30WのBitaxe Gammaを限界まで詰めたら、「電力をどこに注ぐか」という話にたどり着いた

新しく手に入れた Bitaxe Gamma 602(BM1370チップ搭載)を、最大ハッシュレートと最高効率を切り替えながら使いたい——そんな軽い気持ちで設定を詰め始めた。最終的には、手持ちの旧機をどうするか、さらには太陽光の売電単価まで巻き込んだ「電力をどこに注ぐのが一番賢いか」という話に行き着いた。その記録を残しておく。同じことをやろうとしている人の役に立てば。

■ まず最大ハッシュレートを狙う——が、ボトルネックは意外な場所にあった

下調べの段階では「最大ハッシュレートの上限は冷却で決まる」と思い込んでいた。周波数を上げれば発熱が増え、冷やしきれなければエラーが増えてサーマルスロットリングで頭打ちになる、という理屈だ。実際それは半分正しかったが、半分は外れていた。

我が家の個体は、箱から出した時点で 750MHz / 1200mV にセットされていて、1.5TH/s ほど出ていた。ただし Error Rate が 1.18%。これは「その周波数に対して電圧がわずかに足りず、チップが計算をミスしている」サインで、無効な計算ぶん実効ハッシュレートを少し損していることを意味する。

AxeOSのダッシュボードを眺めて、思い込みが崩れた。ASIC温度は54°Cと冷え冷えなのに、消費電力が25.7W。電源は30Wなので、残りはたった4Wほど。さらにVR(電圧レギュレータ)温度が64°Cで、警告ラインの70°Cに近い。つまり我が家の個体のボトルネックは、ASICチップの冷却ではなく、電源とVRM(電源回路)の発熱だった。チップ本体はまだ余裕で元気なのに、電源まわりが先に音を上げる構図だ。

■ 775 → 800 → 825、そして「壁」

AxeOSのWeb画面では周波数の上限が750までしか選べなかったので、デバイスのAPIにカスタム値を投げて、25MHzずつ上げていった。各ステップで10分ほど待ち、消費電力・VR温度・エラー率を確認する。

・775MHz:1.57TH/s、エラー1.0%、VR 65°C、26.6W

・800MHz:1.68TH/s、エラー1.0%、VR 65°C、27.2W

・825MHz:1.66TH/s(むしろ低下)、VR 67°C、28.0W

825で頭打ちになった。ハッシュレートが800より下がり、VR温度と消費電力だけが上限に迫る。電圧を足せば825も回せたかもしれないが、30W電源では危険だ。800MHzがこの個体・この電源での最適点だと判断した。落ち着いた実効値で約1.63TH/s、効率も当初の17.68 J/Thから16.68 J/Thへ改善していた。

■ エラー率を潰す——電圧の影響は非線形だった

次に気になったのが、まだ残る0.9%のエラー率。これは電圧を上げれば下がる。1200→1220mVに上げたところ、エラー率は0.9%から0.16%へ激減した。ほぼゼロだ。しかも無駄な計算が減ったぶん、ハッシュレートもわずかに上がった。

ただし代償として、VR温度が69°Cまで上昇。警告ラインの目前だ。面白いことに、1200→1210→1220と試すと、1210ではエラーがほとんど変わらず、1220で初めて劇的に下がった。電圧の影響は線形ではなく、ある閾値を超えて初めてストンと落ちる。

■ 移設の顛末——「涼しいはず」が逆だった

VRMさえ冷やせれば1220mVを常用できる。そう考えてサーバーを置いてある場所に移設した。空気の流れも良いはず——と思ったら、結果は逆だった。

新しい場所での実測は、VR温度70°C、ASIC 57°C、エラー率も1.6%へ悪化。デスクより暑かったのだ。さらに一瞬、ダッシュボードがASIC停止(消費8.3W、温度表示が「--」)を示してヒヤッとさせられた(実際にはAPIは正常稼働を返しており、瞬間的な表示グリッチだった)。

そこで外部ファンの風をVRMに直接当てる配置に変更。これが功を奏した。VR温度は70°C → 66°Cまで低下し、デスク時より良い数字に。これで1220mVを安全に常用できるようになった。最終的な最大設定は 800MHz / 1220mV、1.64TH/s、エラー0.16%、VR 67°C、28W。

教訓もあった。強制空冷を前提に電圧を上げると、ちょっとした位置ズレで風が外れた瞬間にVR温度が跳ね上がる。ファンとデバイスはしっかり固定する——当たり前のようで、見落としやすい。

■ 最高効率モード——三つの「裏切り」

続いて効率モード(J/Th=1テラハッシュあたりの消費電力を最小化)を探った。理屈では、周波数も電圧も下げれば効率が良くなるはず。ところが三つの予想外があった。

一つ目。この個体は低電圧に弱かった。500MHz/1100mVまで落とすと、エラー率が12%に急増した。低周波なら電圧は少なくて済むはず、という一般論が通じない個体で、1150mVあたりが実用下限だった。

二つ目。AxeOSの電力計はファンの消費を含まない(ASIC電源のみ計測)。だから画面上のJ/Thはファンを絞っても改善しない。むしろファンを絞るとチップが熱くなり、リーク電流で消費が微増して、表示上はかえって悪化する。ただし実際のコンセント電力ではファンぶん(約2W)は確実に節約になる。

