サイバーリバタリアニズム/デジタルデモクラシー領域における新しい公共のあり方について
・テクノクラート的な領域で発展を遂げた技術/産業が、ユースケースごとに自治体主義などさまざまな思想領域と溶け合い、より複合的な社会基盤として公共性を有する/人間的な市民主義へのシフトを促進する可能性のある事例(= 「新しい公共のあり方」と定義)
などについて今回は考察していきます。✌️
参考文献:クリプト関連の公共財の議論
■簡単なまとめ
①サイバーリバタリアニズムと公共
:価値交換手段としてのCryptoと公共性
:Bitcoin Lightning Networkと自治体主義
:サイバーリバタリアニズムから公共的な決済インフラとしての活用へ
※公共財というよりは公共インフラ=社会基盤(金融/決済)の側面からの考察
②デジタルデモクラシーと公共
:民主主義的な国家システムの維持の歴史と検閲による国家システムの維持(監視資本主義)
:民営化による共同体生活/市民文化の毀損とCryptoによる再生/再公共化の可能性
:Ethereumによる人間的な自治体主義へのシフト
【補足】※ざっくりとした思想分類
■①サイバーリバタリアニズムと公共 -Bitcoin Lightning network-
サイバーリバタリアニズムは、 1990年代初頭のシリコンバレーにおけるインターネット初期のハッカーサイファーパンク文化と米国のリバタリアニズムにルーツを持つ政治哲学です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Technolibertarianism
ビットコインは、初期のシルクロードやサイファーパンクとの親和性などを含め国家や政府に依存しない新しいお金のあり方を世に提示し、現在においては「価値の保存手段」から「価値の交換手段」へとその役割を変化させています。
アフリカ諸国においてはBitcoin Lightning networkによって国際送金がより効率的に行われるようになるなど、金融インフラとしての普及が進行。
また、フューチャーフォンで電話番号でLightning network間の送受信を行うといった事例も存在しており、小規模ではあるものの金融包摂の文脈においては、新しい決済手段として注目されています。
Bitcoinが登場して以来、国家のリキッド化や法定通貨が普及する以前の贈与経済等をも巻き込んで、デジタルな地域通貨やコミュニティトークンに関する議論は数多く存在してきましたが、サイバーリバタリアニズムの中から立ち上がったBitcoinが国家の法定通貨よりも信用度の高い貨幣として機能する地域や経済活動の拡大が期待されます。
現在の国民国家や貨幣制度のあり方が解体されていく背景には、
・米ドルを基軸通貨とする国際的な枠組み(石油取引への人民元の採用など)が弱体化していること
・貨幣の大量発行に依存した金融政策によって旧態依然とした国家システムを維持(2012年- 日本などが筆頭)
など、複合的な要素があり、加速主義や新反動主義的な思想のみならず、再公共化によって市民に寄り添った社会システムの構築を目指す、民主主義的社会主義や自治体主義(ミシュパリズム)といった思想の台頭も確認されています。
サイバーリバタリアニズムの中から立ち上がった貨幣的概念/存在が、途上国を中心とした地域経済と強く結びつき、
・より複合的な社会基盤として公共性を有する/人間的な市民主義へのシフトを促進する可能性のある事例(= 「新しい公共のあり方」と定義)
として2023年2月においてはある一定の公共性を有していると考えました。
サイバーリバタリアニズムの極地として富裕層のニュージーランド移住などが確認されていますが、デジタル技術を活用して最終的に人類がどの程度まで到達できるのか、サイバー空間におけるNetwork State的な国家、コミュニティ形成時の貨幣制度はどのような貨幣的概念/存在がふさわしいのかなどより多角的な議論が今後も期待されます。
最近では、企業リバタリアニズム、合成テクノクラシーといったようにジャンル分けなども進んでおり、Lightning networkを貨幣経済の基軸とした地域システムの構築が、行き過ぎた資本主義を補完、または加速させることなどを念頭に今後も調査を進めていきます。
https://twitter.com/AkioHoshi/status/1623592231331565571
■②デジタルデモクラシーと公共 -Ethereum-
①においては割とざっくり感でまとめてみましたが、デジタルデモクラシーと公共に関してはEthereumを主題により多元的な民主主義を支える公共のあり方について考察していきます。
国家の成熟度により民主主義的な国家を目指す/維持する取り組みは様々ですが、日本の場合には
・ソ連からの極東の防波堤として会社主義に代表されるマクロ的純粋資本主義/ミクロ的社会主義が融合した社会システムの構築/発展(1980年代)
・清和会を中心としたグローバリズム、新自由主義の推進(2000年代)
・金融緩和政策を基本とした日本式システムの維持(2010年代)
といったように様々な国際的情勢に対応して国家システムを構築/維持してきた歴史があります。
近年においては中国の監視資本主義に代表される検閲による国家システムの維持が問題とされており、デジタル技術を活用した民主主義についての理解醸成が急務であると言えます。
また、デジタル技術が従来の民主主義や国民国家のあり方を一変させた事例として
・ケンブリッジ・アナリティカによる群衆操作の効率化
などが挙げられますが、2023年において認知戦はより高度化しており、台湾などではNPOや市民団体が自主的なファクトチェックを行うといった事例も確認されています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221206/k10013914251000.html
身近なところだと日本の回転寿司店に監視カメラが導入されるなど、社会規範の維持に向けてデジタル技術を活用した監視システムはより必要不可欠になってくると想定されます。
国家や社会が不安定化するのに対応するためにデジタル技術を活用した監視/検閲による社会システムの維持は重要となり、さらにはグローバリズム、新自由主義の推進とともに民営化による共同体生活/市民文化の毀損なども近年における公共の課題であると考えられます。
その上で、デジタルデモクラシーと公共を考える上では、上記の大局的な領域のみならず、地域やコミュニティを起点とした貨幣制度や民主主義について考察する必要があると考えました。
Ethereumは、「Ethereum is a protocol for human coordination」を前提とし、下記のような事例を創出しており、参加型の民主主義の実現にむけて大きな注目を集めています。
・パッチワークキングダムNFT
・山古志村NFT
・VITA DAO
・Gitcoin
https://joi.ito.com/jp/archives/2022/08/01/005811.html
今後、国民国家や民主主義そのもののサイズが最適化され、より市民主義的な側面が強化される場合において、Ethereumは、人間的な自治体主義へのシフトを促進し、Cryptoによる共同体生活/市民文化の再生にもつながる可能性があると各事例を通じて考えました。
各事例は、社会的にはまだ小規模であり、ブロックチェーン技術の採用が共同体生活/市民文化の再生に必ずしもつながるわけではありませんが、
・ネットワーク内の人々がホリスティックに協力し合う「多元主義(Plurality)」を促進するアプローチ
https://wired.jp/article/vol47-the-world-in-2023-glen-weyl-politics/
の1つとして大きな参考になると思います。
デジタルデモクラシー領域では、
・Quadratic Voting
・Quadratic Funding
など民主主義における貢献と分配の最適化を目指す取り組みも行われており、共同体生活/市民文化と統合した新しい民主主義の事例創出が期待されます。
まとめ
「価値交換手段としてのCryptoと公共性|デジタル公共財による参加型の民主主義の実現と人間的な自治体主義へのシフト」といったテーマで調査してみました。
次回以降、ジェレミーリフキン「限界費用ゼロ社会」などを参考に「デジタル公共財」について多角的な考察を展開できればと思います!