ラチェット効果とビットコイン

ラチェット効果とビットコイン

色々まとまっていない雑文。

はじめに

ラチェット効果とは何か。辞書の定義を載せておく。

https://www.weblio.jp/content/%E3%83%A9%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%88%E5%8A%B9%E6%9E%9C

《ラチェットは、歯止めの意》物価が上昇して実質的な購買力が低下したり、増税などで可処分所得が減少したりしても、貯蓄を取り崩すなどして、消費者がそれまでの消費水準をしばらくの間維持しようとすること。景気の底堅さを説明する理由の一つとされることが多い。歯止め効果。

以下の記事を引用する。

「一度生活水準を上げると下げられない」って言うけどそんなことないだろう → やっぱ本当だった http://simple.publicgoods.biz/living-standard-ratchet-effect/

  1.  収入が減少したが家族間に信頼関係がないため相談することができない。
  2. 一時しのぎとして生活費補てんのために借金を始める。
  3. 膨らんだ債務を一気に解消するためにギャンブルなどにのめりこむ。

この結果、最終的に破産状態に陥るパターンのほうが実は多いのだ。

以上から、「意志の力だけで収入減という問題に対処することは非常に困難」という結論が導かれる。

知人の多くが「ビットコインの世界にのめり込む時に生活水準が下がる経験をした」という話を直接の伝聞で知っているので「生活水準の低下に耐えることができる能力」「物欲を抑える能力」は普遍的なものだと思っていたし、これが特殊能力であると長いこと気が付かなかった。

資産運用の話をしたいわけではない。もっと根本的に、ビットコインはこの「大多数の人間は生活水準の低下に耐えることができない」という観測事実の上に成立しているのではないかと論じてみる。

P2Pネットワークの規制が難しい理由

根本的な話として、なぜそもそも一般大衆がビットコインを攻撃することが斯くも難しいのか考えてみると、インターネットの遮断が難しいという話に行き着く。インターネットの遮断そのものが生活水準の低下に繋がりうるという議論も可能だが、ひとまずインターネット自体は生活の質と直接関係ないとしてみる。しかしインターネットの自由な接続がなくなると、貿易によって外貨を稼ぎ、不足する資源を外部の市場との交換によってより効率的な価格で(つまり安価に)入手することが難しくなり、効率的に外部の市場の需要に応えることもできなくなる。

「それでもエリートや大商人たちだけがインターネットと接続していれば必要なものは手に入り、生活水準は維持されるのではないか」という指摘はありうる。しかし、本当の理由は謎に包まれているのだが、統制経済というものは歴史を振り返ると長期的に大衆の生活水準を維持できたためしが無い。「市場経済」なるものは存在せず、個別の全く形式の異なるコミュニケーションの集合だけが存在するから統制経済は不可能なのだとか、統制経済を強いるにはこの世界は複雑過ぎるのだとか、仮説は色々あるが、とにかくなぜか上手く行かないのだ。

ビットコインの価値保存手段としての効率性と、その富の偏在のおそるべき不平等さを観察すると、一般大衆がこれを攻撃しないと考える方が難しい。そして実際にインターネットを遮断する意志によって攻撃は実行可能なのだ。生活水準の維持という両立不可能な目標を置かなければ。

使用規制が難しい理由

以上でビットコインの存在は保証されることが分かったが、その使用についてはどうだろうか?ビットコインの使用を完全に禁止すればマイニング業者は電気代が支払えなくなるのではないか?そもそも規制は一種の賄賂に過ぎないのだから賄賂のマージンを大きく支払うことで回避可能であるとか、色々な反論は可能だろう。ここではあえて別の反論を考えてみる。

誰でも寄付や商才に頼らず対等な取引を通じてビットコインを自由に輸出入できる。それは、貿易という究極の決済手段が存在し、貿易の市場価値というものが非中央集権的に決定されているからである。例えば、マイナーは貿易会社を兼務し、ビットコインを非公式に輸出することで元々の商品価格と異なる金額で商品を決済できる。その差額分がマイナーの表面上の利益になり、電力料金に充てられる。

貿易という決済手段が無ければ、完全に規制された市場においてはビットコインを外部の市場に対して効率的に売買できず、価値が決定できない。もちろんビットコインを使いインターネットで完結するコンテンツを販売するとか限定的な稼ぎ口はあるだろうが、経済が外部の資源に依存している世界では貿易の方がはるかに重要である。そしてまた貿易の話に帰着したが、生活水準を下げずにこれを統制することは難しい。

おわりに

興味深いことに、生活水準の低下に耐えられる人間が夜も眠るのを忘れて学ぼうとしたビットコインは、生活水準の低下に耐えられない人間の性質によって支えられている。「片方のグループにだけ選択肢がある非対称なゲームである」という一般的な説明で本当に説明になっているのかは分からない。当然だがグループの全てのメンバーについて成立するものではないし、例外も承知しているが、傾向としてはビットコイナーの特徴であると言えるのではないだろうか。

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