金本位制なしに産業革命は進んだか? ~単なる歴史の視点と事業者の視点~


産業革命時が起こったのは18世紀、そしてそれが大きく発展したのは19世紀でしたが、この間に金本位制がイギリスを発端に始まることとなりました。そしてそれが起こる前までもイギリスでは多くの金銀預かり証の約束手形が紙幣として流通していました。

金本位制あるいは貴金属を利用した貨幣を用いた社会では、よほどたくさん金が採掘できる場合でない限りは"いわゆるデフレ経済"となります。イギリスは1750年から1934年までの間、インフレ率は平均0.62%でした。そして、産業革命で発展した18世紀の後半は年間インフレ率は0.4%ほどです。金本位制が本格的に採用されたのは19世紀の前であり、さらにこの18世紀などの近代が始まるよりさらに前のルネサンスあたりの社会では、スペイン・ポルトガルが新大陸からもたらした大量の金銀により"恐ろしいほどのインフレと呼ばれた2%程度のインフレ"が続いていたと言われています。この時代の技術は”ルネサンス”などと言われても、ほとんど中国の発明品である羅針盤、火薬、印刷、そして大型帆船に毛が生えたようなものであり、体系的な自然科学に基づいた産業革命以後の発明とは質的にも影響の大きさとしても、違うと言って良いでしょう。
金本位制が終わった1970年代以降、大きなイノベーションは主にインターネットです。思えば、インターネットやコンピューター関連のもの以外で、身の回りにあるものや利用するものは、ほとんど戦前にはもう発明されて先進国にはあった産物であることに気がつきます。動力機械、エンジン、鉄道、車、飛行機、交流電力、高層建築、核エネルギー、ペニシリン、ワクチンなど、今の世界を支えるほとんどの発明は昔の"よきデフレの時代"に生まれたのでしょう?単なる偶然でしょうか?
ある意味、綺麗にデフレの時代に現代を作ったような技術革新が集中していると言っても良いかもしれません。

ケインズ経済に関する疑問は前からあれど、僕は数ヶ月前までデフレ経済が悪であると言う命題になんの疑問も持っていませんでした。デフレ経済は新しいチャンスに対して誰もが貸し渋り、新しい製品を誰もが買い渋り、新しい芽は出てこないような社会をイメージしていました。どこか中世の社会に似た停滞のイメージです。しかし"「豊かさ」の誕生"という経済史学の本で、「現代人は今の方が世界が進むスピードが速いと考えているが、19世紀の方が全然変わる速度は速かった」というような内容が書かれていたのを見て、少し疑問を持ち始めたところでした。本文の結論を今言ってしまえば、インフレ2%が好きな人の目指す短期的な国民全員の社会厚生の最大化と、文明の偉大な進歩による長期的な社会厚生の最大化というのが別だというだけの話でした。
今、車も電気も虫歯の治療法も誰も知らない世界に戻って幸せに生きたい人などあまりいないでしょう。


当時のインフレに関わる多くの数字は具体的にこの記事にも分かりやすく書かれています。

では、産業革命が起こった時には、どんな条件があったのでしょうか?
バーンスタインの"「豊かさ」の誕生"では4条件を挙げています。

私有財産権
資本主義
輸送と通信手段の発達
科学的合理主義

こちらの方には、資本主義と言うより金融市場として実際に金銀の流入があったことを大きく評価しています。
http://www.y-history.net/appendix/wh1101-000.html

実際に個別ケースを見てみると、産業革命でもっとも大切な人物とも言える2名、実用的な蒸気機関を発明したワットも、実用的な紡績機を発明したアークライト、両名の事業に関しても、豊富な資金とその使い道となる低賃金労働者が決定的な影響を与えました。

つまりは、当時の英国社会全般ではデフレ、一部では金余りの世の中であったわけです。つまりデフレ格差社会が産業革命時の背景にありました。

デフレのデメリットはよく言われる通り、皆が買い渋り、製品の売れ行きが悪くなることで経済が回らなくなることですが、金利が低くなるので事業者にとっては一長一短です。

デフレ経済では金が貴重すぎて金貸しなんてしたがらないかのように思えますが、貨幣価値の先行きが見通しやすいので低金利となります。実際この18世紀のイギリス・オランダ社会では低金利なのです。ローマ帝国でも言える話ですが、低金利は発達した文明社会の証です。逆を行けばウシジマくんの世界なわけで。

