NostrクライアントのLN組み込み方法4-L402-

どうも、「NostrはLNがWeb統合されマネーのインターネットプロトコルとしてのビットコインが本気出す具体行動のショーケースと見做せばOK」です、こんばんは。

またまた実験的な試みがNostrで行われているのでレポートします。本シリーズはライブ感を重視しており、例によって(?)プルリクエストなどはレビュー段階なのでご承知おきください。

今回の主役はあくまでLightningNetworkの新提案(ただし以前からあるLSATからのリブランディング)となるLightning HTTP 402 Protocol(略称: L402)です。そのショーケースの一つとしてNostrが活用されているというものになります。

Lightning HTTP 402 Protocol(略称: L402)とは何か

bLIPに今月挙がったプロポーザル内容です。

L402について私はまだ完全に理解した段階ではあるのですがなんとか一言で説明しようとすると「Authトークンのように"Paid"トークンをHTTPヘッダーにアタッチして有料リソースへのHTTPリクエストの受け入れ判断を行えるようにする」ものだと解釈しました。

Authenticationでは、HTTPヘッダーにAuthトークンを添付し、その検証が通ればHTTPリクエストを許可し、通らなければ401 Unauthorizedコードをエラーとして返すように定められています。https://developer.mozilla.org/ja/docs/Web/HTTP/Status/401

L402では、同じように、HTTPヘッダーに支払い済みかどうかを示す"Paid"トークンを添付し、その検証が通ればHTTPリクエストを許可し、通らなければ402 Payment Requiredコードをエラーとして返すようにしています。

なお、"Paid"トークンという用語は私の造語となります。便宜上本記事では使わせていただきますが、実際はAuthも入ってくるのが必至ですし、プルリクエストでも用語をどう定めるかは議論になっていることをご承知おきください。("API key", "credentials", "token", らが登場しています)

この402ステータスコードは従来から定義されていましたが、MDNのドキュメントでも記載されているように「実験的」なものでした。つまり、器は用意されているがこれまで活用されてこなかったものとなり、本プロトコルの物語性を体現しているものとなります。
https://developer.mozilla.org/ja/docs/Web/HTTP/Status/402

幻であったHTTPステータスコード402 Payment Requiredを実装する

この物語性は、上述のbLIPのスペックにも詳述されていますが、以下のスライドが簡潔です。402 Payment Requiredは予約されていましたが、けっきょくのところWorldWideWebはペイメントプロトコルを実装しなかったので、Bitcoinの登場まで待つことになった、というのが要旨になります。このWorldWideWebにおける決済機能実装に関する歴史話はクリプト界隈でもたびたび話題に上がりますが、そこを繋いでくる文脈にこれこそマネーのインターネットプロトコルだなと痺れました。

この"Paid"トークンによって実現できることとして、第一にAIエージェントがBitcoin/LNを自律的に利用できるようになるM2M(MachineToMachine)的な話が挙げられていますが、ユースケースは想像力がいろいろ要るところです。実際のところは「有料リソースへの認可」を可能にすることが主になると理解しました。本連載では、繰り返しNostrクライアントにLNプロトコルを直接搭載せずにLightningNetworkを利用可能にする組み込み方法を見てきましたが、本件もインボイス文字列 & preimage程度の露出になりアプリケーション側でノードやウォレットの実装が要らないので、その文脈で位置付ける解釈もできるかと思います。

Snortでのサンプル実装

LN組み込み業界のリーディングプロダクトであるSnortのサンプル実装では、L402を有料コンテンツの購読に活用しています。具体的には画像や動画を投稿するときに有料のロックをかける、いわゆるペイウォールの一種となります。もともとアップローダもSnortが自前で用意しているので、そこにL402を組み込んでみたということのようです。

体験方法の詳細はこちらにあります。

上記を試してみた結果が以下になります。まず、ペイウォールでロックした画像がNostrに投稿されている状態です。まったくビューワーが実装されておらず、ただのNotFound状態になっていますが、支払い前なのでロックされているということです。

次にこのHTTP通信の内容です。

通信自体はエラーになっているわけですが、ステータスコードが402で、レスポンスヘッダーのWWW-AuthenticateにInvoice文字列が返ってきています。つまり、このインボイスを支払えば"Paid"トークンが付与されて、その"Paid"トークンがあれば最初の画像がアンロックされることとなります。残念ながら現在は日本で利用不可のStrikeAppでしか払込みができないためここまでとなりますが、本懐である402 Payment Requiredとインボイス文字列は確認できました。

今確認できることは以上ですが、AmethystやDamusなどの他のNostrクライアントが実装するにあたり、インラインメディアを巡ってL402の仕様をアップデートする必要性や同じくHTTPヘッダーへのAuthトークンとなるNIP-98と組み合わせるなどの議論が行われている最中です。

LinghtningNetworkであるからこそのL402の実現

"Paid"トークンを実現するためにはLightningNetworkのファイナリティが重要な要素となっています。逆に言うと、reorgによるひっくり返しがあり得るBitcoinではできなくもないけど不便なわけです。LightningNetworkなら、当事者である二者間で支払いが確認されたら「同期的」にその証であるハッシュ値を用いて"Paid"トークンを作成することができます。しかもハッシュ値を提出するだけで台帳などで過去の履歴を確認する必要がありません。加えて言うと、受金者側が複数のノードを建てていて支払いを受け取るノードがどれか一つになる状況でも、つまり、スケーリングされている状況でも、"Paid"トークンそのものはどのノードかを気にすることなくステートレスで利用できるとのことです。(ここは単にreverse proxyとしてAuthサーバががんばっているだけと解釈することもできますがずいぶんこの機能にも力点を置いていて大規模なユースケースが重要になっているのだなという印象を抱きました)

Macaroonの本領発揮か?それとも詳細定義しすぎか?

HTTP通信ではWWW-Authenticateの実値にmacaroonの記述が確認できます。また現在のL402スペックでも"Paid"トークンにはmacaroonの利用が前提になっています。

このmacaroonとは(たぶん)googleで研究開発され、LNDノードソフトウェアで活用されているCookieを超えるという触れ込みのデータストアになります。しかし、あまり普及しなかった技術でもあり、個人の感想ですがなんとも微妙なものになっています。

macaroonの強みは、Cookieを超えるという触れ込みのようにブラウザが無くてもプロセス間通信でデータ共有できる点に加えて、HMACチェーンで動的に認証認可を更新し続けられるところが挙げられます。しかし、そのようなユースケースがあまり無く、静的な認可となるOAuthやJWTで十分となっているのが現状かと思います。

L402では、macaroonの動的な更新が可能である点を活かして、"Paid"トークンを更新するケースが挙げられています。わかりやすいのは上記のスライド資料でも挙げられている"Dynamic Pricing"でしょうか。プロポーザルではloop©️LightningLabsにおいて月間の最大取引量を認可する"Paid"トークンを発行した上でその条件を動向に応じて動的に変更できる例が解説されています。とはいえ、そんなことしなくても再発行すればええやんけという話もなくもないですし、プルリクエストでも仕様レベルでmacaroonを指定するのは「具体」が過ぎるのではないか、もっと「抽象」し単なる"Opaque Token"程度の粒度にして他の実装も許容するべきではないか、という然るべきツッコミが入っています。

個人的にはそのツッコミが妥当と思いつつも、なんだかんだ初めてmacaroonの良さを実感できて感心した次第です。

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