Doomer入門
BoomerからDoomerへ
Doomerとは、海外でよく使われるネットミームです。
こいつがDoomerだ!
昔からPepe等と同じように色んなミーム画像で使われることが多かった、Wojakという白い顔でハゲのキャラクターがいますが、このWojakの変種の一つです。
これがWojak
Wojak自体は見たことがある人も多いでしょうが、DoomerはWojakに黒いニット帽をかぶせ、黒い服を着せて煙草をくわえさせた姿で描かれます。他にも目つきがやつれていたり、無精ひげを生やしていたりなどのパターンもあります。しかし、Doomerはただのネットミームのキャラクターではありません。それはひとつのライフスタイルとしての側面も持っているのです。
由来、発祥
元々は4chanで発生したミームのようです。まあ詳しいことはKnow your memeで見た方がいいですが、ここではかいつまんで書きます。まず最初に 30 Year-Old Boomer というミームがあったようです。これはよく分からないんですが、Boomerというのは知っている人も多いかもしれませんが、ベビーブーマーの事で、こちらの言葉でいう所の「老害」に近い意味合いです。となるとこの30 Year-Old Boomerは「30歳の老害」みたいな感じでしょうか?ジジイ化したWojakに何かジジイ臭い事を言わせるミームのようです。このミームの亜種として、いくつかの「-oomer系ミーム」が生まれました。Coomer、Zoomer、Bloomer等々・・・その中の一つがDoomerです。Doomerは、一言で言えばBoomerの逆の存在です。Boomerは恵まれた時代に生きた老人であるのに対して、Doomerは不幸な時代に生まれた若者として描かれます。海外(米国?)でも世代間格差というのは存在するようで、つまるところDoomerは、日本でいう所の氷河期世代みたいな存在です。Boomer達は、ただ普通に生きているだけで人生楽勝なのに、Doomerは普通に生きているだけでギリギリの生活。Boomerは生きているだけで丸儲けなのに対し、Doomerは生まれた時点で含み損といったところです。
世代間格差は日本だけではない
しかし、ミームにとっては由来ほどどうでもいいものは無い。どんなミームも時間がたつにつれどんどん変化し、一人歩きしていくもんでしょう。Pepeの原作の漫画について知っている人間がどのくらいいるだろうか?という事です。まあ覚えておくのは「DoomerはBoomerの逆の存在」ということくらいかな。
Doomerの特徴
DoomerはBoomerの逆の存在なので、基本的には金が無くて若い男性です。
外見的な特徴としては、
- 黒い服と黒いニット帽
- タバコをくわえている
- 無精ひげ
- やつれた目
といった感じ。
内面的な特徴としては、
- 孤独
- 酒、タバコに依存
- 無気力
- 不眠症
- 夜行性
- 空虚
- 鬱
等々。
最低限の賃金がもらえるしょうもない仕事に従事し、最低限の生活を送り、仕事帰りに酒やタバコを買って帰り、夜に酒を飲みながらインターネットを見てただ漫然と時間を過ごす。おそらく死ぬまでそんな生活を送るであろう哀れで孤独な存在として表現されます。日本でいう所の、無敵の人に近い存在かもしれません。ニートや引きこもりにも近い感じですが、一応仕事をしているという点では若干違います。このような特徴に当てはまる人間が、Doomerと定義づけられました。
古Doomer
「Doomer」で検索すると、Wikipediaの記事が引っかかりますが、この記事で述べられているDoomerはミームとしてのDoomerとはまた違うもののようです。どうもこれは名前の意味通り、人類の破滅・滅亡について真剣に考えている人々を指す言葉として、「Doomer」という用語が昔からあったようです。WikipediaにあるDoomerのページは、この昔からあるDoomerについて書いてあるようで、これを知らないと混同します。一応Wikipediaのこのページには、ミームとしてのDoomerについてもちょっとだけ述べてあります。
ライフスタイルとしてのDoomer
さて、30 Year-Old Boomerをはじめとする「-oomer系ミーム」は、元々は特定の「こういう奴よくいそう」な感じの人物像のステレオタイプを面白おかしく揶揄するのが目的だったようですが、Doomerだけはちょっと違う受け止められ方をしました。なぜかDoomerは共感の対象となり、そして自らをDoomerとして自認する人々が現れたのです。多分ミームとして提示されたこのDoomerを見て、「これは俺らの事だ」と感じたんでしょう。他人事ではなくまるで鏡を見せられているかのように自分の姿とオーバーラップする人物像を見たのでしょう。いわゆる「生きづらさ」を感じている人々が、このミームを発展させる主体になりました。
個人的に、私の身の回りにもDoomerの特徴に多かれ少なかれ当てはまる人間は思い当たりがあるし、私自身も昔お金が全然なかった頃はDoomerみたいな格好で出歩いていたような気がします。多分どこの国にもこのような若者は一定数いるが、しかしそれはこれまで可視化されてこなかった存在だった。それを偶然にもDoomerというミームが可視化したんじゃないかと思います。かくしてDoomerという言葉は、一つのライフスタイルを指す言葉としての意味も持つようになりました。日本では昔から引きこもりやニート、社畜というライフスタイルがそこそこ定着しているので、このDoomerの生態についてそれほど驚かないかもしれませんが、海外では今まであまり可視化されてなかったんじゃないかと思います。知らんけど。
Doomerの文化
