Pocket Gamer Connectsから振り返るブロックチェーンゲーム史

Pocket Gamer Connectsから振り返るブロックチェーンゲーム史

9月16日に、Pocket Gamer Connectsオンラインイベント内で「日本のブロックチェーン業界の歴史」的なパネルセッションが行われていたので、せっかくなのでパネルセッションの中身を振り返りつつ、日本のブロックチェーンゲームエコシステムの歴史を振り返る記事を作ってみる事にしました。

※当記事は無料記事です。

PocketGamerというのは2005年頃から続く老舗ゲーム雑誌で、ポケットゲームやNintendoDSといった時代から持ち歩くゲーム = ポケットゲーム を特集し続けているイギリスのメディアです。

そんな老舗メディアがブロックチェーンゲーム専用カンファレンスを開くようになったのは感慨深いですね。

参加メンバーは、日本一のブロックチェーンゲームカンファレンスTokyoBlockchainGameConferenceの運営チームからMissBitcoin藤本さんと絢斗さん、dApps運営会社としてマイクリからマイケルさん、クリスぺから小澤さん、そして日本独自のエコシステムの象徴であるTokenPocketからミニこーへいさんでした。

このメンバー構成からも分かるように、今回のセッションはBtoB向けで、既にスマフォアプリを沢山作ってきた企業がどうやってブロックチェーンゲームに参入するかを具体的に考える為に日本のエコシステムがどう発展したのかを解説するセッションでした。

https://twitter.com/PGConnects/status/1306164215145803776

それでは、当日の流れを遡ってみましょう

1.ブロックチェーンゲームの歴史 = スケーラビリティとの戦いの歴史

今でこそGAS代高騰が話題になっていますが、そもそもブロックチェーンゲームの歴史はイーサリアムのスケーラビリティとの戦いの歴史と言っても過言ではないでしょう。

例えば2017年冬、dapper lab社の作ったCryptoKitiesが爆発的にヒットして当時の全イーサリアムネットワークのトランザクションの15%以上を占拠してBBCニュースに載るという事件が起きました。

https://www.bbc.com/news/technology-42237162

GAS代問題に最初に直面したBCG運営会社であるDapper Labs社はその後、ユーザー側のGAS代不要ウォレット「Dapperウォレット」

https://www.meetdapper.com/?utm_source=dapperlabs

をリリースしたものの、そもそもEthereuのスケーラビリティの限界を感じていたようで、ブロックチェーンゲーム用の全く新しいチェーン「FLOW」の開発に着手しました。

https://www.onflow.org/

ETHの限界を感じたBCG運営会社が他のチェーンへの引越しを考えるのは最近よくある議論ですが、新しいチェーンを自分たちで作ってしまおうというのはさすが元祖BCGといった感じでしょうか。solidityを捨ててCadence(ケイデンス)という新しい言語を採用したので日本のブロックチェーン界隈からはやや忘却されつつありますが、最近では LibraのMoveと技術提供を発表する など、なかなか面白い動きを見せています。

そんなCryptokitties等海外の先行事例を見つつ、日本でもブロックチェーンゲームを出していこうという気運が高まっていたのが2018年でした。そして、記念すべき第一回目のTokyoBlockchainGameConferenceをMissBitcoinさんが開催したのも2018年。

マイクリすらローンチ前の段階でNFT業界に飛び込んだきっかけは?というパネルセッションでの質問に藤本さんは

1.アニメやゲームといったIPを多く持つ日本にとってNFTは将来性があると思ったから

2.日本での暗号資産関連の規制は厳しく、DeFiやSTOといった新しいビジネスを始めたくてもなかなか実現しない。その点NFTは他の分野に比べると規制も少ないので可能性を感じた

3.DapperLabsがCryptokittiesをローンチしたときに掲げたコンセプト「NFT is Digital but only one」というコンセプトに共感したから。

