血で血を洗うファントークン戦争(フィクション)
※筆者注:これは、近未来SFモノです
唐突だが、私はFC沖ノ鳥島(※筆者注:架空のJ2団体です)のファンだ。
ここは地元のサッカーJ2のチームで、正直そんなに勝率は良くない。
だが内地の人間を多用せず、なるべく地元の人間で固める方針を崩さないこのチームを私は愛している。
私の学生時代の友人が所属しているというのも大きいが。
そして、今日は宿敵FC択捉島との対戦で応援にも気合が入る。
何より今日の試合が特別なのは……「トークンエアドロップ戦」だからだ。
ここでサッカーに詳しくない方には「トークンエアドロップ戦」とファントークンを説明せねばなるまい。
今となってはJ1、J2多くのサッカーチームがファントークンというものを発行している。
これはチームが発行している独自の通貨で、詳細は割愛するが「ブロックチェーン技術を活用して作られた楽天ポイント」みたいなものだ。
要は個々のサッカーチームが独自に発行している仮想通貨である。
今やサポーター向けの公式グッズなどは大体がこのファントークンで売買できるようになった。
最近ではチケットなどもサポーター専用のスマホアプリからこのファントークンで売買できる。
日本円で買うよりも少し割引価格になるので熱心なサポーターは皆このファントークンでチケットやグッズを買う。
サポーター同士でのチケット売買もこのトークンではアプリ上で行えるようになっている(ダフ屋紛いの人間もいるので、あまり自分は好きではないが)。
しかし、このファントークン、先ほど「楽天ポイントのようなもの」と書いたが1枚=1円ではない。
曲がりなりにも「通貨」なので為替のような変動を見せるのだ。
1ドル=100円が1ドル=120円になるように、100FOC(FC Okinotori Coin)=50円が100FOC=60円に変動したりする。
私はグッズ用に10万FOCを保有している(たまにサプライズで数量限定グッズが販売されるので常にある程度を用意)。
今のレートは1FOC=0.5円なので5万円程度をファントークンという形で専用アプリにチャージしている、と考えてもらうと分かりやすいと思う(PayPayやSuica、Amazonギフト等でお金をチャージしている感覚に近い)。
さて、トークンエアドロップ戦の説明に戻ろう。
これは試合の結果に応じてファントークンが貰える(こういうのをエアドロップと表現する)特別試合だ。
こう書くと「FC沖ノ鳥島が勝ったら、FC沖ノ鳥島のファントークンがお祝いにサポーターに配られるのかな?」みたいな事を想像する方もいらっしゃると思う。
――――はっきり言おう。そんな生易しいものではない。
このトークンエアドロップ戦では「自チームが勝つと敵チームが発行しているファントークンを貰える」のだ。
今日の試合で言えば、FC沖ノ鳥島が憎きFC択捉島に勝つと、私たちFC沖ノ鳥島サポーターがFC択捉島のファントークンFEC(FC Etorofu Coin)を貰える。
貰える金額は、試合前に自チームのファントークンを賭けた量に応じて分配される。
ちなみに、自チームが勝っても負けてもこの賭けたファントークンは返金されるが1週間ロックされ引き出すことが出来なくなる(正式にはステーキングと呼ぶ)。
このあたりは詳しくないのだが、賭博ではなくステーキング報酬がエアドロップされるという建前が大事らしい。
「敵チームのファントークンを貰って嬉しいの?」と疑問に思われる方もいるだろう。
――――もちろん、嬉しい。なぜなら、我らがFC沖ノ鳥島が勝つことで、FC択捉島のファントークンを売り叩いて日本円に変える事が出来るからだ。
今日の試合の前に、私は手持ちの1万FOC(時価5千円)をこのトークンエアドロップ戦に賭けた。
沖ノ鳥島・択捉島の両サポーターの賭けた総額は事前のオッズを見ると大体同じくらいなので、FC沖ノ鳥島が勝てば私は5千円相当のFEC(FC Etorofu Coin)が貰える。
そう、これはファン同士で実際の金銭を奪い合う戦いでもあるのだ。
そして、ここでもう一つ付け加えておくことがある。
先ほどファントークンが「通貨」なので為替のような変動をすると述べたのを思い出して欲しい。
そう、負けた敵チームのファントークンを売り叩いて日本円に変えれば敵ファントークンの価格は下落するのだ。
つまり、エアドロップによって負けた側のチームのファントークンの発行枚数が増え、それが売られる事で確実に価値が希釈されることになる。
分かりやすく書けば、負けた側のファントークンに強制的なインフレを起こさせるという事だ。
負け続けるチームのファントークンはいずれジンバブエドルのような末路を辿るのである。
…もし今回我らがFC沖ノ鳥島が敗北すれば、1FOC=0.5円が1FOC=0.45円に下落するだろうという試算が出ている。
およそ10%の下落だ。
株価やドル円のレートが数%動くとテレビで大騒ぎする事から、この数字がとても大きい事が分かっていただけるだろう。
実際、私自身の手持ちの10万FOC(時価5万円)が時価4万5千円になるので、とても辛い。
FOCを大量に保有している熱心なサポーターならもっと辛いだろう。
更に、事前に試合に賭けた分のFOCも1週間ロックされるので、必ずこの下落の影響を受ける。
大量に敵のファントークンを売り叩いてやろうと思えば、大量にこちらもファントークンをロックしてリスクに晒さなければならない。
もうお分かりだと思うが、このトークンエアドロップ戦は負けると単に報酬が得られないだけでなく、敗北した側のチームとサポーターは保有しているファントークンの価値を棄損させられるのだ。
これは、ファントークンとファントークンの価値を貶め合う、血で血を洗うような凄惨な戦争と言っても過言ではない。
先ほど、10%の下落と書いたが、以前はこれ程大きく変動しなかった。
トークンエアドロップ戦がどんどん過熱して1試合で賭けられる金額も大きくなっていき、エアドロップの量がトークンの時価総額に対して多くなり過ぎてしまったのだ。
私には、サポーター同士の金のぶつかり合いが勝利の快感と敗北の怨嗟を産み続け、回数を重ねるにつれて肥大していっているように見える。
恐ろしい事に、大口のサポーター中には1億FOC(時価5000万円)を賭けている人もいて、実際にブロックチェーン上で確認できる。
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――そろそろキックオフの時間だ。
今日もまた筆舌に尽くしがたい野次と奇声と怒号が飛び交う熱いトークンエアドロップ戦が始まる。
-了-
※代替性かおすさんとYamshiさんの発言から着想を得ました。
この場を借りて御礼申し上げます。
※有料部分は後書きなので大したことは書いてないです。