Pepecash 〜1匹のカエルの数奇な物語〜
kojisan 氏の さらばPepecash ~Pepecashの歴史を振り返る in 2020~ を読んで、Pepecashに興味を持っていろいろ調べたのでまとめました。
はじめに
Rare Pepe CardというCounterparty上のトークンで表されたPepe(カエル)の絵柄が書かれたカードがあり、Pepe Cashというのはそのカードの一種です。Rare Pepe Cardは種類ごとに発行量が違うのですが、Pepe CashはRare Pepe Cardの経済圏で用いられる通貨として、大量に発行されました(What is PepeCash)。
ではRare Pepe、あるいはPepeとは何なのか。
歴史をさかのぼっていくと、Pepeと呼ばれるカエルの絵がネットで人気になり、やがて「人々がeBayでカエルの画像データをRare Pepeと呼んで高値で売買する」という文化が登場、人々はコピーを防ぐことに苦労しながら画像データを交換していた、あるいは価値の高い画像が無料で共有されてしまう価格破壊テロのような事件が発生していたようです。
つまり、CounterpartyTokenで実現されたRare Pepe Cardは、人々がRare Pepeという画像データを売買している現実に存在していた価値を持つデジタルデータの所有や交換の課題を、ブロックチェーン技術を使って解決した例と言えるのではないでしょうか。
また、カエルのPepeは、SNSで最もシェアされた画像になっていたり、Rare Pepe Cardとしてブロックチェーン上でトークンになったり、クリントン氏に差別の象徴と言われてしまったり、オリジナルの作者に殺されたり(!)、なかなか激しい人生を送っています。
Zaifで上場が廃止されたPepecashですが、Pepeというカエルが何者なのかも含めて、いま改めてその面白さを紹介できればと思います。
スライドでまとめていたのでスライドの画像を貼り付けながら書いていきます。
ぺぺとは
さて、画像の緑のカエルがPepeです。Pepeとは何者でしょう。
PepeはBoy's Clubという漫画に登場するカエルのキャラクターです。
書籍化は2016年ですが、最初は2005年に、作者Matt FurieのMySpaceのブログにデビューしたようです。
インターネット・ミームになったぺぺ
漫画の中で、Pepeがトイレでおしっこをするときにズボンを膝の下までおろすシーンがあります。
Pepeがそのことについて、「feels good man(気持ちいい)」と言った一コマが、インターネットミーム(インターネットの中で流行する画像や言い回し)になっていきました。
ちなみに、トイレでおしっこをするときにズボンを膝の下までおろしているモデルは、Boy's Clubの作者であるMatt Furieのいとこだそうです。
私のいとこは、子供の頃、小学校に一緒に通っていたんだけど、公衆トイレに入った時に、彼がパンツを下まで引っ張っておしっこをするんだけど、私はそれが面白いと思ったんだ。それから彼は公共の場でやってたけど、私たちはまだ子供だったからね。漫画の登場人物の年齢は知らないけど、10代から20代くらいの人たちだと思う。
SNSで最もシェアされたミームに
Pepeは「feels good man」の他にも画像が作成されて利用されるようになっていきました。2008年に「feels good man」が使われ初めてから、2015年にはTumblrで最もリブログされたミームになりました。
Rare Pepe
トレーディングカードのようにPepeの画像が交換され始める
Pepeの画像がインターネットミームとして流行る中で、2014年には、あまり出回っていない(あまり使われていない珍しいものや、新たに作成されたオリジナルの)Pepeの画像がRare Pepeと呼ばれはじめ、ユーザーたちがトレーディングカードのように共有し始めました。
コピーされないようにウォーターマークをつけて自分が持っているRarePepeを投稿する者もいたようです。
売買されはじめた「Rare Pepe」
Rare Pepeはお金で取引されるようになり、e-Bayに出品されて($99,166といった)高値がついたそうです。また、「価値を崩壊させる」として、大量の“Rare Pepe”画像のコレクションを公開する者も現れました。
Rare Pepe Card
Counterparty上でトークン化されたRare Pepe Cardの登場
そんな中で、Rare PepeをCounterparty上でトークン化し、ブロックチェーン上のデジタルな資産としてレアペペを所有し、取引できるようにしようとする者が現れました。
トークンで表され、発行量が固定されたRare Pepeは、ウォーターマークを入れなくても盗まれず、コピーが大量に出回る恐れもありません。Rare Pepeの真の所有者はトークンを持っている人だけです。
Mike
Rare Pepe Cardを最初に作ったのは、Telegramの「Counterparty XCP」グループにいたMikeという人物です。次のスクリーンショットは、Pepeのカードの絵柄と紐付けられたRare Pepe CardのトークンをCounterparty上で発行したことをMikeが報告したときの投稿です。
Rare Pepe Cardはゲーム用途ではない、「それ自体の所有と交換が目的」である初のアート作品か
Counterparty上でアセットをトークン化する試みは、Rare Pepeよりも前から存在していました。「Spells of Genesis」はその一例です。Spells of Genesisでは、ゲーム内で手に入れたアイテムをブロックチェーン上の資産として所有することができました。