つまり、デフレの時に低金利かつ低賃金で借りて製品を作り、売るときに好景気(その後のインフレ)になって欲しいと言うのが事業者の都合ではありますが、多くの場合はそんな上手くいかないのでどちらかを選ぶ必要があります。

しかしながら言えることは、個別の事業に関してみれば、それがもし本当にイノベーティブで誰もが望む素晴らしいものであれば、作りさえできれば100%売れるのでいわゆる虚業でないイノベーターからすれば作れさえすれば良いのでデフレの方が良いわけであります。例えばバカが一瞬で治る薬など。さらに言えば、そのような本質的に意味のあるものを達成する人のみが起業家になり、他のインフレ時やバブル時に流行るアホだけど収益性が高いものには事業者が行かなくなるわけです。つまりデフレ社会では人材面での民業圧迫がない

逆の政府主導社会の極端な話をすれば、政府の命令で東大が受験科目に「けん玉」を入れて配点を360点にすれば、全国の無視できない数の秀才は数学や物理をやらずにこぞってけん玉を必死に練習するかもしれないわけで、政府が鉄緑会のライバル塾で理3出身者しか勤められない「けん玉塾」を作って1000億円出資したらゲノム編集の研究をやるはずの理3生がけん玉を始めるわけです。理3出身が研究の世界でどれだけすごいのかは自分は知らないので例として適切かは知りませんが。民間リソースの圧迫は潜在的なものであり、実際の機会コストが推定できないため、経済学的にも難しい議論の一つなのではないでしょうか?個人的には官製バブル相場は全て民間リソースを圧迫していると考えます。けん玉作る会社作ってもヘリコプターマネーが入るかもしれんのですから。

つまり、格差が生まれるほど富んでる社会でかつデフレ経済が本来的には文明の進歩のためには良いというある種嫌な説が浮かび上がるわけです。

飛躍がありますが、個人的には、財政出動で水増し可能な指標であるGDPで測りずらい本質的な「豊かさ」を増やすためには次のうちのどれかだと思えます。

1) 独裁超知能聖人政権による積極財政計画経済
2) 資本主義・自由主義社会によるデフレ経済

おそらく、積極財政支持者の多くは「豊かさ」と言う同じものを目指しつつも1)を支持し、投資家のように市場や政治の現実を見ている人は2)を考えるのだろうと思います。そして、政治家は未発達な社会には1)を支持する人間が多いことを知っているので1)を大声で叫ぶことでしょう。僕は短い期間なのであれば、1)の積極財政計画経済も上手く行ったりするんだろうなと想像します。一時のナチスやソ連や戦後の日本や今の中国など。それも長期で言えば、勝者はみんなで一緒に腐敗するカルテルを作って善良な人々の貨幣資産を希薄化しながら奪うことに落ち着く危険性が高いと思います。

インフレが良いか?デフレはダメか?MMTが良いか?などの問いを直接考える前に、社会でというより個人に有用な疑問は次のようなものかもしれません。脱成長などという話ではなく、名目はもちろん実質GDPの増加でもなく、経済成長の定義を深いレベルで考えると言うことかも。つまりその疑問とは、本当に欲しいものがこの世に増えているか、それがどのくらい手に入るかです。
他人のマウントや広告に焚き付けられて、ゴミみたいなものを買うために別のゴミみたいなものを作る会社で働く社会を、経済が回ってる!経済成長!と言ってませんか?と言う話かも。まーゴミみたいなものは大体かわいいので僕も好きで買ってますが。

銀行の残高は、ホリエモンみたいな人が言う通り、もしかしたらゲームのMP程度に思えばいいのかもしれません。けど、時間はゲームのMP扱いできないのです。

次の「豊かさ」の誕生は一億WAGMIの先にあるのでしょうかね?

平均年齢(47歳)以下のいわゆる若いと言われる層に属する人、自分もそうではありますが、インフレ社会の方が目先景気が良さそうな時間が多くなるわけで良いわけです。インフレ社会はビットコインの値段が上がったり、とにかく市場が活気付くのでとても気分が良いでしょう。それでも....

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やり遂げるまで呪いとカルマと因果律とお祈りとジンクスで縛られる人

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