
「Resistance Money」感想③
「Resistance Money -A Philosophical Case for Bitcoin-」を読んでの初心者観点での感想を投稿していきます。4章Behind the Veil、5章Money Machineが本記事の対象です。前回記事(感想②)は以下参照。https://spotlight.soy/detail?article_id=hzce3qoou
【目次】
- 私たちは日銀を本当に信用できるか?
- ビットコインは本質的に価格変動が激しくなるよう設計されている
- ビットコインのボラティリティは永遠か?
- ビットコインのありがたみ
- その他雑感
【1. 私たちは日銀を本当に信用できるか?】
一般人の大半は恐らく日銀を信頼して円を使い続けているでしょうし、中央銀行を疑う人は世の中でもごくminorityだと思います。正直私も日銀の中の人の能力自体は疑ってはいません、日本でも本当に選りすぐりの人材が日本の金融を担っているのだと思っています。なんとなくビットコイナーは、二元論的に中央組織の人間も悪とみなしがちなきらいがあると私は感じますが、日本のような平和で汚職も相対的に少ない国において、政治家はともかく中央銀行をトラストするな!というのは少し難しいと思います。
ただ、本書の観点で面白かったのが、中央銀行というのは結局外部からの影響、特に政治分野からの影響や圧力に無関係でいられないという点です。トランプによるパウエルの利下げ/解任を巡る議論がまさにそれですし、昨年の夏ごろ当時の岸田総理と植田総裁との「面会」後に植田総裁の発言のトーンがややタカ派/金融引き締めに変化したのでは?との報道も見られました。(具体的な面会やコメントされた内容はまさに中央集権的なシステムであるために、我々には伺い知ることはできませんが)。他の途上国だと猶更そうだと思いますが、中央銀行の人間がどんなに優秀で潔白でも結局は人間であり、社会や為政者からの圧力から無関係ではいられないんだなということを認識させられました。
ビットコインは、適切な政策決定が下せない(リスクのある)人間でなく、いわば「マネーマシーン」としての機構を提供することでmakerの信用リスクを排しているという訳です。
【2. ビットコインは本質的に価格変動が激しくなるよう設計されている】
ビットコインは株式や金など他の多くのアセットと比べても特にボラティリティが大きく、ビットコインを保有する前からなぜだろうなとは思っていました。一般的にはリスク資産だから、という説明をよく聞くように思いますが、本書では、以下3つの理由から、その「マネーマシーン」としての仕組みと引き換えに、本質的にボラティリティのある資産としてデザインされてしまっているという面白い観点が紹介されており、ビットコインの値動きに対する見方が大きく変わりました。
- ①貨幣の供給に柔軟性が全くないから:新古典派経済学では、市場価格は需給の均衡によって決定されます。しかしビットコインにおいては需要の増減に関係なく供給(つまりビットコインの発行数)が機械的に一定であるため、小さな需給変動が大きな市場価格の変動につながります。
- ②半減期による供給減:4年に1度ビットコインの供給量が半減することで需給バランスが崩れるため、①の通り大きな価格変動をもたらします。なお本書では、あえてサトシがこのような半減期をプログラミングしていたのは、サトシがこのようなボラティリティを許容していたのだという証左でもあるという指摘は面白い観点だなと思いました。
- ③makerの欠如:たとえ外部環境がどうなろうと、発行スケジュール以外に新規でビットコインが刷られたり償却されたりされることはありません。それらはFiatにおいては中央銀行が担ってきたものであり、まさにビットコインが避けたいと思っていたものだからです。
以上見たように、中央銀行による貨幣の供給量の調整(による貨幣価値の安定)が全くない点で、価格の安定と供給の安定はトレードオフの関係だという説明は興味深かったです。
【3. ビットコインのボラティリティは永遠か?】
投資的な意味ではすごく気になる内容ですね。本書では、ビットコインの価格変動は将来的に安定するという見解が示されていました。そもそも既に年を追うごとにボラティリティはとん減傾向にありますが、加えて以下を理由とした投機的需要の割合の減少が価格安定につながると主張していました。
- 投機的需要はミームコインやミーム株に流れる
- より多くの安定的な資産運用者のポートフォリオに採用される
私は、大筋同意ですが、上記を言い切るまでは難しいと思います。
前者については、裏を返せば投機家の好む特徴があり続ける限りビットコインはボラティリティが生じ続ける訳ですが結局は半減期アノマリーのタイミングでぐっと需給は変動するんじゃないかなーと思います。サトシナカモトは上記【2.】の通りおそらくボラティリティを容認した設計にした訳ですし。
後者については、ビットコインETFを通じた一般投資家の取得が進む一方で、国家や企業といった大口による取得も進んでいる訳ですからどうなるんでしょうね。少なくとも今はストラテジー社1社の動向如何だけで価格が増減する状況な訳ですし。何より本書では「有事に備えたresistance moneyとしての資産のポートフォリオに組み込む人が増え」ることを言及していますが、本当にビットコインの本質的な価値と意味を分かっている人たちはETFとして購入はしないはずです。そういう人たちが特定の経済状況下で保有するビットコインの扱い方は、本当に投機的でないのかなとは疑問に思います。
【4. ビットコインのありがたみ】
ビットコインを持っていて「助かった!」、と感じたことありますか?私は正直無いです(笑) もちろん投資的な意味でビットコインを持っていて「正解だった」くらいには思いますが。。
まがりなりにも先進国に生まれた我々がビットコインのありがたみを感じる機会は正直少ないですが、一方で「国ガチャ」という言葉があるように金融政策が破綻した国もある訳で、そのような国に住む人にとってはいわば「救命艇」としてビットコインが自身の資産保全の選択肢となりうるとの話でした。
確かにこれを読むと、他でもないエルサルバドルやアルゼンチンがなぜビットコイン関連でよく話題に上がるのかが分かります。もっとも価値の保全という観点だけで見たら金や株式や他国通貨で基本は担えるんじゃないかとは思いますが、おおよそ破綻している国ではそうした資産もベイルインされたり預金封鎖されたりする訳ですから、自由に出し入れ/取引できるノンカストディアルな資産という意味では他のアセットにない強みだと言えます。
必要に迫られた実用重視でのマスアダプションとなると、実際の街でのライトニング決済やビットコインATMといったものは、先進国よりこういった国々の方がより早く進んでいくんじゃないかなと想像しました。無いと困る訳ですから。
【5. その他雑感】
以下は枝葉的な話ですが、有料記事側に初心者観点での雑多な感想をメモしました。
- ビットコイン用語はカタカナでなく和訳が生まれてほしい
- Bitcoin offers rule of law