神の音「乱声(らんじょう)」によって、カオスからコスモスへと変転・生成する

神の音「乱声(らんじょう)」によって、カオスからコスモスへと変転・生成する

 若宮祭にも参勤する南都楽所の楽人であった狛近真(こまちかざね)による『教訓抄』巻一は、この乱声(らんじょう)を説いて次のように言う。

抑(そもそも)、神祇(じんぎ)先霊を祭る時、乱声(らんじょう)を発し神霊を驚かすは、天地を撥(はら)ひ王業を陳(の)ぶる古例たり。但(ただ)し、神は非礼を稟(う)けず、仍(すなわ)ち、五音七音の外、夷狄(いてき)の音を聞かざる故、正花の音(こえ)を以て乱声(らんじょう)を奏(そう)し、天下に和を致し、神分(じんぶん)となす。

続いて五音・七音・十二調子についての記述がなされる。すなわち、乱声(らんじょう)は舞楽の祭祀儀礼上のはじまりに位置するとともに、その音楽の膨大な体系の基調音をなす、神に属す音声なのである。実際、乱声(らんじょう)のうちに経験されるカオスからコスモスへと変転しつつ生成するダイナミックスを、その認識は裏打ちしてくれる。

(出典: 阿部泰郎 (2001年) 「一 乱声」, 「序章 中世の声」, 『聖者の推参: 中世の声とヲコなるもの』, 名古屋大学出版会, 3~5ページ.)
(※引用者が一部の読み仮名を追加しました。)

この下の漢文は、上記の文章で紹介されている、『教訓抄』第一巻の原文です。

抑祭神祇先霊之時、発乱声驚神霊者、撥天地陳王業為古例。但神不稟非礼。仍五音七音之外、不聞夷狄之音故、以正花音奏乱声、致天下和為神分。

(出典: 植木行宣(校注) (1973年) 「乱声事」, 『教訓抄』巻第一 嫡家相伝舞曲物語 公事曲, 『日本思想大系 23 古代中世芸術論』, 岩波書店, 25~26ページ.)

「これ好奇のかけらなり、となむ語り伝へたるとや。」

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