さらばPepecash ~Pepecashの歴史を振り返る in 2020~
先日ついにZaifでPepecashの取扱いが廃止されました。個人的にはPepecashには思い入れがあるので残念な気もしますが、逆に今まで一応律儀に取り扱われ続けていたのがむしろ奇跡と言えるでしょう(取引高は超低空飛行でしたが)
さて、そもそもPepecashって一体何なの?という人もいると思います。もしくは鮮明に覚えていてすごい懐かしいという人もいるかもしれないですが、この機会にPepecashって結局何だったの?何か意味があったの?という話を振り返り、Pepeへのレクイエムにしようと思います。
ちなみに自分は今も結構な数のPepeカードとPepecashをどこかのウォレットに置いてあると思いますし、Fiat換算すると今の時価で一体どれくらいの金額をPepeに使ったんだろう、と思うとちょっとぞっとする気もしますが、朗らかに考えないようにしています笑ZaifのPepecash退場と共に自分も甘んじて沈んでいこうと思います…。
Rarepepeの始まり
最初から最期まできちんと説明すると長くなるので大胆に省略しつつ自分の記憶ベースで書いて行きます。
元々のPepeのカエルのキャラクターは、確かフランスの某漫画の中の一キャラクターだったと思います。それがどういう流れでそうなたっかは知らないですが、トランプ大統領選の時に政治的風刺画のような形で使われ始め、アメリカでこのカエルのイラストが大流行しました。まあよくある趣味の悪いイラストをベースにしたアメリカ的皮肉みたいな感じですね。日本人的にはよくわからない一種のアメリカンジョークとでも思いましょう。
それとは別に、2014年くらいからゲームアイテムのブロックチェーン上でのトークン化というコンセプトが存在し、これもなつかしいSpells of Genesis(SoG)がゲームアイテムをCounterpartyというビットコイン上のトークンプロトコルで発行して、送受信、トレードする、という試みを進めていました。
そしてなぜか?そこにポテンシャルを感じたMikeという謎の人物が、2016年9月にみんなが書いたPepeのイラストをブロックチェーン上で発行して、希少性を持たせよう!という試みを始めます。まあ自分も何を言っているかよくわからないですが、そういうことです。
そしてそれがなぜか一部のクリプトコミュニティにウケだして、Rarepepeは予想外の謎の盛り上がりを見せ始めます。
最初は雑なコラ画像だったイラストがトークン化され、それがユーザー同士で交換され始め、値段がついていきます。クオリティの高い妙に洒落が効いた作品は「dank」とか言って勝手にみんなで喜んで盛り上がっている状態になりました。
自分は当時SoGも含めてカウンターパーティ上のトークンを扱えるモバイルウォレットの提供をしていたので、すぐにこの謎のRarepepe Telegramグループに誘われ入ってみましたが、あの当時の謎のエネルギーというかキモさというか、アーティストたちの謎の一体感と情熱に一瞬で惹きつけられました。気づいたら自分も「Super dank」とか言っている始末ですが、いまだにこのdankとは一体どういう定義なんだか実はよくわかっていないのです。
そして次第にこのPepeカードの生態系にふさわしい「Cash」が必要だ!とか言って、「Pepecash」と呼ばれる発行量がキャップされた新しいトークンが発行されます。ゴリゴリ中央集権万歳なプレマイン型の発行ですが、ノリでその後Pepecashはどんどんグループ内でばらまかれていって、たくさんの人の手に渡っていきます。
余談ですが、Pepecashの一部は当時Takaraという位置情報×トークンアプリ上でもばらまかれていました。ポケモンGoみたいなコンセプトで、実際の地図の特定の場所にトークンが落とされ、そこまで物理的に行くとトークンを拾える、というアプリなのですが、渋谷のハチ公前にも大量のPepecashが落とされていました。
たまたまその時SoGの創業者のShabanが日本に来ていて、彼がその落ちてた大量のPepecashを拾って「クソウケる」と二人で話していたのですが、そのPepecashの価値は価格がATHだった時には確か数百万円くらいまで膨れ上がっていた気がします。「お金は歩いて拾うもの」とか言っているスキャムみたいなものが確かありましたが、こういうケースも確かに世の中あるにはあるのです。
広がるコミュニティー
さてそんなこんなで気づいたら毎朝起きたらRarapepeのTelegramコミュニティーを覗いて一人楽しんでいるような状態に自分もなっていました。グループ内で謎に一緒に喜んで参加している「大の大人」たちは、現実世界で会ったら友達になれるのか怪しいくらい多分変なやつらなんですが、謎にクリエイティブなアイディアを持ち込んできたり、ウォレットや関連サイトなどのツールを作り始めるやつらが出てきます。
