🐇21のレッスン - ビットコイン・ラビットホールに落ちて学んだコト🕳️Lesson 18
🐇Lesson 18🕳️
ゆっくり動き壊さない
“こうしてボートは、明るい夏の日の下をゆっくりと進んだ。陽気な乗組員の声と笑いの音楽とともに...”
引用元:不思議の国のアリス
もう死んだマントラかもしれないが、“素早く動いてぶっ壊す”(※翻訳者注1)ことが依然としてテクノロジーの世界でどれだけ多く機能していることか。これは最初から正しく物事を行うかどうかなど関係がなく“失敗は早めに、そしてたくさん”精神の基本的な柱となる考え方である。
成功は成長で測られるので、成長している限りすべては順調である。最初に何かがうまく行かないならば、単に方向転換して繰り返せばよい。言い換えれば、壁に向かって十分なクソを投げつけて、何がひっつくかを見ればよい。
ビットコインは違っている。意図的に異なっている。やむを得ず違うのだ。サトシが指摘したように、電子通貨はこれまで何度も試されてきており、これまでの試みは、切り落とせるトップの首があったがゆえにすべて失敗に終わってきた。ビットコインの真新しさは、頭のない獣であるという点だ。
“多くの人々は、1990年代以来すべての会社が失敗してしまったため、電子通貨を敗因として片づけてしまった。破滅の原因は、そうしたシステムの中央管理された性質のみであったことが明らかであったら良いと願っている。”
サトシ・ナカモト
この徹底的な分散化がもたらす結果の1つは、変化に対する生来の抵抗力である。“素早く動いてぶっ壊す(問題解決する)”は、ビットコインの基盤となるレイヤーでは機能しないし、これからも機能しえない。たとえそれが望ましくても、全員にそのやり方を変えるように説得しなければ不可能だ。これが分散化コンセンサスである。そしてこれこそがビットコインの本質である。
“ビットコインの本質は、バージョン0.1がリリースされた時点で、そのコア・デザインは残りの生涯に渡って石に刻まれたようなものだ。”
サトシ・ナカモト
これはビットコインの多くの逆説的な特性の1つである。我々は皆、ソフトウェアは何であれ簡単に変更できると信じるに至った。だが、この獣の本質を変えるのは非常に困難である。
Hasuが、「ビットコインの社会契約を紐解く」の中で美しく示したように、ビットコインの変更ルールは、変更を提案し、それに従ってすべてのビットコインユーザーに、その変更を採用するように説得することによってのみ可能である。これによりビットコインは、ソフトウェアにも関わらず、変化に対してとても強靭になる。
この強靭さは、ビットコインの最も重要な特質の1つである。重要なソフトウェアシステムは、耐脆弱性を持たなければならない。そしてそれこそがビットコインの社会レイヤーと技術レイヤーの相互作用により保証するものである。金融システムは本質的に対立的なものであり、何千年も前から知られているように、そうした対立的な環境では、強固な基盤が必要不可欠である。
“雨が降り、洪水が押し寄せ、風が吹いてその家に打ちつけても、倒れることはない。岩を土台としているからである。”
マタイによる福音書 7:25
間違いなく、聖書の家を建てた賢者と愚者の寓話においては、ビットコインは家ではない。ビットコインは岩である。変わらず、動かず、新しい金融システムの基盤を提供する。
岩層が常に動いて進化しているのを知っている地質学者のように、ビットコインもまた常に動き進化しているのを確認できる。それには、ビットコインのどこをどのように見るかを知りさえすればよい。
ペイ・トゥ・スクリプトハッシュ(P2SH)やセグウィットの導入は、十分な数のユーザーが、言われている変更をネットワークの利益となると確信している場合は、ビットコインのルールを変更できるという証拠である。後者の導入によりライトニング・ネットワークの開発が可能になった。ライトニング・ネットワークはビットコインの強固な基盤の上に建てられた家の1つと言える。シュノア署名のような将来的なアップグレードは、タップルートにより通常のトランザクションと見分けがつかなくなるスクリプト(スマートコントラクト)と同様に、効率とプライバシーを強化する。賢い人はまさしく強固な基盤の上に家を建てる。
サトシは、技術的に賢い建築家だっただけではない。彼はまた、イデオロギー的に懸命な判断を下す必要があることを理解していた。
“オープン・ソースであるということは、誰もが独立してコードをレビューできることを意味する。クローズド・ソースの場合、誰もその安全性を検証できない。私はこの種のプログラムがオープン・ソースであることは必要不可欠だと思っている。”
サトシ・ナカモト
オープンさは、セキュリティにとって最も重要なものであり、オープン・ソースやフリーソフトウェア運動に固有のものだ。サトシが指摘したように、安全なプロトコルとそれを実装するコードは、オープンでなければならない。 — 曖昧さによる安全などありえない。もう1つの利点は再度、分散化に関連している。なぜなら自由に実行、調査、変更、コピー、配布できるコードは、広範囲に分散されることが保証されるからだ。
ビットコインの根本的に分散化された性質が、ビットコインをゆっくりと慎重に動かしている。それぞれが主権的な個人によって運用されているノードのネットワークは、本質的に変更に対して抵抗力を持っている。 — 悪意があろうがなかろうがに関わらず。ユーザーにアップデートを強制する方法がなく、変更を導入する唯一の方法は、変更を採用するようにそうした各個人を一人残らずゆっくりと説得する以外にない。このように変更を導入して展開する非中央的なプロセスが、ネットワークを悪意のある変更に対して驚くほど強靭なものにしている。そしてそれはまた、中央集権的な環境よりも壊れた物事を修復するのを難しくしている原因でもある。だからこそ、皆がそもそも最初から壊さないように努めるわけである。
ビットコインは私に、動作がゆっくりなのはバグではなく特徴の一つであることを教えてくれた。
(C)Gigi "21 Lessons" クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)に基づき翻訳
翻訳者注1:“Move fast and break things"(素早く動いてぶっ壊せ )
Facebookの最高経営責任者マーク・ザッカ―バーグ氏のモットー。“Done is better than perfect”(完璧であるよりまずは終わらせろ)もFacebook社の壁に貼ってあるんだそうで、同社が多少のバグや失敗は何のその、何よりもスピード重視であることがよくわかる。最近は“Move Fast With Stable Infra.”(安定したインフラと共に素早く動け)に進化したんだそうで、そもそもが女性写真の格付けサービスから始まった、やんちゃ精神でここまで来た巨大企業も、最近の個人情報絡みの大失態もあり、大人にならざるを得ない局面なんですね。