30WのBitaxe Gamma、今度はAIエージェントに探索させたら「電圧の壁」が1本の直線になった
前回は初代Bitaxe Gamma(1号機)を手動で詰めた。今回は2号機(Gamma 602)の設定探索をAIエージェント(Claude)に任せ、返す刀で1号機にも同じ手法を適用した。その過程で得られた知見を実験報告書の形式でまとめる。設定変更・計測・グラフ化はAIが実機APIを操作して実施し、人間は方針決定とリスク判断を担当した。
1. 目的
30W電源で運用するBitaxe Gamma 602(BM1370搭載、2台)について、次の4点を実測により明らかにする。(1) 電源定格30W以内で最大のハッシュレートが得られる動作点、(2) 電源に余裕を残す運用(定格の8〜9割)での最適動作点、(3) 従来使用していた最大設定(900MHz/1250mV)の実消費電力、(4) 2台間の個体差の定量化。
2. 方法
機材はBitaxe Gamma 602×2台(AxeOS v2.14.1)、電源は5V/30Wのケーブル一体型ACアダプタ×2。AxeOSのAPIに対し「設定変更(周波数・コア電圧)→再起動→5〜15分監視→判定」のサイクルを繰り返した。ファンは自動制御(ASIC目標60°C)で固定。
評価指標は4つ: ①実効ハッシュレート/理論値の比(98%以上を合格目安)、②ASICエラー率、③消費電力、④入力電圧vin。判定は「比≥98%かつエラー率が平常値→安定」「エラー率のみ増加→境界」「比が大きく低下→不合格」とした。なおエラー率の平常値には個体差があるため(2号機≈0%、1号機≈1〜1.5%)、判定は各機の平常値との相対比較で行った。
さらに測定点を減らすため2つのモデルを併用した。消費電力は P = k×f×V²(kは実測から校正)、安定限界(電圧の壁)は境界判定となった実測点の直線フィット V(f) で表す。アダプタの切り分けは、2台間でアダプタを物理交換する同一負荷でのA/B比較により行った。
3. 結果
(1) 2号機の主要測定点は以下の通り(詳細は図1・図2)。
・900MHz/1250mV: 35.5W(定格の118%)、1.85TH/s。vinは4.88Vまで低下、VRM 95°C
・850MHz/1150mV: エラー率4.4%、実効1.20TH/s(理論値の69%)で不合格
・850MHz/1175mV: エラー率0%だが実効1.30TH/s(75%)で不合格
・820MHz/1200mV: 29.2W、1.65TH/s、エラー0% —— 30W以内の最大点
・755MHz/1175mV: 26.5W(定格88%)、1.53TH/s、エラー0%
・700MHz/1150mV: 24.2W(81%)、1.41TH/s、効率17.1J/TH

【図1: 消費電力×実効ハッシュレート散布図(2号機)】

【図2: 効率J/THランキング(2号機)】
(2) 2号機で境界判定となった3点(725/1150、775/1175、840/1200)は直線 V = 838 + 0.432×f [mV] 上に乗った(図3)。この直線と30W等電力線の交点は約833MHzで、実測の上限820MHzと整合した。

【図3: 周波数×電圧マップと安定限界(2号機)】
(3) 1号機の主要測定点は以下の通り(詳細は図4・図5)。
・750MHz/1200mV(旧常用): 26.8W、1.54TH/s、エラー1.6%
・775MHz/1175mV: 26.5W(88%)、1.58TH/s、エラー1.1% —— 常用に採用
・755MHz/1175mV: 26.0W、1.53TH/s(2号機の常用と同設定・同等性能)
・820MHz/1200mV: 28.6W、1.66TH/s —— 30W以内の最大点だがvinが4.77Vまで低下
・800MHz/1175mV: エラー率4.2%に増加(境界)。ただし実効は99%を維持
・725MHz/1150mV: 24.2W、エラー3.5%(境界)
・700MHz/1150mV: 23.6W(79%)、1.42TH/s、効率16.5J/THで両機通じて最良

【図4: 消費電力×実効ハッシュレート散布図(1号機)】

【図5: 効率J/THランキング(1号機)】
(4) 1号機の安定限界は V = 909 + 0.333×f [mV](境界2点フィット)で、2号機より15〜20MHz分低い(図6)。2号機で不合格だった775/1175が1号機ではクリーンに動作する。30W等電力線との交点は約848MHzだが、後述の電源事情により高負荷帯は採用しなかった。なお安定限界を超えたときの失敗モードにも個体差があり、2号機は実効ハッシュレートが落ちる型、1号機はエラー率だけが増えて実効は維持される型だった。

