PoSで本当にいいのか?


Ethereumのマージが迫っています。
PoSへの移行を見る前に、最後にPoSは今までの懸念を払拭できているか?このままPoSを主流にして良いのか冷静に考えてみましょう。

PoSには元々多くの懸念がありました。多くの理論的なアップグレードがされ、残された論点はビザンチン将軍問題や二重支払いに関するシステマティックな話よりも、公平性や一般的に言う非中央集権性の議論に移っているように思われます。

まず、第一に「PoSとPoWの比較」について考える時、重要なのはパラメータ(=実際の数字)です。実際の値について考えなければPoWとPoSの比較議論は、「女性に生まれる方が男に生まれるより幸せだと思う」くらいの解像度の議論になってしまい、最高級のお世辞を言っても「完全に世界最悪の時間の無駄ではない議論」程度の内容でしょう。例えば、極端な例で「年間100%以上インフレでスパコンを持ってないと参加不可能なPoW」と「インフレ率が0.1%で100億ノードが自由に参加でき、アドレスはDIDで1個人が複数ノードを持てないPoS」があれば当然PoSの方が圧倒的に公平です。神は細部とパラメータに宿ります。

Q1~Q6でお好きなトピックを読んでみてください。

目次:
Q1: PoSは長期的に非中央集権ですか?

Q2: プレマイン/ICOされたトークンでPoSをやって不公平だと本当に思わないのか?

Q3: PoSは格差拡大のシステムでしょうか?

Q4: PoSはPoWにある自由な競争がありません。

Q5: PoSにはPoWのように大きなコストと代償がないのでコインに価値がない

Q6: PoSは環境保護にかこつけたPumpでは?



Q1: PoSは長期的に非中央集権ですか?

A: PoSはステークが分散していれば非中央集権です。もちろんPoWもWorkが分散していれば非中央集権です。どちらでもステーキングプールLidoへの集権化(30%以上)や、マイニングプールの集権化(3つのプールで51%以上 https://btc.com/stats/pool)が問題となっています。ステーキングプールによる51%(33%)攻撃に備える場合、ステーキング鍵と保有鍵を別にすることでステーキングプールからはwithdrawが可能になることが好ましいです。これは近いアップデートで導入されることになり、PoWと同じようにプールのスイッチが可能になるため、主導権はプールから個々のステイカーに移ります。攻撃後には51%攻撃者のステークが没収されるため、攻撃インセンティブは非常に低く、攻撃者の復帰ができないことから攻撃者への集権化はPoWより防がれやすいと言えます。一方で、PoWと違いネットワークの同期にEhtereumのPoSは依存しているため、世界規模のネットワークの破壊時に弱く、この時には攻撃者に大きく集権化します。

「非中央集権」という言葉は「権」が権利と権力を表す場合が別々にあると思います。権力に表す場合、それは資産を奪えるかどうかであり、上の攻撃の話と一致します。権利を表す場合は、利益の分配に着目するとよく、プレマインやICOのステイカーにおける比率について後述のQ2で、インフレ率4.5%40万アドレスが妥当かどうかを後述のQ3で細部を話ししています。

Q2: プレマイン/ICOされたトークンでPoSをやって不公平だと思わないのか?

A: 冷めた目で見て結論から言えば公平だと思いませんが、(クリプトの他の候補はもちろん)初期のマイニングリワードの大きいビットコインと比べて格別に不公平な要素も特にありません。そして、他のどのケースとも同じく極端にラッキーな人もいると思います。例えば、初期にコファウンダー面して報酬を大量に受け取り、アイディアだけ盗んですぐ抜けて新しい競合ICOを立ち上げた人など。極端にラッキーだったり悪どい人と自分を比較すれば不愉快な不公平性だと思いますし、例えばVBの保有率が0.4%でJustin Sun以下あることに目を向ければそれは非常に少なく、公平以上のものに見えます。

次の2つのことに注目してます。

1) 十分かはわかりませんが、ASICが作れないタイプのPoWで公平にインフレさせ、何サイクルもクリプトバブル/不況の波の中、ホルダーの内容が入れ替わった状態でPoSが始まることです。これはプレマイン/ICOされた後、すぐにPoSが始まるのとは状況があまりにも異なります。この間にも無数の競合が生まれ、多くの人が「Ethereumの次は〜」と去って戻っていないわけであり、投資家にもかなり難しい選択の問題が課せられたと思います。

2) Ethereumでは最初のスマートコントラクト、パトリシアマークルツリーによるアカウントベースのストレージだけでなく、ZKP・OVMを使った汎用Layer2、DASやsharding、フロントランニング対策のプロトコルなどが全く新しく作られており、長い間他の研究グループが達成できない革新を続けてきたと思います。(ここではPoSの公平性を話しているためPoSの開発業績を除きますが)、これらの業績にはどの程度の報酬が与えられるべきでしょうか?最初の$25M未満のバリュエーションで行われたICOで、80%はICOで投資家にパブリックに参加可能な形で放出され、20%のうちのかなり小さい部分がこれらの業績を作った人々に割り当てられていることは公平でしょうか?不公平だと思う場合はそれも良いでしょう。確かにノーベル賞の賞金でさえ1億円くらいなので、それに比べ少し多すぎるかもしれません。逆に賞金の1億円の方が少ないと思う人は、これらの割り当てを普通と思うかもしれません。

Q3: PoSは不公平だという議論が一番多くあります。これはステイカーつまりは既存の保有者に利益が行くため、格差がどんどん開いていくという話です。PoSは格差拡大のシステムでしょうか?

