研究開発エコシステムと日本におけるDeSciの可能性
研究開発の領域においてはクラウドファンディング等を活用した資金調達が普及し、個別の研究テーマをより多くのコミュニティ/エコシステムからの支援をもとにボトムアップな形での商用化、ビジネス展開を目指す事例が創出されてます。
学術系クラウドファンディングサイト「academist(アカデミスト)」
研究リソースシェアリングプラットフォームを運営するCo-LABO MAKER(コラボメーカー)
サイエンスと共にある社会づくりをミッションに掲げた大学•分野横断的な学生団体
その1つとしてFT/NFTによる資金調達やそれに伴うコミュニティ形成/インセンティブ設計を各研究開発のエコシステム構築に採用する取り組みが「DeSci」として注目を集めており、本稿では「研究開発エコシステムと日本におけるDeSciの可能性」についてまとめていこうと思います。
研究開発エコシステムの現状
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2022/RR/CRDS-FY2022-RR-03.pdf
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センターの資料では、
・国内外における非従来型の自発的な研究開発エコシステム構築の背景/問題意識
・研究開発エコシステムの事例と近年における動向
・持続的な研究開発エコシステムの拡張
などがまとめられており、公的セクターから独立したボトムアップな取り組みが新しい研究開発の潮流を生み出すことによって、今後もエコシステム全体がダイナミックに変容する可能性を示唆しています。
すでに日本では、クラウドファンディングによってある一定の研究資金を集めるフレームワークは整備されつつあり、下記のようにVCも研究開発型スタートアップへの投資をおこなっています。
参考: https://note.com/anri_vc/n/n85007ef514d3
海外においてはスタンフォード大学で研究開発型スタートアップをベンチャーキャピタリストが支援するプログラムが用意されていることなど、研究開発エコシステムの拡張を促進する仕組みが構築されており、日本においても下記のように研究開発の事業化/オリジネーションする取り組みなどが確認されています。
このようにUSでは長い期間を経てVCが進化し、a16zのようにVCがマーケティング等を提供する機能型だけではなく、オリジネーション型が生まれて来たのだと思います。日本の今のエコシステムの成熟度(ヒト、資金量)を考えると、彼らと同じ事をやるのは難しいかもしれませんが、僕らANRIで取り組んでいることは大学の研究室を訪問して技術シーズを掘り起こし、外部人材を巻き込んでチームを組成してスタートアップの立ち上げを支援 / オリジネーションすることです。
研究開発エコシステムの拡張には研究開発の魅力や社会的意義への共感をもとにした資金調達の活性化のみならず、事業化にむけた新規開拓及び起業家と研究者を結びつける取り組みなども非常に重要と言えます。
米国においては、2010年代からオープンサイエンスの文脈で下記の団体/組織が研究開発エコシステムの発展に貢献しており、DeSci領域での取り組みが2030年代以降ににどのような影響を及ぼすのか、注目していきたいです。
・非営利団体Center for Open Science(COS)
:研究開発の再現性への課題からオープンサイエンス運動を推進。「Registered Reports」の普及への貢献。
・FigShare
:論文以外の研究成果の共有手段がないことにに課題を持ち、データ共有PFの開発、提供やオープンデータ運動を展開。
・Altmetric
:引用数を過大評価しすぎる論文の評価基準に課題を持ち、「オルトメトリクス」のためのシステムを開発。
現在、日本市場においてもispaceといった宇宙ビジネスを展開する企業の取り組みに多額の資金投資がなされているなど、よりイノベーティブでリスクの高いチャレンジを支援する取り組みが確認されています。
今後はDeSciへの関心の高まりとともに研究開発スタートアップエコシステムにクリプトが必要とされる機会の増加や海外事例を参考に独自にエコシステムを拡張させていくフェーズにむけた事例創出にむけた交流の場の提供などが期待されているとも想定されます。
クリプト領域におけるボトムアップなコミュニティ形成との統合によって、より個別具体的な研究テーマへの資金提供、寄付、投資家ネットワークとの接続がどのように促進されていくのでしょうか?