という3点を挙げていました。

“Bitcoin is Democratization of money”というコンセプトに共感してビットコインの伝道師になった藤本さんらしい答えですね。

そんな日本初のブロックチェーンゲームカンファレンス後に満を期して2018年末に日本からローンチしたのがマイクリでした。

今でこそ定番となったオンチェーンとオフチェーンのハイブリッドシステムですが、そのシステムが確立されるまでには様々な紆余曲折がありました。

皆さん覚えていますか?LoomNetworkです。

実は最初のマイクリβ版の頃はL2を使って全てをオンチェーンで処理する予定だったのです。

しかし、マイクリβ版の検証をしたところ、そのクレイジーすぎるトランザクション数を捌けなくてダウンしてしまったそうです。

https://medium.com/mycryptoheroes/announcement0930-85725f2cfa2b

当時のmediumを見返してみるとローンチ直前の9月末まではL2型を予定していたようなので、12月にプレセールとアプリローンチまでこじつけた事を考えると、切り替えの早さ物凄いですね。日本のブロックチェーンゲーマーの場合、マイクリが発明したこのハイブリッド型システムのおかげで一旦イーサリアムワールドから違うネットワークにアセットを転送するという作業に慣れているので、ETHのL2や他のチェーンやプライベートチェーンに今後拡がっていったとしても、UX的には実はそこまで混乱おきないのではと自分は思っています。

最近各地でポロリされているマイクリならではのGAS代対策プランが楽しみですね。

2.企業の垣根を越えて業界全体を大きくしようとする日本文化

日本式エコシステムで実は最もユニークな点の一つが、アプリを提供している会社とゲーム開発会社が違うという事です。また、NFTコンバーターを世界に先駆けて実装していたのも今回のカンファレンスで注目を浴びた点でした。

マイクリが世界的に有名になるきっかけになったのは勿論2017年年末の一大キャンペーン、TVCM&スマフォアプリリリースでしたが、その際にTokenPocket社もキャンペーンを行っていた のが良い例でしょう。

※ゲーム会社とウォレット会社のコラボあがっても普通はRTで協力する程度なので、ウォレット会社が100ETHもユーザーにばら撒くのは世界的に見ても珍しい現象でした。

日本ではTokenPocketやGoWalletといったウォレット提供会社がBCGアプリをリリースするのが通例になっていますが、実は世界的に見てもこれはとても珍しい文化です。

例えば、日本にもユーザー数が多いKnightStoryのスマフォアプリは、KnightStory開発会社のBiscuitlabsの名義でappストアに載っています。その他のBCGを見回しても気づくと思いますが、ゲーム開発会社とスマフォアプリ提供会社が別々な例は日本以外にはほぼ無いでしょう。

海外の場合は、現状だとデスクトップでMetamaskを使う事を推奨する場合が多く、そもそもモバイル対応しているゲームが少ないのが現状です。

また、例えばaxieの場合はappStoreに出さないでTrustWalletやEnjinWalletといったモバイル用ETHウォレットのdAppsブラウザ機能でブロックチェーンゲームを行う事を推奨しています。

この件についてはミニコーヘイさんはカンファレンス中に

「ウォレット会社がモバイルアプリ化を担当することで、ゲーム会社は本来のビジネスであるゲーム開発に専念できるようになる。」とコメントしていました。

こういった分業体制ができているのが日本のブロックチェーンゲーム業界の強みとも言えます。

日本型エコシステムのもう一つの代表例はMCH+とNFTコンバーターです。

昨今のGAS代高騰のせいでNFTコンバーターは若干低迷気味な印象はありますが、世界に一つだけというNFTの特性を最も簡単に体験できるのがNFTconverterとも言えます。

数年後に話題になるNFTのインターオペラビリティを考える際、日本は今、どういうmetaデータをNFTに組み込んでおけば汎用的なNFT規格になるのかの壮大な社会実験の最中とも言えるでしょう。

一社による垂直型ではなく、複数社が相乗りして業界全体を大きくしようとする文化はポケットゲーマー運営もとても関心を示していました。

3.ブロックチェーンゲームの未来

DeFiバブルはGAS代高騰という試練をもたらしましたが、同時に二つの進化をもたらしています。

1・BCG x DeFI

2.ETH L1からの引っ越しの加速

の二つです。

3-1 BCG x DeFI

まずはBCG x DeFiですが、例えば新興NFT売買プラットフォームのRARIはyInsure NFTに対応したことで一気に新規ユーザーを獲得しました。今までの NFT = Game / ART という概念を覆し、NFTの新たな使い方を示しました。

