LNの料金市場の適正水準を整理する

LNの手数料の適正水準はどう見積もったらいいだろうか?ルーティングノードの収益性を算出するためにはどうアプローチすればよいだろうか?参考になりそうな数値や計算式を整理する。

個人的な感想を先に書くと以下となる。

  • 現在の手数料市場は収益性が低くもっと手数料が上がった方が健全である。
  • 他の決済手段と比較すると、LN支払い料金は10000ppm(手数料1%相当)でも十分ではないか。5ホップとすると中間1ノードあたり2500ppmである。
  • ルーティングノードの収益性を考えると、1000ppmあれば1BTC程度の資金で年利2.8%になり半年で初期費用回収できるので十分な投資対象になると考える。

基本概念の整理


LNの料金方式

  • LNの手数料は送金額に応じた料率方式が主になる。(基本料金の設定もあるが1 ~ 0 satsが大半)
  • 料率単位のppm(parts per million)は、1,000,000satsを送るときの手数料をsats金額で示したもの。
  • %での手数料率に変換すると1000ppm = 0.1%になる。
  • 支払い者が払う手数料はルーティングに参加した各ノードの手数料の合計である。本稿では5ホップ(経由ノードは4つ)のルーティングがあるとすれば、各ノードの取り分は単純計算で1/4とみなす。
  • ルーティングノードの収益はアウトバウンドフローで発生するのでアウトバウンドキャパシティが直接的な収益資源となる。

LNの料金以外のベネフィット

本稿では料金比較だけを行うが実際の決済検討では以下のような料金以外の効用も忘れてはならない。

  • Bitcoin(L1)に比べると、料金の安さだけでなく、即時確定やトランザクション量のスケールという利点がある。
  • クレジットカードなどの集権サービスと比較した特徴はBitcoin(L1)とだいたい同じである。
    • 24時間365日利用できる
    • 誰でも自由に使える
    • 信頼する第三者に対する加盟や審査や手数料率などの交渉手続きが要らない
    • 検閲がなく匿名性が高い
  • 逆にデメリットはオンライン前提がゆえの利用の不便さやセキュリティ面の不安さなどが挙げられる。

現在の料金相場

  • ルーティングノードの料金設定
    • sinkノードとのチャネルは500 ~ 1000ppmが多い。
    • routing/sourceノードとのチャネルは0 ~ 100ppmあたりのレンジになる。
    • リバランスする場合もsinkで収益を上げているならsink以下になるのが道理である。
  • プロダクト/サービスのバックエンドにいるノードの料金設定
    • sinkやsourceに相当するものは上記の通り。 
    • 1000〜5000ppmあたりで一律同じ設定というノードもよく見かける。
    • ビジネスモデル次第で千差万別だがアクティブと思われるノードでそれ以上はあまり見かけない。
  • 上記は1ノードあたりの料金になる。支払い全体では経由したノードの合計になる。

料金目安

いくつかの方法で参考数字を出していく。LN料金算出は「支払い全体/3ホップしたときの1ノードあたり/5ホップしたときの1ノードあたり」の三段階で出す。

類推方式

決済代行業者との比較

  • Squareの加盟店手数料は、日本3.25%、アメリカ2.60%である。
  • 参考資料 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/cashless_payment/pdf/20220318_1.pdf

3.25%とするとLNでは「支払い全体/3ホップしたときの1ノードあたり/5ホップしたときの1ノードあたり」でそれぞれ32,500ppm/16,250ppm/8,125ppmになる。

スマホのアプリストアとの比較

15%とするとLNでは「支払い全体/3ホップしたときの1ノードあたり/5ホップしたときの1ノードあたり」でそれぞれ150,000ppm/75,000ppm/37,500ppmになる。

Bitcoin(L1)との比較

Bitcoin(L1)は送金額が異なっても手数料がほぼ同じため、従量課金のLNと単純比較はできない。そのためここではLNの方が料金がお得になる目安を出す。

Bitcoin(L1)の手数料設定
L1相場が1sat/byteの時にLNの方がお得なライン
  • 100ppmなら、0.0222BTC(2,220,000sats)まで
  • 1000ppmなら、0.00222BTC(222,000sats)まで
L1相場が10sat/byteの時にLNの方がお得なライン
  • 100ppmなら、0.222BTC(22,200,000sats)まで
  • 1000ppmなら、0.0222BTC(2,220,000sats)まで
L1相場が100sat/byteの時にLNの方がお得なライン
  • 100ppmなら、2.22BTC(222,000,000sats)まで
  • 1000ppmなら、0.222BTC(22,200,000sats)まで

