹介しています。[#このForbes記事の無料版がyahooに落ちてたので貼っておきます。]
以上。
以下は要約と現時点での自身の考察を貼っておきます。