ワインの「開いている」「閉じている」「飲み頃」とは?~後編~
みなさんこんにちは。今回はワインの「開いている」「閉じている」「飲み頃」についての後編となっております(前編はこちら)。前編同様に専門的な内容となっておりますが、どうぞ最後までお付き合い下さい。
ではまずは、前回途中になった「閉じている」ワインについて、一体どのようなメカニズムで発生するのかを見ていきたいと思います。これを理解する為には、ワインの香りの特性について知る必要があります。
ワインには、主に「発散されやすい香り」と「発散されにくい香り」の2種類が存在します。「発散されやすい香り」は、フルーツや花などのアロマティックな香りで、ワインが若い時期に最も豊かに存在し、そのピークは時間の経過と共に右肩下がり(穏やかに)になります。
逆に「発散されにくい香り」は、スパイスや土っぽさ、ミネラルや蜂蜜などの複雑さを与える香りで、ワインが若い時期にはほとんど香らず、そのピークは時間の経過と共に右肩上がり(豊かに)になります。
つまり、ワインの香りは、最初はフルーツや花などのアロマティックな香りが支配的に存在し、その後時間の経過と共にその香りが徐々に弱くなっていき、そのうちにスパイスや土などの複雑な香りが徐々に強まっていき、最終的には支配的に存在するようになるわけです。
この香りの逆転現象ですが、同じタイミングで起きればいいのですが、実際はそれぞれの香りのピークに時間差があるため、どうしても「発散されやすい香り」と「発散されにくい香り」の両方が弱い時期が存在してしまうのです。この、香りが最も少ない状態の事を英語で「closed(閉じていると言う意味)」と表現する事から、日本語の「閉じている」と言う表現につながるわけです。
前編で、「(香りが立たない場合)若いワインのほとんどは「還元状態」であるが、ある程度熟成してくると「閉じた」状態になる」と言った話の真理が、この香りの原則に則って考えれば理解できるわけです。そして、香りが最も少ない状態のワインに対して、デカンタージュなどを行っても香りのボリュームが増える事はないので、「閉じている」ワインは「開かない」のです。
こうやって考えてみると、「閉じている」と言う表現はある意味「飲み頃」と密接に繋がっている感じがします。つまり、「閉じている」ワインは飲むべきタイミングではないので、それは「飲み頃」ではないと言えるわけです。
これでなんとなく「開いている」「閉じている」「飲み頃」についてわかってきましたが、実はもう一つだけ押さえておきたい表現があります。それは、前編でも紹介した「還元状態」のワインに見られる「還元臭」と呼ばれる香りについてです。
前編では、「還元状態」とは酸素不足の状態で、その状態ではワインの香りが立たないと書きましたが、実はそれ以外にもある現象が起こります。それが「還元臭」と呼ばれる香りの発生です。
「還元臭」には、主にゆで卵やたまねぎ、腐った卵のような硫黄っぽい香りであったり、火打石のような少しスモーキーな香りがあると言われています。これらの香りは、硫化水素やメルカプタンなどの硫黄化合物によって発生するのですが、ワインが「還元状態」にあるとこれらの硫黄化合物が生成されやすくなるのです。
他にも、ワインを造る際にブドウ果汁の中の窒素が不足すると、酵母は硫黄化合物を生成します。さらに、ワイン造りにおいて「嫌気的な醸造」を行うと同じく硫黄化合物が生成されやすくなります。
「嫌気的な醸造」とは、簡単に言うと極力酸化をさせないように還元的な環境で造る方法です。ワインは、ブドウを収穫した時から酸化が始まっているので、フレッシュな味わいを保つために、または酸化防止剤などを添加しないようなナチュラルワインなどでは、この「嫌気的な醸造」がよく行われます。すると、ワイン中に硫黄化合物が生成されやすくなるのです。
ちなみに、これらの「還元臭」と呼ばれる香りは、酸素と触れ合うと徐々に消えていきます。ですから、このような香りがした場合は、グラスなどをスワリングしたり、デカンタージュをする事で嫌な香りが消え、ワインが本来持っている香りが前に出てくるようになるのです。
いかがでしたか?自分でも書いていてまとめるのに苦労しました(笑)。難しい内容でしたが、なんとなくはわかっていただけたかと思います。しかし、こうやって考えるとワインってとってもデリケートで手間が掛かる飲み物ですね(笑)。
取り敢えず、ワインを開けて飲んだ時にイマイチだったら、スワリングなどをして酸素と触れ合わせてみて、味が良くなったら「開いた」、変わらなかったら「閉じてる」から「飲み頃」じゃない、もしくはそのワイン自体がそもそもあまり美味しくないかのどれかと言う事ですね(笑)。