コスト積み上げ方式

ルーティングノードの原価から損益分岐点となるppmを算出する。事業者ではなく個人を想定し、クラウドではなくラズベリーパイでのノード構築環境で計算する。

費用明細

  • BTC市場価格 1sat = 0.03円(1BTC = 3百万円)
初期費用
  • ハードウェア一式 40,000円
    • Raspberry Pi 4 8GB
    • SSD 1TB
    • 外付けディスプレイ
  • チャネル開設のオンチェーン手数料 6.69円/チャネル  
    • 開設料 223sats
    • 223sats * BTC市場価格0.03円 = 6.69円
固定費用
  • 電気代 291.6円/月  
    • 時間あたりの電力量 0.015kWh 
      • Raspberry Pi 4 電圧5V、推奨電源容量3.0A
      • https://www.raspberrypi.com/documentation/computers/raspberry-pi.html#power-supply
    • kWh単価27円
    • 0.015kWh * kWh単価27円 * 1ヶ月の時間720h = 291.6円

損益分岐点

  • 月あたりの電気代を上回るために9,720sats(291.6円)/月以上の収益が必要である。
  • ハードウェア費用回収のために0.01333333BTC(133万sats) = 40,000円の収益が必要である。

費用回収シナリオ例

アウトバウンドキャパに1BTCをデポジットしたAさんを例にする。1BTCは初心者とは言えないと思うが、このくらい数字を上げないと費用回収の話がしづらいという裏事情がある。ノード運用次第であることは言うまでもないので今回は要素や式を洗い出すことが主目的で一つ一つの変数の値は参考までに。

変数設定
  • インバウンドを同額用意して合計キャパを2BTCとする。
  • 1チャネルあたり5m satsで40チャネル開設する。
  • チャネル開設費用 223sats * 40チャネル = 8,920sats
  • 初期費用合計 1,333,333sats + 8,920sats = 1,342,253sats
  • 一回あたり平均ルーティング量 = 100,000sats
  • 1チャネルあたり平均アウトバウンド数/日 = 2
  • 1チャネルあたり平均アウトバウンドppm = 50
費用回収地点
  • 1日のアウトバウンド量は、 40チャネル * 2本 * 100,000sats = 8m sats
  • 手数料収入は、8m sats * 0.005%(50ppm) = 400sats/日。月換算すると12,000sats/月
  • 電気代を差し引くと、12,000sats - 電気代9,720sats =月収益2,280sats(68.4円)
  • 初期費用回収まで、1,342,253sats / 2,280sats = 589ヵ月(49年)
  • 後述するが電気代差引き前で年利0.14%になる。

理想的なppm

6ヵ月での初期費用回収を目的にしてアウトバウンドppmを求める。

  • ひと月あたり、初期費用合計1,342,253sats / 6ヵ月 + 電気代9,720sats = 233,429sats(7,003円)の収益が必要。
  • 1日あたり、7,781sats(233円)の収益
  • その場合の平均アウトバウンドppmは、 7,781sats(1日の収益量) / 8m sats(1日のアウトバウンド量) * 1m sats(ppm変換係数) = 973ppm

他のファイナンスとの比較

ルーティングノードを運用して手数料収入を得ることは資産運用と捉えることもできる。レンディングやトレードなどの他の資産運用手段とパフォーマンス比較をするなら、デポジットしたアウトバウンドキャパシティに対する手数料収入をAPY換算する。(獲得した手数料はアウトバウンドキャパシティに積み重ねられるので複利と見做せる)

例としてLNDg(v1.3.1)のAPY算出計算式を転載する。見ての通り画面上の表記はAPYなのに中身はAPRになっているので注意だが今回は考え方の参考としてこのまま採用する。

年換算 = 365 / 7 = 52.142857
年利 = (7dayの収益 * 年換算) / アウトバウンドのキャパシティ

例えば上記のAさんの費用回収シナリオに当てはめると以下となる。

年利 0.14% = (400sats * 7日 * 年換算)/ 100m sats

電気代を差し引くと 76sats/日となり年利0.027%

もし平均アウトバウンド1000ppmになると8,000sats/日なので年利2.9%になる。 この場合、電気代はほぼ1日で回収されるため差し引いても大差なく7,676sats/日で年利2.8%になる。

考察

以上、BTC市場価格や一日のアウトバウンド量といった重要な数値をいくつか仮置きした上ではあるが、LN手数料の適正水準を考えるための参考材料を提示した。

まず、現在のLNの料金相場は他の決済手段から比べると圧倒的に安いことがわかった。1%でも競争力が十分ありそうなのに0.1%前後で送金することが大半である。

健全な市場発展のためには、ルーティングノードの採算が取れていることが欠かせないと考えるが、残念ながら現在の収益性は低い。ルーティングノードの収益性は仮定に仮定を重ねた見積もりになるが、平均アウトバウンドが1000ppmでようやく個人でも参入できるレベルになるという結論になった。ルーティングノードの立場に立つと、現在の市場平均から大幅な上昇が必要だと考える。

手数料市場は競争のためつねに下方圧力がかかっていて仕様上で可能な0に近づいている。この重力に逆らうためには、1. 需要 > 供給のバランスになること、2. 事業用途での高額買取のチャネルが増えること、の2つの観点を挙げる。1にせよ2にせよネットワークの活用が進むことで発生し、手数料市場の大きな変動機会になるのではないか。他の決済手段と比較すれば10000ppm、1チャネル2500ppmあたりまでは十分に健全な範囲だと考える。

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