現状yInsure NFTのようなDeFiのカバーをNFT化した実験を行っているのはyearnだけですが、これが成功すると多くのプロジェクトが似たような仕組みを導入する可能性がでてきます。

また、kittiefightのようにゲーム内に直接Lending機能を組み込んだ実験的なプロジェクトも出てきました。なお、このKittiefightの運営はdapperlabsとは別会社なようです。第三者がNFTを活用して新しいゲームを作るのはしばしありますが、新しいNFT x DeFiゲームまででてきたのは2020年ならではですね。

https://twitter.com/kittiefightHQ

BCG x DeFIのもう一つの例は、IDO(Initial Dex Offering)やNFTステーキングです。

Animoca Brandsの制作しているF1 Delta Timeというゲームがつい先日IDOを行いREVVトークンの配布が始まりましたが、ちょうどこのカンファレンスの前日からNFTステーキングも始まりました。

NFTステーキングとはゲーム用NFTをステーキングすることでユーティリティトークンが自動で配布される仕組みの事です。マイクリでランドを保有していたら配当が貰える仕組みと似ています。残念ながら今の日本の法律では、暗号資産であるETHを配当に充てるスキームを新規で行うのは困難ですが、暗号資産で無いERC20を分配する場合どうなるのか、各所で活発な議論が繰り広げられています。

運営が直接販売しないで無料で配布したERC20がDEXに上場して実質交換可能になっていった場合どうなるのかなど、金融庁の見解が注目されるところです。

https://twitter.com/REVV_Token

そんな話題のF1Deltaですが、なんとこのカンファレンス中にMissBitcoin藤本さんがAnimocaBrands全体のアドバイザーに就任した事がアナウンスされました。おめでとうございます!

https://twitter.com/missbitcoin_mai/status/1306192536902365184

AnimocaBrandsは、最近コインチェックが提携したSandboxの親会社でもあり、積極的にブロックチェーンゲームに投資している会社になります。

F1Deltaで早速ブロックチェーンゲーム x DeFiに挑戦するなど、今後の展開が楽しみですね。

(それにしても、ゲームはいつになったらβ版から進化するのだろう。。。。)

3-2.ETH L1からの引っ越しの加速

かねてよりETH L1ではスケーラビリティに問題があるので、将来的にはL1から引っ越してL2に行くか他のチェーンに引っ越す必然性自体は議論されていました。DapperLabが、早々とETHに見切りをつけて独自チェーン FLOW の開発に取り掛かったのはその最たる例でしょう。

しかし、チェーン移行に必要な工数やコストの多さという壁もあり、引っ越し自体はもっと先で良いのではと思っていた企業が大半だったと思います。

そんな状況を一変したのがDefiバブルのもたらしたガス代高騰事件です。

ETHのスケーラビリティ問題は数年前からずっと語られていて、一時期は「ETHよりxxx倍早い真の業務用途に耐えうるチェーン」と自称する銘柄のICOラッシュが続いたぐらいです。(なお、その殆どは自然消滅しました)

これらの多くの打倒ETHチェーンが出てくる度によく、「プログラムはコピーできてもコミュニティはコピーできない」という主張がされましたが、今回のGAS代高騰問題は、肝心のユーザー自体がL1から離れる事を決心し始めたと思うと興味深い現象とも言えます。かつてのような ユーザー = ディベロッパー & マイナー という時代ではなくなり、ユーザーの種類も多様化してきた現代に起きたGAS代高騰事件は、一般dAppsユーザーにとって非中央集権性とコストのトレードオフがどこまで許容されるかの試金石になると思っています。