Doomerが集まる場所として、私がいつもウォッチしているのはRedditのr/doomerというsubredditです。他にもr/doomers2というsubredditもありますが、こちらは若干人が少なめです。もともとはr/doomersというのがありましたが、いつの間にか閉鎖されていました。Redditではよくある事です。r/doomers閉鎖後にr/doomerとr/doomers2に人が流れた模様です。実はr/doomerというsubredditは11年ほど前から存在しているようですが、これはおそらく元々は古Doomerのためのコミュニティだったのではないかと思われます。ただ、今は完全にミームとしてのDoomerの住処となっています。これらのコミュニティで見られるDoomer特有の文化である、「Nightwalk」と「Doomer music」について紹介しましょう。
Nightwalk
Nightwalkとは、ようするに夜に出歩く事です。横文字で「ナイトウォーク」というとかっこいいですが、そのまんま夜歩きという意味です。ほぼ趣味らしい趣味を持たないDoomerにとっての唯一の趣味といえる行動です。Doomer達は、不眠で眠れない夜や、しょうもない低賃金労働の帰り道などに、あてもなくその辺の夜道をうろうろします。ただそれだけの事ですが、しかしそれがDoomerにとっての美学であり、とても重要な行為であるようです。上述のRedditには、Doomer達がNightwalkの最中に撮影した写真が多数アップされています。どれも特に面白いものが写っているわけではなく、ほぼ人の姿の見当たらない、空虚な夜道の風景が写っているだけです。他のSNS等で共有される写真とは違い、画面の大部分の面積を黒が占めているようなそんな写真が毎日のようにRedditのr/doomerにはアップされています。昼間には多くの人が出歩いているかもしれない空間が、深夜には誰もいない世界に様変わりしているというような風景が多く撮影されていて、さながら人類滅亡後の世界を垣間見ているような気分を味わえる写真ばかりです。ちなみにRedditにはr/nightwalkというSubredditもあり、こちらは純粋にNightwalk写真専門の所です。このSubredditは4年ほど前からあるようなので、おそらくNightwalkという行為自体はDoomerの発生よりも前から趣味として行われていたんだろうと思われます。
Doomer music
Doomer musicとは、Doomer向けの音楽を集めたYoutubeのプレイリスト動画です。著作権的にはどうなのか知りませんが、基本的に既存の曲を集めたもので、オリジナル曲などはありません。どうもNightwalk中に聴きたい音楽のプレイリストとして作られているようで、Doomerの美学にマッチした暗い音楽ばかりが並んでいます。初期のDoomer musicは、ザ・キュアー、ザ・スミス、デペッシュ・モードといったバンドやそれに近い雰囲気を持つバンドの曲を中心にあまりジャンルや年代を問わず選ばれていたようです。
これは再アップロードされた動画で、オリジナルは何故か日本の夜道の写真が使われていた
こういうのを聴きながらDoomer達はNightwalkにいそしんでいるわけです。そしてこのDoomerMusicの中でも特にDoomer達の人気を集めているのが、「Russian Doomer Music」というシリーズです。これは説明すると長くなるので簡潔に述べると、ロシアとその周辺のポストパンクのバンドの曲オンリーで構成されたDoomer musicのプレイリストです。
聴いてみればわかりますが、恐ろしいくらいにどんよりとして、ローファイな音質で憂鬱な音楽ばかりが揃っています。これはNightwalk中のDoomerの気分をいい感じに盛り下げるのにうってつけで、Doomer達の心を完全にキャッチしました。現状ではDoomer MusicといえばほぼRussian Doomer Musicといっていいほどに人気を得ており、このプレイリストのシリーズは現在Vol.16まで作成されて、それぞれ数十万から数百万の視聴数をたたき出しています。遠く離れた異国の地であるロシアでひっそりと作られていた謎の音楽が、偶然にもDoomer達の美学に適合してしまいこのような結果になったというのはとても興味深いところです。当のバンド達はこの状況をどう思っているのか知りませんが…。あと、Doomer musicと似たようなものとして、Doomerwaveという動画もあります。こちらは要するにVaporwaveの真似事をDooomer的な選曲でやってみたんだろうな、という代物ですが、Vaporwaveとは違って、単純に曲を遅くしてローファイにし、さらにレコードノイズのような音が入ってたりします。これはRussian Doomer Musicのプレイリストをアップロードしている人が作っているようです。
チルから鬱へ
というわけでDoomerとは何なのかについて大体自分の知っていることを述べました。始まりはただのネットミームの一種だったのが、いつの間にか一つのライフスタイルとして謎の文化を生み出すにまで至ったというこの物語は、日本の人々にとっても割と他人事ではない要素をいくつかはらんでいることでしょう。インターネットの表層を見ているだけでは見えてこない、声なき声がミームの形として具現化されるという出来事はこの時代ならではなんじゃないでしょうか。もしこれを読んだ皆さんが、自分もDoomerなのかも知れないと思ったなら、今すぐにでも黒いニット帽をかぶり、Nightwalkに出かけてみてはいかがでしょうか。
Doomerについての説明はこれで終わりです。この先の有料部分は特に見る必要のない完全なおまけです。まあどうせいつものSpotlightの常連さんしか見ないと思うので…