DeSci 各プロジェクト紹介
・VitaDAO
最近ではDAO内で米国を拠点とする営利企業VitaTechを設立する提案/投票が行われるなど、研究財団や政府の助成金の獲得を目指しているVitaDAO。今年1月には4.1Mドルの調達を実施しており、VitaTechによるスタートアップ企業としての取り組みが、Longevity research(長寿研究)の発展にどのように貢献するのかなど、注目です。
・DB DAO
Googleフォームのようにシンプルで直感的に研究開発のデータ調査をサポートするツールを開発提供しているDB DAO。DeSci Tokyoでも発表を行っており、フォームで回答したデータが分散ファイルシステムに保存され、NFTとして発行されるなど、研究開発エコシステムの分散化を実現しています。Polychain Capital、Avalanche/Blizzard Fund、DAO5、Balaji Srinivasan の支援を受けており、脱毛研究HairDAOがDB DAOを利用しているなど、収益化後のトークンによるインセンティブ付与の事例創出が期待されます。
・OpSci
OpSciは、Web ネイティブのサイエンスコミュニティをサポートするインフラストラクチャを構築することを目指しており、ゼロ知識証明を使用したIDプロトコル 「Holonym」を活用した研究者プロファイルサービス「Verse」などを開発提供しています。
DeSci Tokyoで「Verse」のデモを拝見し、研究者特化のLinkedinのようなイメージでアクティビティに応じて研究資金の調達などの構想もあるようです。
・talentDAO
DAOに関する一般の人々への教育サービスを提供するなど、DAOの発展を支援する科学的研究をおこなっているtalentDAO。科学文献へのオープンで分散化されたアクセスを実現する「Journal of Decentralized Work (JDW)」への取り組みも行なっています。
https://talentdao.substack.com/p/nodw-1?utm_source=profile&utm_medium=reader2
・DeSci Labs
DeSci Labsは、オープンで再現可能な研究開発を発展させるためのプロダクトを構築しており、
DeSci Nodes:IPFS/Filecoinを活用したオープンな研究論文リポジトリ。
DeSoc Tools:SBTを活用した研究開発コミュニティツール。
の開発提供を行なっています。
impact certificates, retroactive funding, market mechanismsによる新しい資金調達モデルの採用も明記されており、一元管理されたPFとして活用が見込まれています。
日本におけるDeSciの可能性
海外では技術的裏付けをもとに分散型の研究開発インフラ開発提供によって研究開発エコシステムをよりダイナミックにワークさせることを目指すムーブがあり、日本市場において例えばQunaSysやCraifがDeSci領域と接続する可能性は現状では限定的とも想定されますが、実際の研究室を訪ねて事業化提案/支援を行うといった高度な取り組みはDeSciの発展においても大きな参考になるのではと感じました。
2030年代にむけては、まずはDeSci TokyoのようにDeSciとの接続を図る場作りが重要であり、グローバルな研究開発エコシステムとの連携によって、日本市場の研究開発型スタートアップの発展及び分散型の研究開発インフラ開発提供を促進させるフレームワークの構築に貢献できればと思います。
一方、クリプト領域ではDfinity(2018年/累計1.9億ドル調達)やzkSync/Matter Labs(シリーズCラウンド/約2億ドル)など、暗号技術の研究開発に大きな資金が投じられ、プロダクト開発提供も進行しており、より広義に「クリプト研究開発型スタートアップ」についても調査したいです。
DeSci Tokyoでの学習を通じて、「従来のクリプト領域における事業性/有用性/外部接続性のなさなどの課題感を研究開発エコシステムとの接続によって社会的意義といった側面において多少解決できそう?よりクリプトと連携したクラウドファンディングPF?DB DAO、OpSciが早期にグロースしたらどんな評価額?」などといったファーストインプレッションだったのですが、研究開発型スタートアップをより包括的に調査してから分散型の研究開発インフラの有用性などを中長期的にチェックしていければと思った次第です。
DeSciコミュニティが1つの交流の場としてある特定の人々を惹きつけているのは確かであり、より分散的な研究開発のあり方が小規模かつ個人的な関心の総和を大きくし、エコシステム全体の広がり/多様化を支援することに繋がっていければといったふわっとしたイメージはあり、より具体化していきたいですね。
DeSci Japan
https://descijapan.org/