「皇帝」と「国王」の決定的な違いについて

「皇帝」と「国王」の決定的な違いについて

1月18日は、ドイツ帝国の成立から150年目の記念すべき日です!

1871年のこの日、ドイツ統一が成し遂げられ、ドイツ帝国が成立しました。

 

・・・「それがどうした?」と言われそうな話題ですが。

実際、私も記事のネタ探し中に、たまたま知っただけで、以前から特段の興味があったわけでもありません(笑)

でもせっかくなので、ちょっとそれにまつわる雑学でもかじっていってくださいな。

しばしおつきあいを・・・。

  

今日では、ドイツは知らぬ者のない先進国であり、EUの中心国の一つです。

しかし、19世紀後半に統一されるまでは、ドイツはいくつもの領邦国家が割拠する地域でした。

そんなドイツの統一を成し遂げたのは、領邦国家の一つ、プロイセン王国です。

鉄血宰相と呼ばれたビスマルクの下、プロイセンはドイツ諸勢力を糾合していきます。

対立するオーストリアとの戦争に勝利し、続いてフランスを破って、悲願のドイツ統一を成し遂げます。

 

ドイツ帝国の成立は、1871年1月18日、パリで宣言されました。

記念すべきドイツ統一が、なぜフランスの首都で宣言されたのか、それはまだ勉強不足でよく分からないのですが、タイミングとしては対仏戦の勝利の後だったせいもあるでしょうし、パリはヨーロッパの中心でもあったので、広く内外に宣言するにはうってつけの地だった、ということもあるのでしょう。

ドイツ帝国の成立とともに、プロイセン王国の国王ヴィルヘルム1世が、ドイツの皇帝となります。

上の絵画では、壇上にいる白いヒゲの人物がヴィルヘルム1世です。

 

 

さて、ここで少し考えて欲しいのは、この「皇帝」という地位です。

皇帝とはなんなのか?

国王と何が違うのか?

ーーあなたはどう説明しますか?

 

 

国語の辞典を引くと、こんなことが書いてあります。

「皇帝・・・帝国の君主」

ふむふむ、皇帝というのは帝国を治める人のことか。

そう思って、「帝国」をひくと、こう書いてあります。

「帝国・・・皇帝が治める国」

 

こ、これは辞書あるあるですね。

皇帝ってのは帝国を治める人で、帝国は皇帝が治める国。

循環しちゃってるよ!

こういうこと多いなぁ。ぶつぶつ・・・・

 

 

閑話休題。

「皇帝」とは何か。

 

 

それは、「選挙で選ばれた統治者」なのです!

 

 

・・・え?

選挙?

皇帝って、そういうんじゃないでしょ?

独裁者とか、専制君主とか、そういう存在でしょ?

選挙って、それじゃあなんかこう、民主的じゃん。

 

そう思ったアナタ!

せっかくなのでちょっと聞いてください。

皇帝というのは、自分で「おれは皇帝だ」と言うだけでは、名乗る資格がないのです。

皇帝になるためには、多数の同意や承認によって、選ばれなくてはならないのです。

 

たとえば、古代ローマの皇帝は、元老院の承認を必要としました。

また、神聖ローマ帝国の皇帝は、選帝侯の選挙によって選ばれました。

時代は下って、ナポレオンは、国民投票によってフランス皇帝になりました。

 

以上のように、手続き的には、皇帝になるには選挙を経なければならないのです。

少なくとも、他の誰かが認めてくれなければ、皇帝とは名乗れないのです。

ドイツの皇帝も、諸邦の推戴を受けることによって、皇帝と称することができたのです。

 

 

『スター・ウォーズ』シリーズのエピソード3で、銀河帝国が発足する場面があります。

パルパティーン議長(ダース・シディアス)が、銀河共和国の解体と、銀河帝国の成立を高らかに宣言しますが、これは元老院の議場で行われました。

これは万雷の拍手を受けて、承認されます。

この場面以降、パルパティーンは皇帝と呼ばれることになります。

 

これは非常に象徴的です。

スターウォーズのようなエンタメ作品、SF映画でも、「皇帝とは、人々から選ばれた者」という原則が、守られているのです。

それくらい、この原則は、欧米人にとっては当たり前の感覚なのでしょう。

 

では、国王とは何か。

皇帝と違うのは、国王になるには血統が重要だ、ということですね。

王位につくには、王家に生まれることが大前提です。完全に世襲の世界です。

皇帝の場合、世襲でなくて良い。(ただし世襲でもOKです)

 

 

そういうことが分かってくると、日本国憲法の冒頭の矛盾も、ちょっと解けますね。

「日本国憲法の冒頭の矛盾」とは何か。

それは、第1条と第2条です。

 

まず、第1条には、こうあります。

「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」

つづく第2条は、こうです。

「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」

 

おわかりでしょうか?

第1条では、天皇の地位は「国民の総意」によるものだとしながら、第2条では「世襲」だとしているのです。

おいおい、どっちなの???

 

しかしこのあたりも、欧米人の感覚でこうなっているんだ、と思えば、疑問は解けるのではないでしょうか。

日本国憲法の草案をまとめたのは、GHQ、つまりアメリカ軍です。

「天皇」は、英語ではemperor(=皇帝)です。

皇帝であるからには、欧米人の感覚では、他からの同意・承認を受けているはずなのです。そうでなければ皇帝を名乗れません。

そこでまず、第1条に「国民の総意」が来ます。そして、その総意が、世襲を認めている、という形になっているのです。

(これで法規範として問題ないかどうかは、また別の話です。あくまで、欧米の感覚で憲法が起草された結果、一見矛盾したような条文になっている、という意味です)

 

要するに、西洋の皇帝と、東洋の皇帝(日本の天皇含む)は、違うということですね。

 

 

ちょっと話があちこちに飛びましたが、今回は世界史の雑学の話でした。

楽しんでいただけたでしょうか?

最後まで読んでくださって、ありがとうございました!

  • 1 天皇は,日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって,この地位は,主権の存する日本国民の総意に基づく(憲法第1条)。
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