その中で発行枚数が極端に少ない、場合によっては一枚のみの発行というNon Fungible Token(NFT)の原型となるようなアイディアが出てきたり、一つのトークンを複数の用途やアプリケーション上で利用したり、集権的な取引所を通さないでDex(分散取引所)だけでもロングテールのブロックチェーン上のアセットで比較的活発な取引が発生し、価値がつく、などの現象、実験が進みました。
また、関連ツールも複数登場し、その中でも非常に出来が良かったウォレットがRarepepe Walletで、トークン系のWebウォレット、特にトークン化されたアートやゲームアイテムを扱う上では機能的にもUI的にもさりげなくすごく洗練され、使いやすいものでした。そう、元々はギャグで内輪ネタで盛り上がっていたものだったのですが、気づいたらちゃんとしたウォレットが作成されたり、Rarepepeはなぜか技術やコンセプトの実証の場になってきたのです。
また、当時自分はCounterpartyに対応したトークンウォレットの開発などに携わっていた為、「Pepeをトレードできるプラットフォームを提供している貢献者」として、Kojipepeというカードをユーザーに作ってもらいました笑100枚限定の激レアデジタルカードです!(誰も欲しくないと思うけど)
そしてそれくらいのタイミングで、Rarepepeに関する記事を日本語でも書いて紹介しました。
最初はまさか日本でもこの謎のミドリのカエルのアートを作ってみたい!という意味不明な?人たちはそんな多く無いだろうと思っていたのですが、気づいたらなぜかセンスに溢れる日本人クリプトアーティスト達の参戦が相次ぎ、一時期Pepeは日本風アート人気時代に突入します。
ちなみに今もRarepepeムーブメント中に作られた作品を閲覧できるRarepepe Directoryのウェブサイトは残っていますが、この黎明期から初期、中期から後期までの作風の変遷などはここら辺の経緯を思い出すと非常に面白いですね。ブロックチェーンアート史、というものが仮に存在するとしたらテストに出そうなやつです。
Rarepepeブームのクライマックス
そんなこんなでみんなのRarepepeへの謎の熱狂は数か月経っても継続し、参加者や界隈全体からの注目も増していきました。
Rarepepeアートのレベルもどんどん上がっていき、Pepeユーザーの間では3月27日に発行されたPepeのエッセンスを極限までミニマルに表現したModernpepeで最高潮に達した、と見る人が多いです(自分だけかもしれませんが笑)
またイラストだけでなく二次創作的にPepecashの曲などを作る人たちもいます。控えめに言ってアホですね笑(褒めてます)(「I love my Pepecash」、「All the bitches love me」)
また、その頃にZaifがPepecashを取引所に追加する、という斜め上の事態も起きました。今考えてもこれは金融庁真っ青というか爆笑な話の気もしますが、当時のコインの追加条件は非常に緩く、取引所が追加したければ勝手に追加すればいいみたいなものだったので、Pepecashは規制が本格化する前に滑り込みセーフを果たしたのでした。
当時Zaifの社長だった朝山さんとチャットで話していて、彼が「Pepecash追加しようかなー」と言っていて、いや、マジかよ笑、と思っていたら本当に追加してしまったのでさすがに自分も驚きました。が、その時はみんなでそれをワイワイ冷やかしたりネタとして盛り上がったりしている平和な時代でもありました。
当時「最近仕事何やってるの?」という質問を何も知らない友達にされたとしたら、「あー、何か色んな人が作った緑のカエルのイラストを、ブロックチェーン上で発行枚数が限られるコイン化して、それを集めたりトレードできるようなツール作ったりしてるんだよね。いやー、このイラストが結構イケてて、カードによっては何十万円とかでやり取りされるんだよね~、俺も結構買ったりしてるんだけどね~、haha」と言うしかないような状態だったのですが、冷静に考えなくても若干意味不明な話ではあります。ただ実際にそれが起きていることなので、現実の世界って中々奇特な人たちが結構多いんだな、とか一人で勝手に納得していたような記憶もあります。
また、Rarepepeムーブメントが最高潮に達しつつあった17年の3月に、今Rarapepeで起きていることはただのネタとしてだけではなく、実はかなり画期的なことが起きているんだよ、ということをより多くの人にアピールしようと思い、海外向けに記事も書きました。この記事もなぜか結構ウケて、Union Square Venturesという著名ベンチャーキャピタルのFred Wilsonにも記事が読まれ、彼がRarepepeグループにいきなり顔を出してみんなとカードを交換し始めたり、大いに盛り上がっていたのも覚えています。
ちなみにRarepepe開始からちょうど一年後の2017年10月にCryptokittiesがリリースされ、Ethereum上でのNFTトークンブームに火がつきました。それから数か月後、そのCryptokittiesの開発会社にUnion Square VenturesはAndreessen Horowitzと共同で合計12億円以上の投資を決めています。(あまりいい投資とも思えないですが…)
