「Resistance Money」感想①

「Resistance Money」感想①

「Resistance Money -A Philosophical Case for Bitcoin-」を読んでの初心者観点での感想を投稿していきます。月一で投稿すると言いつつ2か月経ってしまいました。本書でいう1章 Bitcoin Genesisから2章What Bitcoin Really Isまでが本記事分の対象です。ほぼ活字です。

 なお前回記事(感想⓪)は以下参照。

https://spotlight.soy/detail?article_id=ed5kgrqo7

 

【目次】

  1. ビットコイン×公民権運動?
  2. ビットコインはぽっと出の新技術じゃない
  3. 現金って案外悪くないね
  4. 貨幣と私たちの間には何が介在しているのか?の整理
  5. その他雑感

 

【1. ビットコイン×公民権運動?】

本書の導入では、ビットコインの前史としてサイファーパンク(cypherpunk)の活動について言及していました。ビットコインは実はこのサイファーパンクの系譜の先にあるという話は、世の中におけるビットコインの立ち位置を知る上でとても大事な話だと思いますが、本書を読んで初めて知りました。そもそも普通に生活している人間が聞く単語ではまずないでしょうし、おそらく大半の日本人は聞いても、サイファーパンク?サイファーポールのこと?となるでしょう。

「サイファーパンク」という言葉の生みの親はJudith Milhon(通名St. Jude)という女性活動家で、実は元々は1960年代の米国公民権運動の積極的な活動家であったようです。権力者からの支配や検閲からの解放、プライバシー保護、市民的自由に向けた活動の場を電脳空間に求めた活動のようです。

まさかビットコインのルーツに半世紀以上の歴史の系譜があったとは、それも教科書を通じて誰もが知っているような社会思想のバックボーンがあるものだとは、この本を読むまでは夢にも思いませんでした。ビットコイン自体decentralizationを強く志向したものことは重々承知しているつもりではありましたが、じゃあなんで?というところにまで理解が及ぶか否かでビットコインの見え方が全然違ってくると思います。

この歴史的な観点を持つと、ビットコイン界隈の人がなぜこれだけ(仮想通貨に関連するトピックであるか否かに関わらず)政府の活動を目の敵にしたり、昨年6月のジュリアン・アサンジ被告の釈放に反応したりするのかが、より深みを持って眺めることができます。

 

【2. ビットコインはぽっと出の新技術じゃない】

思想的な系譜だけでなく、技術的にも歴史があるとは知りませんでした。おそらく世の中の大半の人は、ビットコインは最近ひょっこり現れたものだ、もしくはサトシナカモトが2008年に突然思い付いたものだと思っているんじゃないかと思います。(少なくとも私はそう思っていました)

ただ実際にはビットコインの仕組みは、実際は数十年かけてサイファーパンクの人たちが培った試行錯誤や改善を経て発展させられてきたもので、DigiCashやb-money、hashcash等で脈々と培われた暗号技術や台帳技術やPoW等々の手法が最終的にビットコインの仕様として結実している歴史があるようです。そもそもPoWの概念自体、ビットコインより前からあったんですね。。ビットコイン、貨幣システムとして根本的な問題なしによく続いているなと私は思っていましたが、過去の先人たちの試行錯誤や挑戦、失敗・検証の上に成り立っていることもその一因なのかなとも思いました。(もし違ったらすみません)

これは完全に私の想像ですが、きっとビットコインが世に出た2007年当時のサイファーパンクらの反応は、(私のような大半の一般人らが2010年代に感じた)「なにこの変なの」ではなく、「ほう、そう来たか」といった具合の、(二重支払問題を解決した意味では)革新的ではありつつも一応既視感のある技術内容のホワイトペーパーであったのではないかなと妄想しました。ぽっと出の発明ではなく、上記のような歴史が紡いだ技術なんですね。

 

【3. 現金って案外悪くないね】

すごく雑な表現ですが、巷のビットコイン初心者の多くが(少なくとも私は)、最初に持つビットコインのイメージは、非中央集権の革新的な新経済、といったイメージじゃないかなと。逆に言うと既存の貨幣・経済システムに対する不満や課題へのアンチテーゼのような視点です。

そんな私としては、一方で本書が現金の利点についても多く言及していることが新鮮に感じられました。言われてみれば確かに現金には検閲もないですし、キャッシュのやり取りも保有することも、間に人を挟まずにできたりと、、実は現金ってP2Pの強みを持ったすごい通貨システムなんです。

そんな現金主流の通貨世界にもデジタル化の波が来るとどうでしょう。21世紀に主流となってしまったクレカやQRコード決済等、デジタルキャッシュは基本的に金融機関や決済業者が必ず介在します。その結果、これまで過去聖域であった通貨取引にまで当局の検閲やプライバシー侵害が及び市民の自由や権利が侵害されつつあるのをサイファーパンクは防ぎたかった。その上で現金の持つ強みに加えて現金の持つ制約や限界を取り除いたdigital cashこそが、本書で「サイファーパンクの夢」と表現されたビットコインだそうです。

 

【4. 貨幣と我々の間に何が介在しているのか?の整理】

つまらなさそうな小題をつけてしまいましたが、個人的には本書でトップレベルで「なるほど」と感じた内容です。ビットコインのネットワークはP2Pだ、というのはよく言われていますが、本書ではもう一歩踏み込んで説明がされていました。

まず伝統的貨幣では、信頼された第三者が①Manager(資産の保管・管理者。銀行)②Mediator(仲介者。銀行、クレカ会社等)③Maker(貨幣の発行者。中央銀行等)の3つの役割を担っており、それらをトラストすることで現代社会が機能してきました。しかし本当にこれら第三者をトラストできますか?という疑問提起と共に、ビットコインはこれら第三者を排した貨幣システムであるとの説明がされていました。

すごく分かりやすい整理で、私も過去②MediatorはP2Pのイメージで意識することも多かったですが、①Managerと②Makerの観点は抜けていた視点でした。彼らは私たちを監視し、干渉し、そして時に失敗する訳ですから。。。

特に日本人からすると、これだけ円安が常態化する中で、本当に中央銀行(③Maker)の采配能力をトラストしてよいのか、考えずにはいられませんでした。(もっとも彼らの存在意義は貨幣価値の維持というよりは物価の安定と雇用の最大化ですが。。。)

ビットコインが実現する障壁として、他の書籍ではほぼ決まって二重支払い問題が言及されている印象でしたが、開発者であるサイファーパンクとしては技術面だけでなく、このManager/Mediator/Makerの三者が不要のデジタルマネーでないと成立し得ない、つまり当局に規制されてしまうというサイファーパンクの課題意識もこれまで私になかった視点で非常に新鮮に感じました。(managerがいると、資金を差し押さえられてしまう、makerが詐欺やマネロンだとして訴えられてしまうetc.)

【5. その他雑感】

以下は枝葉的な話ですが、有料記事側に初心者観点での雑多な感想をメモしました。

  1. ビットコイナーは詐欺師?
  2. Bitcoin is complex
  3. ビットコインのムラ社会
この続き : 454字 / 画像 0枚
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