なぜ、セイヨウミツバチの蜂蜜を取り扱うことにしたか。
セイヨウミツバチとニホンミツバチ、違いはいくつかあります。ニホンミツバチは、プロポリスの採取をしないのもその一つです。セイヨウミツバチは、プロポリスを巣の壊れた部分を治したり、強化したりするために利用するようです。ニホンミツバチは、気に入らないとすぐ出て行ってしまうので、プロポリスを採ることを選択しなかったのでしょう。それぞれが自分たちに合った生存方法で、種を守ってきたのだと思います。
2005年からニホンミツバチと暮らす中で様々な変化と、問題を知ることになりました。ニホンミツバチと出会う前、わたしは少しだけセイヨウミツバチの養蜂を手伝ったことがあります。ほんの少しだけ。その経験から、セイヨウミツバチとの関わり方と、ニホンミツバチとの関わり方は、根本的に違うと感じています。
ニホンミツバチは野生であり、「飼う」という概念は当てはまらないと感じます。ただ人が「飼っている」と勝手に思っているだけではないでしょうか。自分の巣箱に入った蜂と寄り添って暮らしている。実はそれだけのことである。少なくとも私とニホンミツバチの関係をそのように思います。
一方、日本においてのセイヨウミツバチと人との関係は、家畜と畜産家のようだと思います。人工で女王を作ったり、群を増やしたりをしながら蜜を採り、季節によって花が咲く場所へ行く。冬は南へ、夏は北へ、巣箱をトラックに積んで移動します。セイヨウミツバチは蜜を沢山採ってきてくれますが、そのかわり世話も大変です。病気やダニのケア、給餌などが必要です。
ここ数年、春の分蜂の季節にセイヨウミツバチの分蜂群を見るようになりました。分蜂とは簡単に説明しますと、一つの群から春に新しい女王が生まれます。そうすると今まで君臨していた女王が新しい女王に巣を任せ、自分についてくる約半分の群を連れて新たな巣を求めて旅経つことを言います。
これまで、セイヨウミツバチは分蜂しても日本では野生化しないと言われてきました。なぜなら、セイヨウミツバチは天敵であるスズメバチに対抗する術を持たないと言われてきたためです。その為たとえ自然分蜂したとしても、秋には天敵により全滅する他ないと考えられてきました。
しかし、2019年にドイツで、セイヨウミツバチがスズメバチの攻撃に対し、熱殺蜂球を形成したことが確認されたようです。
熱殺蜂球とは、ニホンミツバチが天敵のスズメバチをみんなで取り囲み振動によって発熱し熱死させるという天敵撃退法です。蜂球の中心温度は45度以上まで達し、致死温度45度以上のオオスズメバチを熱死させます。ニホンミツバチの致死温度は約50度ほどといわれ、自らも命を張って挑むことになります。当然のこと、犠牲になるミツバチはいます。この時スズメバチに戦いを挑むニホンミツバチは、群の中の若くないものたち、つまりもうすぐ寿命を迎える先輩ミツバチ達が群を守る為に命をかけるわけです。
↑ニホンミツバチの熱殺蜂球。中心にオオスズメバチがいます。
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熱殺蜂球形成はこれまで、ミツバチの中でもニホンミツバチのみが持つ、スズメバチに対抗する集団防衛反応といわれてきました。
日本ではニホンミツバチを「飼う」個人養蜂家が増えたと感じます。近代養蜂の知識と経験の乏しいニホンミツバチを「飼う」ことを趣味とする人々のなかで、ニホンミツバチを「飼う」という行為に飽き足らず、ニホンミツバチはすぐ逃げる、飼いにくいなどの理由でセイヨウミツバチを「飼う」行為の末、専門的に管理する知識を持っていない為、昨今、セイヨウミツバチの分蜂群を多く見かけるようになったのではと感じます。
・・もちろん、そうではないかもしれません。私がニホンミツバチとの暮らしの中でそう感じることが少なからずあったと言うことです。
日本におけるセイヨウミツバチの近代養蜂は、セイヨウミツバチが外来種である以上、しっかりとした管理と技術と知識の上、養蜂業者さんが行うものであるべきではないかと個人的には思います。セイヨウミツバチの養蜂に少しだけ携わったからこそ、わたしはセイヨウミツバチの養蜂をしないという選択をしました。無知という意味では私も同様ですが、無知ゆえに、自然分蜂してしまった日本のセイヨウミツバチたちは、本当に野生化しないのでしょうか。
秋になると蜜を盗みにくるセイヨウミツバチをニホンミツバチの巣箱で頻繁に見るようになりました。しまいには越冬用の蜂蜜を盗られて全滅する群もみられます。もともと採蜜量はセイヨウミツバチとニホンミツバチでは圧倒的にセイヨウミツバチの方が多いわけです。その為、養蜂業として海外から日本に連れてきたのです。
自然淘汰という意味では、群が全滅することは珍しくありませんが、セイヨウミツバチが野生化することでニホンミツバチがもし絶滅危惧の一途をたどるのであればそれは人災と言わざるをえない。そう私は考えるに至るのですが、皆さんはどう考えるでしょうか。(農薬によるそれも無きにしも非ずですが、今回はセイヨウミツバチの野生化に留めておきます。)
2005年、ニホンミツバチとの暮らしを始めてから、近代養蜂で採れたセイヨウミツバチの蜂蜜を扱うことをやめていました。
セイヨウミツバチの分蜂群に出会うたび、近代養蜂の技術を持った養蜂家の方の存在の大切さを感じます。私が感じ取ったこの問題を私はどう自分の取り組みの中で発信するべきかを模索するのですが、現時点の答えは、近代養蜂業を営む養蜂家さんの長年の知識と技術の上きちんと管理されたセイヨウミツバチの蜂蜜をお届けし、問題を知っていただくことが生態系を少しでも守ることにつながると考えています。