また、17年に入ってから日本のクリプトアーティストの間でRarepepeのコンセプトを軸に別の日本独自の方向性で創作したい、という声があり、Memorychainという界隈で起きた事件や人物などをテーマにしたイラスト作成などのスピンオフの動きも起こったりしました。
Pepeの衰退
さて少し早送りしますが、そんなPepeですが当初の勢いは段々維持できなくなって行き、少しづつ衰退していきます。
その理由の一つが、当時ビットコインコミュニティで大きな議論を巻き起こしていた「ブロックサイズ問題」です。Counterpartyはビットコイントランザクションに特殊なデータを入れこむことでトークンとして認識する仕組みになっているので、ビットコインのブロックチェーンが混雑をし始めるとトークンの移動やDex上の取引手数料も直接的に影響を受けます。
Rarepepeが生まれた16年年末くらいにはまだ数円程度だったトランザクション手数料は、ブロック容量の圧迫につられて次第に100円程度、悪い時は数百円以上まで高騰し、オンチェーン上でカードを配ったり、トレードしたりというモデルが段々苦しくなっていきました。
また、Pepeのイラストに関しても参加アーティストが増えていくにつれ、一時期のいい意味での粗さやうさん臭さ、Dankさが抜けていき、どちらかと言えば似たりよったりの大量生産型のイラストが増えてきた部分もあります。
さらに、当初は盛り上がることを目標に利益度外視でカードやPepecashを配りまくったり、ノリや奉仕の心でツール提供をする人が多かったのですが、参加者が増え、カードやトークンに少しづつ実態的な価値が乗ることで、完全な利益目的やちょっといやらしい転売行為などが増えたのも一つの理由だったんじゃないかと思います。
自分自身もBook of Orbsのプロジェクトからは17年9月には降りており、関連ツールの開発なども全体的に減速していきました。
上記のような要因が重なり、結局Rarepepeの新しい作品の提出は18年3月に停止され、事実上Rarepepeは終わりを迎えます。今から考えるとそれでもあれが1年以上も続いていたというのはそれはそれで驚異的だったと思います。
そして日本でも惰性で取引が続いていたPepecashが2020年4月を持って正式に廃止され、今後はそもそもRarepepeとかPepecashって何だったんだ?というよりは、そもそも存在そのものが忘れ去られて行くでしょう。
Pepeが教えてくれたこと
こう振り返ると実際盛り上がっていたのは一年もなかったのですが、今もあの時の熱のような面白さ、何かよくわからない新しいものが生まれてきているのでは?というワクワク感の記憶は強いです。
最初はただのギャグ的に始まったものでしたが、一時期はクリプト界隈全体の注目の的になっていましたし、今までなかったタイプのアイディアやツールが出てきたり、ブロックサイズ問題とネットワーク混雑の影響をモロに受けるという歴史の証人的な側面もありますし、多少の愚かしさはあれど何よりあの熱狂といかがわしさの臭いは何とも言えないものでした。自分自身のこの界隈での今までの経験の中でも最も面白く、奇妙な体験の一つだったと思います。
また、単純にネタとしても面白かっただけでなく、Rarepepeを体験した人なら感覚的にも以下のような教訓を得られたていたんではないかと思います。
- オンチェーンスケーラビリティの限界とトレードオフ
- NFTなどの新しいコンセプト
- Dexの有用性
- トークン価値という共同幻想
- そしてそれを維持することの難しさ
この記事に関しては特に真面目な洞察や説明はしませんが、直接影響を意識しようがしまいが、当時Rarepepeはトークンを利用したプロジェクトとしては先進的な事例やコンセプトをいくつも生み出していたのは間違いないです。同時に、その経緯を理解すれば、その後に起きたNFTブームに起きることや将来的に抱える課題も見える部分はあったんじゃないかと思います。
Rarepepe以降もNFTやゲームアイテムのトークン化などはむしろ盛り上がってきたのはすでにご存知の通りで、それからも多くの新しい試みや工夫がなされていますが、同時にRarepepeのような斜め上からのイノベーション的な何か、自然発生的に起こった世界中のアーティストのコラボレーションやアートのトークン化という点では、主観的な部分もありますがいまだにRarepepeを超えるような新しさ、面白さを持ったものは出てきていません。
自分個人としては2017年以降規制の強化の影響などもあり、トークン関連のサービスにはほとんど関わっていないですが、今後もゲームアイテムのトークン化、もしくはフィジカルアートのトークン化を進化させていくプロジェクトは今後も出てくるでしょうし、その中からまた何かさらに画期的、破壊的なコンセプトが出てくるのでは、と期待もしています。同時に、ある意味ではその動きの源となったRarepepeやPepecashについては是非ちょっとくらいは覚えておいてあげて欲しいなとも思います。
全ての記録はビットコインブロックチェーン上に永久に刻まれてます。
さらばPepecash、もしかしたらまたいつか会いましょう。