「Spells of Genesis」の他にも、ゲームに関連したアセットはすでにいくつか存在していました。FDCARD、Sarutobi、Force Of Willなどです。
しかし、これらのすでに存在していたアセットとは異なり、Rare Pepeは登場時点で、ゲームの世界の中で利用することを目的としたアイテムではありませんでした。
作品の所有と交換自体を目的としたブロックチェーン上のアート作品として初めてのものではないかと言われています。
Rare Pepe Wallet、Rare Pepe Directory
トークン化されたRarePepeは、ブロックチェーン上では名前と数量しか持たないため、所有しているRare Pepeトークンを可視化するために(あるいは簡単にRare Pepeのトークンを操作できるように)、専用のウォレットが用意されました。
発行されたすべてのRare Pepeを閲覧することができるRare Pepe Directoryというサイトも登場しました。
Rare Pepe経済圏の通貨となる、発行量が多いRare Pepe Card、「Pepecash」の登場
そして、2016年9月18日にはPEPECASHというRare Pepe Cardが登場した。これは沢山の種類のRare Pepeカードのうちの1種類でありながら、他のRare Pepeと比べて発行量がとても多く、Rare Pepe経済圏の通貨にしようというものでした。
10月末にはTelegramにて、当時のZaifの朝山社長がPEPECASHの上場を宣言していたようです。そして、2017年1月13日には実際にZaifにPEPECASHが上場しました。
この頃はまだ仮想通貨交換業を定めた資金決済法は施行されておらず、上場する通貨について金融庁による審査はありませんでした(おそらく自主規制団体による審査もなかった)。
誰でも新しいRare Pepe Cardを投稿することができた
さて、Rare Pepe Wallet、Rare Pepe Directory、Pepecashの登場まで説明できたので、もうひとつRare Pepe Cardの面白い点を紹介することができます。
従来から存在したゲームアイテムのトークンなどとは異なるRare Pepeの特徴のうちの一つに、誰でもRare Pepeを投稿できるということがあります。
自分でトークンを発行し、200 PEPECASHで申請すると、Rare Pepe Directoryに登録され、Rare Pepe Walletでトレードできるようになりました。
投稿の方法は Submit Your Rare Pepe で確認できます。なお、残念ながら現在は新規投稿はできなくなっています。
200 PEPECASHの審査を必要としたのは、主にスパム対策と、それからNot safe for work(職場では見ない方がいい、フォーマルな場には不適切)なコンテンツを禁止することが目的だったようです。
Rare Pepe Walletの開発者であるJoe Looneyは“人のアートを判断して、これは良いアートで、これは悪いアートだと言っているわけではありません。”と述べています。
NFTの先駆けとなる「発行量が1枚だけ」のRare Pepe Card
Rare Pepeがさらに興味深いのは、たった1枚だけ発行されたRare Pepeが何種類か(A Connoisseur's Guide To The Unique Single Issuance Rare Pepes - Rare Pepe News によると、7種類)存在することです。
これは、ERC721のような、この世で唯一のデジタルなアセットを表すNon-Fungible Tokenと言えるでしょう。最初に発行量が1枚で発行されたONLYONEPEPEの発行日は2016年9月25日です。
ちなみに、ERC-721のDraftが提案されたのはそのおよそ1年後の2017年9月20日、ERC-721が初めて実装されたCryptoKittiesの誕生はさらにその2ヶ月後の11月28日です。
ユニークなRare Pepeには高い価値が付き、例えばHOMER PEPEは2018年1月13日に開催された Rare Digital Art Festival のオークションにて39,000ドルで落札されました。
Rare Pepe Cardの衰退
かなり盛り上がったRare Pepe Cardでしたが、2018年3月には新しいRare Pepeの提出受付が停止されました。
Rare Pepe Cardを作る前後のMikeがCounterpartyのTelegramに投げかけた質問に答えていたり、自分自身のRare Pepeまで発行されていたりもする kojisan 氏は、Pepeの衰退理由について、さらばPepecash ~Pepecashの歴史を振り返る in 2020~ の中で以下を挙げています。
- ビットコイントランザクション手数料が高騰し、数円だった取引手数料が数百円程度にまでなったことでトレードが難しくなっていったこと
- 参加者が増加するなかで、“いい意味での粗さやうさん臭さ、Dankさが抜けていき、どちらかと言えば似たりよったりの大量生産型のイラストが増えてきた”こと
- カードに価値がついたことで利益目的の利用者やいやらしい転売行為が増えたこと
- 関連ツールの開発が減速していったこと
2020年4月30日には、ついにZaifでの上場は廃止されました。
pepeのもう一つの物語
さて、ここからはカエルのPepeのもう一つの物語を見てみましょう。
