BitMEXが2020年3月のビットコイン大暴落以降に本当に衰退したか?を数字で見る(その1
ちょっと釣りっぽいタイトルでアレなんですが、海外で最大級の暗号通貨デリバティブ取引所の1つであるBitMEXについてトラフィック(要はサイトの訪問者数やデータ通信量など)などの観点から2019年9月〜2020年6月のデータを見ようという記事です。
2020年3月にビットコインが暴落して約-50%もの下落をしたことは記憶に新しいと思いますが、その際にBitMEXではロングしていた人のロスカットによる清算が止まらず3月13日に最安値3589ドルを記録しました。
この時サーバーの停止によって売買が一時的に中断されましたが、この中断がなければBitMEXでは0ドルになっていたのではないかと考察する人も居るほどです。
この辺の細かい考察は識者の方が色々されていると思うので詳しく触れませんが、この事件をきっかけにBitMEXに対する不信が高まり利用者が減って一強の座から滑り落ちたというのが(ごく一部の界隈の)一般的な見解だと思います。(退場者が多かったのもあると思いますが…)
それまでにあった「仮想通貨で海外レバレッジ100倍でやるならとりあえずBitMEXっしょ」という雰囲気が終わり、多くのトレーダーが引越し先を模索し始めたなとTwitter上で私も感じました。
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・・・じゃぁ、それを数字で確認しよっか!というのが本記事の目的です。
また、BitMEXの利用者数を見るには韓国を無視することができません。そのため本シリーズでは主に以下の点を見ていきます。
- 暗号通貨デリバティブでBitMEXが一強だったのが2020年3月の大暴落以降凋落した…とよく言われているが実際の数字ではどうか
- BitMEXの利用者数は韓国が多いが全体からみてどれくらいシェアがあるのか、またどう変化したのか
※本記事ではSimilarWeb様の公開データを引用しました。
https://www.similarweb.com/ja/website/bitmex.com/
1.2019年〜2020年6月のビットコイン価格
ではまず検証する前に2019年〜2020年6月のビットコイン価格をざっくり見ておきたいと思います。覚えているよという人は飛ばしてください。
- 2019年春に価格が大きく伸び、6月末に14000ドル近くまで上昇した
- それ以降はズルズル価格を下げ、10月に1万ドルまで跳ねたが年末は6000ドル台で2019年を終えた(←本記事ではここの9月頃からのデータを見ます)
- 2020年始めから大きく価格を回復し2月に10500ドルまで回復
- 2020年3月に例の暴落が起きて一時4000ドル割れ
- 暴落後は疑心暗鬼の中、堅調に価格を上げ6月に1万ドルへ再び回復
というのが大筋です。
ではこの値動きの中でBitMEXの利用者数はどう推移していったのかを見ていきます。
2.ビットコインの価格推移とBitMEXの利用者数の推移
SimilarWebの公開データから取ったBitMEXの「合計訪問者数」(月別・橙のエリア)とビットコイン価格(日別・赤の折れ線)を時系列グラフにしました。期間は左から右へビットコイン価格がズルズル下げだした2019年9月から、執筆時点で直近の2020月6月末までです。
実際の利用者数を示すものではありませんが、この「合計訪問者数」を便宜的にBitMEXの大まかな利用者数を示す指標として扱いたいと思います。
グラフではビットコイン価格の日足終値(赤色)と重ねて比較しています。合計訪問者数は月別のデータなのでグラフ上では月末に橙の●で示しました。単位はmillion(100万)です。また、うっすら斜め線がかかっているのはグラフの機能で表示したトレンドラインです。
ここでは以下のことが見えてきます。
- 2019年9月〜12月は、ビットコイン価格の下落と一緒にMEX利用者も減少
- 2020年1月〜2月は、ビットコイン価格の回復とともにMEX利用者数が増加
- 2020年3月の大暴落時は、MEX利用者数がピーク。みんな固唾を飲んで画面に張り付いていたようです…
- 2020年3月の大暴落後の4月はMEX利用者数が激減(約4割の減少)
- 執筆時点で直近の2020年6月は当該データ期間で最低の利用者数を記録
- 価格のトレンドラインに対して利用者数のライン右肩下がりですね…
個人的な感想としては
MEXを使っている層、価格に左右され過ぎやろ…メンヘラァ…
やっぱ2020年3月の暴落以降はMEX使う人減ってるよね…
という感じです。特に6月の利用者数が少ないのは5月から日本人の新規取引を止めたのも影響ありそうですね。ここは国別トラフィックのところで少し触れたいと思います。
3.BitMEXの未決済建玉と出来高
BitMEXの利用者数(を大まかに示す指標)が暴落後に減少傾向であることは上記の数字やグラフを見る限り合っていそうです。
では、BitMEXはもはやデリバティブ取引所のトップではないのか?衰退してしまったのか?というと案外そうでもなさそうな数字があります。取引所毎のOI、つまり未決済建玉(Open Interest)です。
取引所の利用者が今どれくらいポジションを持っているか?を表す指標ですが、とりあえずここでは「多ければみんながこぞってポジションを取っており、少なければ相場参加者が少ない」くらいの感覚でOKです。ただし、ドル建てのデータなのでビットコイン自体の価格が大きく上下するとそれに連動してOIも大きく動く点には注意が必要です。
では執筆時点(2020年7月11日)で最新のデータを見ていきます。
上記は分析サイトのbybt(某取引所の名前に似てるの紛らわしい…)から引用した各取引所のOIの合計値です。合計なので無期限や四半期の先物など全てを含みます。MEXならXBTUSD、XBTU20...などのOIの合計ということですね。
こちらを見るとBitMEXがまだ首位をキープしており、その後にOKex、Huobi、Binance Futures、CME、Bybit、Deribit、FTXと続きます。
取引所ごとに先物の品揃えが微妙に違うのでOI合計値の比較を見て「〇〇はXXだ!」と言うのは難しいですが「BitMEX利用者数は減ったが、凋落したわけではなくまだまだデリバティブ取引所の中で大きなシェアを占めている」と考えて良いでしょう。
ただ、3月以降のOIを時系列で同じくbybtで見ると「単独でトップの状態から利用者が減って2位以降に肩を並べられてしまった」という表現が最も適切かなと感じます。
上記でもBitMEX(紫)とOKex(緑)が3月以降に激しい首位争いを繰り広げているのがわかります。Binance Futures(赤)やBybit(青)もジワジワ数字を伸ばしています。どこもBitMEX以外は3月の暴落時の水準近くまで戻すか或いは上回っています。
単純に3月の暴落で多くの退場者が出て市場全体の参加者が減ったからBitMEXの利用者数も減った…とは言えなさそうです。
また、シンプルに24時間出来高で見るとすでにBitMEXはこれらの取引所の中で3位です。大口のヘッジ用長期ポジション等は残っているのでOIは多いが、それほど活発に取引されていないため他の取引所に出来高で負け始めている、という印象を受けます。
MMばかりでTakerがいねー、という意見も耳にします。
てかHuobiいつの間にこんなに出来高あんのかよ! マジで?(素
本記事タイトルは「BitMEXが2020年3月のビットコイン大暴落以降に本当に衰退したか?を数字で見る」ですが、それに対する答えとしては「衰退の定義にもよるが、数字で見ると3月以降は利用者も建玉も減って他の取引所に徐々に追いつかれており、特に出来高はそれが顕著で他の取引所の後塵を拝し始めている」と言えるのではないかと思います。
長くなってきたので本記事は一旦ここで区切って、次回はBitMEXの国別トラフィックで大きな割合を占める韓国のシェアを数字で見ていきたいと思います。