エドマン法に代わるプロテインシーケンス法について

エドマン法に代わるプロテインシーケンス法について

はじめに

 いまや自分の遺伝子(DNA)配列を知りたいと興味があれば、何か月分かのおこづかい(ヒトによってちがいますが)で短時間に知ることができる時代です。ところが遺伝暗号が翻訳されてできるタンパク質の構造決定をおこなおうとすると、いまだに時間と手間がかかります。

まさ夢にはなったけれど

 私が研究者になりたての30年前にはヒトの遺伝子の解明は思ってもみないことで、ようやくウイルス(印象に残っているのはバクテリオファージφX174)の遺伝子配列をどうにかあきらかにできた時代で、とうてい生きているうちにはヒトの遺伝子配列なんてわかるはずがないと思っていました。

ところがそれから10数年であっさり解明されたのです。DNAシーケンスをすみやかにあきらかにする手法が確立したからです。目をみはるような進歩でした。

その当時は、ヒト遺伝子の情報があきらかにできたことで、ヒトの病気の解明や治療法の開発はすすむだろうと楽観論がありました。

そうたやすいことではない

 ところがです。からだのなかではたらくタンパク質と病気との関係は複雑で、タンパク質の情報を立体構造もふくめて精密に解明していくことが必要だと、同時期にわかってきました。

タンパク質の配列情報にあたる一次構造決定法はいまだに70年ほど前の手法であるエドマン(Edman)法が多少改良されてもちいられているにすぎません。格段に進歩したDNAのようにはたやすいことではないことはあきらかです。

そのおもな原因はタンパク質を構成するアミノ酸(一部イミノ酸)残基の種類が多いから。核酸の塩基が4種類なのにくらべて、タンパク質を構成するアミノ酸残基は20種類あるのが理由です。

タンパク質は遺伝子DNAから転写、翻訳されてそのままではありません。生体内でS-S結合で架橋されたり、糖鎖がついたり、アミノ末端がブロックされたり、さまざまな翻訳後修飾を受けたりしていることが知られています。

これらはDNA配列から予想できない場合が数多くあり、やはりタンパク質それ自体を直接解析することがたいせつです。

根本的になにか足りない

私自身も手をこまねいていたわけではなく、毎日のように有機化学や酵素学の専門書や論文を手がかりにヒントをさがしてきました。それはいまもつづいています。

ひとつお示ししましょう。新種のエンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼ(自分たちで発見したものが多いです)を固定化したうえで、流路を極限まで細くして反応性を高めたマイクロリアクター中で、変性したタンパク質を反応。

生成物を順次、質量分析装置(田中博士がノーベル賞を受賞した手法です)を使って解析という自動化、高速化に適合しそうな手法などを考案し、一部をこころみてきました。

しかし、相手は一筋縄ではいかないタンパク質です。海と山ほどの性質の違いがあり、高分子量のタンパク質やその断片であるペプチドに対して、酵素たちは思ったようには働いてくれません。

いまだに万能の方法にはなりえていないのはご存じのとおりです。原点にかえり、目を向けていない方式や一から手法の見直しが必要でしょう。

そのまま解決せず次世代へ

 なにもわたしひとりがやっていることではありません。それこそ世界中でやっきになってさがしていることでしょう。

そうこうするうちにわたしも年をかさねています。もはや次世代の方に考案していただく以外にはなさそうです。

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