三つ目。そもそもこの個体は、周波数や電圧を下げてもJ/Thがほぼ一定(約17)だった。「1ハッシュあたりの効率」は良くならず、ただ総電力とハッシュが比例して下がるだけ。そしてここが肝心なのだが、AxeOSに「効率モード」という自動計算の機能があるわけではない。私が「効率モード」と呼んでいるのは手で選んだ低電力の動作点のことで、その実態は「1ハッシュあたりが効率的」なのではなく、「少ない電力枠に収める省電力モード」だ。J/Thが底になる“本当の最高効率点”は、低電圧でも安定する個体にしか現れない。この石ではJ/Thが平らで、追いかける意味がなかった。

結局、この省電力設定は 525MHz / 1150mV +自動ファンに落ち着いた。約18W、1.06TH/s、静かで低温。最大モード比で総消費電力は約35%減になる。

■ 旧機の登場——世代差は残酷だった

ここで、もう一台の旧機(BM1366チップ搭載の派生品、Lucky OSという別ファーム)を同じ土俵で評価した。結果は残酷なまでに明快だった。

・旧機 BM1366:0.51TH/s @ 16.7W = 約33 J/Th

・新機 BM1370:1.64TH/s @ 28W = 約17 J/Th

旧機は新機の約2倍、電力を食う。世代の差だ。しかも旧機は熱的に余裕がなく、650MHzを試した瞬間に過熱保護が作動し、周波数を50MHzまで自動で落として自己防衛した。575MHzが実質的な上限だった。

■ 核心の問い——並行稼働か、新機集中か

そして本題。「2台を並行で回すのと、旧機を止めて新機を最大で回すのと、どっちが電力効率が良いのか?」

実測値で計算すると、答えはきれいに出た。

・新機=効率モード + 旧機=効率モード:合計 1.46 TH/s / 約28W / 効率 19.2 J/Th

・新機=最高ハッシュレート + 旧機=停止:合計 1.64 TH/s / 約28W / 効率 17.1 J/Th

ほぼ同じ28Wで、新機集中のほうが多くハッシュを出す。新機のJ/Thがどのモードでも約17で一定なのに対し、旧機は25〜33。だから旧機に回す電力は、同じ電力を新機に使うより必ず効率が悪い。純粋な電力効率だけを見るなら、旧機を動かす価値はない。電力は最も効率の良い機械に集中させるべき——というシンプルな原則に行き着いた。

旧機の出番は限定的だ。新機が28Wで頭打ちになり、それでも余って捨てるしかない電力がある時だけ、旧機がそれを拾う「余剰吸収係」として意味を持つ。

■ 最後は電気の値段の話になった

そして最終的な判断は、ハッシュレートでも温度でもなく、電気の値段で決まった。日本にはFIT(固定価格買取制度)があり、現行の住宅用の制度では、設置から4年間は発電した電力を24円/kWhで電力会社に買い取ってもらえる(5年目以降は単価が下がる)。我が家は設置したばかりなので、残り約3年半はこの24円/kWhが続く。

では、その電力をソロマイニングに使うのと、売るのとでは、どちらが得か。今のハッシュレート(新機1.64 TH/s)で、ネットワーク全体を約950 EH/s、BTC価格を約1,000万円として概算すると、新機が生む期待収益は1日あたり約8円。消費電力は約28W(=約0.67 kWh/日)なので、電力1kWhあたりに換算すると、マイニングは約12円分のBTCしか生まない計算になる。一方、その同じ1kWhを売れば24円。つまり売電のほうが約2倍得で、マイニングが売電に釣り合うのは、買取単価が約12円/kWhまで下がったときだ(BTC価格やネットワークハッシュレート次第で分岐点は動くので、あくまで現時点の目安)。

つまりこの3年半は、昼間に新機を回すこと自体が「24円で売れたはずの電力」を使う行為になる。マイニングは趣味・実験・ネットワーク貢献のための支出と割り切るのが、いちばん筋の通った整理だ。

旧機は今、停止。引退ではなく休眠だ。買取期間が終わって昼間の電力が実質タダ同然になったら、「余剰吸収係」として復活させる青写真がある。動いている機械を効率だけの理由で止めるのは、理屈で納得していても少し寂しい。でも、捨てるはずだった電力を仕事に変える日が来たら、旧機がいちばん輝くのだと思う。

■ 持ち帰りメモ

・ボトルネックを思い込まない。冷却だと思っていたら、電源とVRM温度だった。ASIC温度だけ見ていると判断を誤る。

・VR(電源回路)温度を必ず見る。ASICが冷えていても、VRMが先に限界を迎える個体は多い。

・電圧の影響は非線形。エラー低減は、ある閾値を超えて初めて現れる。

・電力計がファンを含むか確認。AxeOSはASICのみ計測。表示J/Thと実際のコンセント電力は別物。

・個体差は大きい。同じBM1370でも、低電圧に強い個体・弱い個体がある。一般論より自分の実測。

・効率モード=省電力枠モード。「1ハッシュあたり」が良くなるとは限らない。

・電力は最も効率の良い機械に集中。非効率な機械を足すと、全体のJ/Thは必ず悪化する。

・最後は電気の値段。売電単価が高いうちは、マイニングは趣味の支出。それを分かった上で楽しむ。

(注記)本記事は、実際の調整作業を Claude Opus と一緒に進めながら得られた知見・実測データを、公開用に読み物として再編成したものです。設定値や挙動の検証、データの計算、構成分析は対話を通じて行いました。

(注意)本記事の設定値・挙動はあくまで筆者の個体での実測です。オーバークロックは自己責任で、必ずVR温度と消費電力を監視しながら少しずつ。電源容量を超える設定はブラウンアウトや機器破損の原因になります。

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