苦痛のトレーサビリティで組織を改善する5: 苦痛トークンによる組織の変化(DAO+苦痛トークン)
たとえば、DAOのような分散組織で苦痛トークンを採用した場合、下のような、人の意思(政治)を介すことのない自動化された組織構造の変化を考えることができる。
N:仮に想定した、完全にフラットで分散的なネットワーク状組織。
T=N(T):ある時点までの環境や学習によって形成されたツリー状のルーティング構造=組織。
※ N(T)はTと同じ構造を表現するネットワーク。
T´=N(T´):苦痛トークンの行使結果をフィードバックし、新たにルーティングし直された、別のツリー構造。
※ N(T´)はT´と同じ構造を表現するネットワーク。
N´:N(T)とN(T´)の両方に素早く切り替わりうる動的ルーティング構造として、複数のツリー的支持構造を内在させた組織。
a:現在のタスクや状況にあわせ、ネットワークNをツリーTにする。ツリーにする必要があるのは、分業可能性や実行速度などの点では、多くの場合ツリーが有効だから。ただし、一度できたツリーの硬直化、利権化、裁量化、支配権化が問題になる。
b:Tの環境不適応シグナルとして発せられた苦痛トークンを、ブロックチェーンを用いてトレースする。このシグナルは組織内政治からの客観性を担保するため、パブリックなブロックチェーンを使用するべきだろう。苦痛トークンのトレースを考慮した自動プロセスによって、ツリーTはT´へと変化する。そして、この苦痛トークンのシグナルを、人の手が入らない形で、組織構造やルーティングへ反映させるアルゴリズムを走らせる。
パブリックなブロックチェーンを使っているので、トレース結果は外部から参照できる。排出ガスのようなイメージで、組織が活動によって産出した苦痛トークンの総量がわかることになる。これにより、ブラック企業などのガバナンスの不透明性を打ち消すよう試みる。なお、組織がトレース結果を公表しない場合、なぜ公表しないのか、という公衆からの疑問に対峙する必要がでてくるだろう。
苦痛トークンを行使するのはメンバー自身であり、しかも匿名かつブロックチェーンにより客観性が担保されるので、情報入力部分での不正はかなり防げるはずだ。むしろ、問題は苦痛トークンの組織構造への反映方法や、そのアップデートアルゴリズムを巡る政治だと思われる。これについては、いずれ別に論じる予定。
c:環境の状態に応じ、過去の学習結果を参照したアクションとして組織構造を組み替える。図ではN(T)とN(T´)の二つが同時に描かれているが、ツリー構造はいくつあっても構わないし、明確に切り分けることができない場合もある。この状態の組織では、異質なツリー構造が同居するので、状況に応じ「上司-部下」のような関係が逆転することもある。このような動的構造をキープすることが、環境に対してツリー状組織よりも高い適応能力と学習能力を持つなら、このような組織は強い競争力を持ちます。苦痛は主観的なものなので、物理的・統計的な保存とは無関係に、いわばフリーランチ=(物理的・資源的に)ノーコストで減らせる可能性があり、そこには希望がある。
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Credits:
原案:西川アサキ
草稿執筆:古谷利裕、もや
作図:掬矢吉水
同時編集:VECTION
冒頭画像:AGMA The Ostracism of Themistocles.jpg / Wikimedia Commons
本稿は、「ブロックチェーンとレボリューション──分散が「革命」でありうる条件とはなんですか?
r/place的主体とガバナンス──革命へと誘うブロックチェーンとインターフェイス から、苦痛トークンとPS3について記述された部分を取り出して、加筆、再編集したものです。