A: もちろん、リワードを全ての人類に配る訳ではないので格差は拡大します。問題はリワードをどれだけの人にどのように配るかであり、Ethereumでは32ETHあれば参加可能なので、まず、32ETH(500万円)以上持っている人といない人の間の格差が広がるでしょう。そして、32ETH以上を持っている人の間での格差は全額ステーキングできる許容リスクは大量ノード(というかアドレス)の並列になればなるほど大きくなるため、おおよそ対数グラフのような上に凸な緩やかな格差になっていることが予想されます。

今のリワードは1アドレスあたり、年間4.5%で、新規発行率(≠インフレ率 なのは手数料がburnだから) も偶然同じ4.5%程度です。この数は皆がステーキングに参加すれば下がっていく数になっています。
https://www.stakingrewards.com/earn/ethereum-2-0/

4.5%は大きな数字ですね。年間1兆円くらいの利益と考えられますし、これは40万のアドレスに分散されるとしても、巨額です。しかし、フロントランニング=MEVができなくなること・実際のマイニングの敷居を考えると、EthereumのケースではPoWよりPoSの方がバリデーター利益も小さいと言えるでしょう。

「PoSでは既存の保有者が既得権益となる」というナラティブが成り立つならば、既得権益という語義に従って独占的に振る舞い、権益から新規参入者を排除できなければおかしいですが、それはバリデーター数を多く増やせるPoSにおいては特に起こり得ません。DPoSで数を少なく絞っている場合には既得権益化と言って差し支えないでしょう。実際に相互投票による新規参入の排除がDPoSでは多く起こりました。

Q4: PoSはPoWにある自由な競争がありません。ステイカーはノーリスク・ノーコストで利益を上げることができ、この利益は誰かから奪われたものに違いありません。

A: 結論としては、ネットワークのセキュリティを維持するために様々なリスクとコストを支払っており、そのセキュリティはユーザーやホルダーに利益を与えるため対等な交換と言えます。

PoSにおけるリワードシェアの奪い合いは競争だと言えますし、これはPoWと変わりがありません。唯一の違いは、競争の内容がASICの改良競争なのか宝くじなのかというだけです。ASICを沢山保有できるのか、宝くじを沢山買えるのかはもちろん資本力の不公平性を受けます。(この世に資本力や社会関係資本の影響を受けない競争はどこに存在するのでしょうか?)

PoSのステイカーは実際にはさまざまなリスクとコストがあります。ボラティリティが一つと、スラッシングによる利益減少がそれにあたります。コストも当然存在し、それは安定したネットワーク環境(=帯域幅)の提供です。結局のところ、各種パラメーター大きくは違いますが、ビットコインマイニングにおける計算資源の提供の部分が帯域幅の提供に代わっているとも言えます。Ethereumの場合は帯域幅の提供に問題が起こるとスラッシングが発生し、利益が没収されます。あまり起こりませんが、大規模な数のバリデータの1/3オフライン化が起こる場合は、ステークの1/2=16ETHが失われます。これはソフトウェアのバグでも起こりうるため、当然リスクです。

https://launchpad.ethereum.org/en/faq

Q5: PoSにはPoWのように大きなコストと代償がないのでコインに価値がない

これはビットコインのセキュリティがハードウェアで維持されている素晴らしさと全く独立の話ですが、個人的には、原価が大きければ商品の価値が大きいとは思いませんし、基本的にテクノロジーの進歩は原価を小さくする方向です。現にBitcoinのマイニングにおいても電気の原価が小さい中国が長く中心でしたし、hashパワーあたりの原価の電気代を下げる技術がASICです。

そして代償が大きければ価値が大きいとも思いません。私が自分の家を燃やして産んだトークンをあなたに送ったら、あなたはそれを家と同じ価値だと認めますか?

Q6: PoSは環境保護にかこつけたPumpでは?

かもしれないですね。ただ、環境配慮の可能性が存在するだけで吐き気がするのであれば、あなたはなぜそこまで地球が憎いのですか?

(個人的にはあまり環境保護や気候変動に興味がなかったので、この視点で支持することはこれからも多分ないです。行き過ぎた環境保護やSDGs規制は共産主義と同じなので嫌いです。)


最後に結論を言えば、PoSにはPoWより非中央集権性が上がるという点も見つかりませんが、特段Twitterで言われているような叩く点も見つからないという印象を受けます。Ethereumはその機能であるスマートコントラクトをスケールするためにはPoSを採用するべきというEthereum特有の都合がある考えて良いでしょう。

追記:
https://spotlight.soy/detail?article_id=xg6nijokb

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