【図6: 周波数×電圧マップと安定限界(1号機)】
(5) アダプタ交換A/Bの結果、同一負荷(約26W)で弱い個体は4.83V→(2号機装着時)4.73V、良い個体は5.03V→(1号機装着時)4.98V。低電圧はアダプタに追従し、負荷変化時の電圧降下から見積もった実効抵抗は弱い個体が約2倍だった。
(6) 最終構成: 1号機=良アダプタ+775/1175(26.4W、1.58TH/s)、2号機=弱アダプタ+700/1150(24.4W、1.43TH/s)。合計約3.0TH/s@50.8W、両機ともvinはUSB規格内に収まった。
4. 考察
第一に、エラー率表示が0%でも実効ハッシュレートが3割低下する「無音の処理落ち」が確認された。ダッシュボードのエラー率のみによる安定判定は不十分で、実効値/理論値の比を必ず併用すべきである。
第二に、安定限界が周波数の一次式で近似できたことは探索効率上重要である。境界点を2〜3点実測すれば、残りの探索空間は電力モデルとの交点計算で絞り込め、総当たりに比べ測定回数を大幅に削減できる。実際、1号機の探索は2号機で確立した手順の再利用により、約半分の測定点数で完了した。
第三に、本個体・本電源における最大ハッシュレートの制約要因はASICの冷却ではなく電源容量だった。また負荷増加時のvinの垂れ方はアダプタごとに明確な差があり、電源系の健全性指標として有効である。定格118%(35.5W)でも短時間の動作は可能だったが、vin低下とVRM 95°Cから常用は不適と判断した。
第四に、個体差はASICチップだけでなくACアダプタにも存在した。石の個体差(安定限界の高低、失敗モードの型)とアダプタの個体差(実効抵抗)は独立に存在し、今回はたまたま「当たり石×弱アダプタ」「外れ石×良アダプタ」の組み合わせで出荷されていた。低負荷では石の個体差がほぼ消えることを利用し、「当たり石に良アダプタ・弱アダプタは低負荷機へ」という再割当が合計性能を最大化した。
5. 結論
・2号機の30W以内最大点は820MHz/1200mV(29.2W、1.65TH/s)、常用は700MHz/1150mV(24.4W、1.43TH/s)を採用
・1号機の常用は775MHz/1175mV(26.4W、1.58TH/s)。同一製品でも安定限界に15〜20MHz分の個体差がある(2号機: V=838+0.432f、1号機: V=909+0.333f)
・900MHz/1250mVは実測35.5W(定格の118%)であり、30W電源での使用は推奨できない
・「4指標での判定+安定限界の直線フィット+等電力線」の組み合わせにより、少ない実測点で個体ごとの最適動作点を系統的に特定できる。確立した手順は2台目以降にそのまま再利用できる
6. 所感
今回の検証はAnthropicの最上位モデル(Claude Fable 5)で行ったが、実は2号機の初期設定(800MHz/1200mV)は、以前に下のモデル(Sonnet 5)と対話しながら詰めたものだった。そして今回判明した理論上限は約833MHz。つまり下位モデルとの手動チューニングでも、正解の97%地点までは到達していたことになる。この事実は「AIのモデル選び」を考えるうえで示唆的だった。
では上位モデルは何が違ったのか。振り返ると、差が出たのは操作の巧拙ではなく「実験の設計」と「異常への嗅覚」だった。具体的には、探索を始める前にまず現状の消費電力を実測して制約条件(電源が既に96%)を特定したこと。エラー率0%という表示を信用せず、実効ハッシュレートと理論値の比を突き合わせて「無音の処理落ち」を検出したこと。境界点が直線に乗ると見抜いて、以降の探索を総当たりから交点計算に切り替えたこと。そしてvinの垂れ方からアダプタの実効抵抗を概算し、「不調の原因は石でも基板でもなく電源アダプタ」と切り分けたこと。どれも、言われてみれば当たり前だが、言われる前に自発的にやるかどうかがモデルの差だと感じた。
もっとも、これは「上位モデルでなければ不可能」という話ではない。本報告書の「方法」に書いた手順——4指標で判定する、電力をP=k×f×V²でモデル化する、境界点を直線フィットする——を最初からプロンプトで与えれば、下位モデルでも同じ結論に到達できた可能性は高い。違いは能力の有無というより、実験計画を誰が設計するかにある。上位モデルは設計図を自分で描き、下位モデルは良い設計図があれば忠実に実行する。
ここから導かれる実用的な使い分けはこうだ。未知の領域を初めて探索するとき——今回のように「何が制約かすら分かっていない」段階——は、最も強いモデルに任せる価値がある。一方、確立された手順の再実行——例えば3台目のBitaxeが増えたとき——は、この報告書自体をプロンプトとして下位モデルに渡せば足りるはずだ。実際、1号機の探索は2号機で確立した手順の再利用だったため、半分の測定点数で済んだ。高いモデルの探索結果を「再利用可能な手順書」に落とすことで、次回からは安いモデルで同じ品質が出る。AIの成果物とは設定値そのものではなく、方法論なのだと思う。
運用面での発見も多かった。AIは「設定変更→10分監視→記録」という退屈なサイクルを何十回でも嫌がらずに回す。深夜に人間が張り付く必要はない。一方で、リスクを伴う判断——定格超過テストをやるか、どの設定を常用にするか、Home Assistantの自動化を止めるべきか——は、その都度こちらに選択肢付きで確認が来た。勝手に暴走しない代わりに、丸投げもできない。「実験の設計と実行はAI、ハンドルとブレーキは人間」という分担が、少なくとも実機ハードウェアを触らせる場面ではちょうど良い距離感だった。
最後にひとつ。アダプタの不良(正確には個体差)は、Home Assistantで常時監視していても気づけなかった。監視は「いつもと同じか」しか教えてくれない。「そもそも今の状態は正しいのか」を問うには、仮説を立てて条件を変えて測る——つまり実験が必要で、そこがAIエージェントと監視ツールの決定的な違いだと感じている。