そんな中で「次のチェーンとして注目しているのは何処か」いう話題の際に藤本さんが挙げたのは「Matic」「SKALE」の2つでした。

「主な理由として、Maticは、MCH+メンバーのChainGuardianや、マイクリがランドを購入したsandboxといった各種ブロックチェーンゲームとの提携が多い為。SKALEは、CEOのジャック氏が『ゲーム好きには最先端のことが好きな人が多いからブロックチェーンゲームも注目している』と発言しているように、ブロックチェーンゲームへ前向きな姿勢を見せているから」というのが主な理由だそうです。そんなSKALEのCEOジャックさんと藤本さんの対談youtube動画が近々アップされるようなので、これも楽しみですね。

若干補足すると、Maticはトレーダー層からすると、BainanceでIEO銘柄としての知名度の方が高いかもしれません。また、今年のバーニングマンに連動した自主イベント「takemetoyourburn」を開催したsomiumspaceVRなど、VR x ブロックチェーンの領域での提携事例も増えてきています。

https://matic.network/

https://www.youtube.com/watch?v=xgM2Boq7UkM

ちなみに、sominiumspaceVRは当初LoomNetworkとパートナーシップを結んでいましたが、いつの間にかLoomNetworkではなくMaticにパートナーが変わっており、マイクリの歴史を知っている人々からすると色々と察するものがあります。

そんな期待のMaticですが、まだ正式にMatic chainにNFTを引っ越してL2ベースで運営しているブロックチェーンゲームは無いようです。今回のGAS代高騰事件の煽りを受け、本格的にL2ベースで展開するゲームが登場するのが楽しみです。その際は恐らく、NFTコンバーターのようなブリッジとなるコントラクトを経由して、L1にあるNFTをL2に持っていく作業が必要になると思われます。L2にあるアセットをL1に持っていく場合も同様の作業が必要になるので、複数のブロックチェーンゲームが同時に引っ越す場合、L2版openseaのようなものも同時にできてくるのはと予想されます。

一方のSKALEですが、こちらはconsensysの肝入りL2プロジェクトです。ethresearch界隈で、色んな意味で有名だったStan氏がCTOという事もあり、最近何かと注目を集めているプロジェクトです。

dApps事業者にとって注目な点は、SKALEが「ブロックチェーン時代のAWSになる」ことを一つの目標にしていることです。現在のように個別にユーザーが自己負担でGAS代を払うのではなく、アプリ運営側が月額でまとめてGAS代を払うシステムができるようになると、dAppsゲーム運営会社としてはより柔軟なエコシステム設計ができるようになるでしょう。

また、BinanceSmartChainのような、企業によるプライベートチェーンの話題もパネルディスカッション中に出ていました。

カンファレンス中には登場しませんでしたが、DeFi界隈で少しずつ注目を集めているxDAIチェーンも実はNFTに対応していて、xDAIを使ったメタトランザクションでxDAIチェーンからETH L1へのmintingコストを買い手が負担する仕組みなどが実装され始めています。

https://medium.com/@austin_48503/nifty-ink-%EF%B8%8F-alpha-release-c860a4904cb2

xDAIチェーンを運営しているPOAも昔からNFTには関心があり、2018年初頭にはPOAを活用した幻のブロックチェーンゲーム「everdragon」というゲームが存在しました。ETH、ETH L2(POA)、TRXのトリプルクロスチェーンdAppsゲームという野心的なプロジェクトでしたが、当時は先進的過ぎてユーザーが全然ついてい来なくて風化してしまいました。

しかし、その当時議論されていたL2の有用性が2020年になってようやく再注目され始めているので、POA改めxDAIチェーンの動向も要注目です。

如何でしたでしょうか。

今年後半に控えてそうな業界大変化の前に、今までのブロックチェーンゲーム業界の歴史を振り返る良いセッションだったと思います。

セッション中にクリスペの小澤さんも宣伝していましたが、今年度のTokyoBlockchainGameConferenceでは各社色々な発表があるようです。今秋から始まる、ブロックチェーンゲーム業界創成記 season2 はどんなドラマが待っているのでしょうか。今はブロックチェーンゲーム業界という一つの業界自体を大きくする時期であり、その本当のワクワクさを体験できるのは、まだまだこれからなのかもしれないですね。

それではまた!

※当記事は無料記事です 

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