これらの出来事は、トークン化されたRare Pepe Cardの物語とほぼ並行して現実の世界で起こっていたことです。
Rare Pepe Cardの登場と時を同じくしてPepeは「ヘイトのシンボル」に
Pepeの沢山のミームが生まれていく中で、2016年の大統領選の時期には、人種差別的な言葉やナチスのシンボルなどとともに使われ始め、Pepeは次第に白人至上主義者やオルタナ右翼の象徴とされるようになっていきました。
大統領選の中で、トランプ氏やその息子、そしてトランプ氏の支持者らにPepeが利用されました。
トランプ氏の対立候補、ヒラリー・クリントンからは、ぺぺは白人至上主義のシンボルだと言われてしまいます。これはMikeがRare Pepe CardをTelegramに投稿した3日後だったとJoe Looneyは言っています。
そして、9月27日には名誉毀損防止同盟(ADL)のデータベースに
ヘイトの象徴として登録されてしまいました。
#SavePepe 運動
実は名誉毀損防止同盟(ADL)にPepeをヘイトのシンボルに登録するよう訴えたのはPepeの生みの親であるMatt Furieでした。
Pepeがヘイトの象徴として登録されたあと、10月14日に、Matt Furieと名誉毀損防止同盟(ADL)は、ソーシャルメディアでの #SavePepe キャンペーンを開始しました。
ハッシュタグ #SavePepe にはポジティブなPepeのミームがシェアされました。
ペペの死
しかしながら、 #SavePepe キャンペーンはなかなか功を奏せず、とうとうMatt FurieによってPepeの死が描かれるに至りました。
https://gigazine.net/news/20170509-pepe-the-frog/
Matt Furieは、2017年のFree Comic Book Day(北米のコミックブック業界が5月の第一土曜日に行うプロモーション)にFantagraphics(出版社)が提供したWorlds-Greatest-Cartoonists(Kindleで無料で読めます)へ1ページの漫画を掲載し、その中でPepeを安らかに眠らせました。
https://thenib.com/rest-in-peace-pepe/
Matt Furieは自身のTumblrに、ニュース記事へのリンクとともにPepeが棺に入った一コマの画像を掲載しました。
リンク先のニュース記事はこう締めくくられています。
ペペの公式な死によって過激派がペペのイメージを利用するのを止めることはできないだろうが、これはおそらく、Furieが彼のキャラクターを取り戻すための最も効果的な方法であっただろう。
https://www.cbr.com/pepe-frog-creator-kills-white-supremacist-icon/
ぺぺのその後
復活へ
Matt Furieはその後もPepeを捨ててはいないようです。
「(Pepeは)憎しみのマスコットになった。言うまでもなく、それは悪夢なので、私は彼を殺した。でも今は彼を復活させたいと思っている。そして、復活したペペを祝う新しい作品を作るために、皆さんのご協力をお願いしたい。」として、2017年6月27日、KickstarterでSave Pepeプロジェクトを立ち上げています。
(https://www.kickstarter.com/projects/615106574/save-pepe/description 内の動画に登場するMatt Furie)
「Pepeを取り返す」成果が出始める
また、裁判によって、ヘイトにぺぺを使用していたWebサイトや団体から、Pepeを取り返す活動も功を奏し始めています。
新たな活躍を見せるPepe
2016年の大統領選挙に絡んで人種差別的に用いられたPepeでしたが、2019年には、香港民主化運動の中で利用されました。
このことについて、Matt Furieは「人々のためのPepeだ!」と歓迎しているようです。
終わりに
以上、Pepecash、Rare Pepe Card、Pepeとは何なのかについてでした。
Rare Pepe Card、手に入れてみたくなりましたか?
私はなりました。とくにこの世に1枚しか存在しないRare Pepe Cardとか。
私が仮想通貨を触り始めたのは2017年で、Pepecashは「聞いたことはあるけどなんだかよくわからないクラスタの間で盛り上がってるやつ」みたいなイメージでした。何もわかっていない間にこんなドラマが繰り広げられていて、リアルタイムに楽しめなかったことが惜しいです。
Rare Pepe Cardの中には、まだ私は実物を確認できていませんが、“Access Token”と呼ばれる、ボーナスコンテンツにアクセスできるようになるRare Pepe Cardというのも存在するようです。
また、最初は、「これがこのカードなんだというお約束」によってのみカードの絵柄とトークンは紐付けられていましたが、途中からカードの画像データのハッシュ値もブロックチェーンに記録され、トークンとカードの絵柄の紐付けが行われるようになったそうです。
Rare Pepe Card、まだまだ掘り返していくと、歴史に記録すべき面白い現象がたくさん起きていたのではないかと思います。
まだまだ深堀りしたいと思いつつ、総額1Bitcoin プレゼントキャンペーン第2弾 に応募したいので、ひとまず今回はこのへんで、一旦投稿したいと思います。
もし、Pepecashやそのコミュニティで起きた歴史に書き残すべき興味深いことをご存知の方がいたら、ぜひ教えて下さい。
この記事の有料コンテンツは特に有りませんが、購入したり投げ銭したりしていただくと、Pepecashの歴史調査に溶けた私のゴールデンウィークが報われます。