人類史上、最も平和的な革命

人類史上、最も平和的な革命

貨幣と国家の分離、オープンで透明性の高い代替金融システムの構築を目指すビットコイニズムとは

本記事はCASTLE ISLAND VENTURESパートナー、COIN METRICS共同設立者NIC CARTER氏著「A MOST PEACEFUL REVOLUTION」(2019年9月8日公開)を翻訳、一部加筆修正し、2020年11月14日にMediumに公開したものです。
(トップ画像はJason Benjamin氏 (@perfecthue)制作)

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国民が政府を恐れるのはおかしい。政府が国民を恐れるべきなのだ。

ー Vフォー・ヴェンデッタ

絶対服従が人間を幸せにするという衝撃的だが単純な考えが、これほどまで明確に示されたことは未だかつてない。

ー ミシェル・ウエルベック「服従」

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リバタリアンは勘違いしていた。民主主義的手法に則って国家権力の縮小を試みたが、失敗に終わった。政府の権力欲はJ・R・R・トールキンの「指輪物語」に描かれるウンゴリアントのように際限がない。有権者は投票を通じて政府の権力拡大を承認し、それと引き換えに様々な給付金、補助金を受け取る、というのが現代の構図だ。リバタリアンは政府からの援助で満足してしまった。あなたがどんなに抵抗しても、政府は映画「ブロブ/宇宙からの不明物体」に出てくる粘液状の生命体のように肥大化し続ける。あなたが投じる一票、つまり、民主主義プロセスに参加することが国家権力の強化につながるのだ。

ビットコイナーはこれを拒否する。対戦相手が勝手にルールを決めたゲームで勝つ唯一の方法は、ゲームに参加しないことだと知っているからだ。

ビットコイナーはゲーム機を床に叩きつけ、まるでゲームに勝ったようにガッツポーズで練り歩く。押し付けられた従来ルールを無視し、国家の権力も監視も及ばない新しい貨幣制度を構築し始めた。最終目標は、政府介入の余地がない自由市場の創設、(利益は還元されないのに損失の穴埋めは国民にまわされる意味不明な現代銀行制度に代わる)検証可能な貨幣を準備金とするフリーバンキング制度の実現、資本規制の撤廃、そしてインフレを介した政府による国民資産の合法的横領を止めさせるとともに、政府権限を縮小して金融政策ツールを取り上げることだ。

ビットコイナーの行為は予想通り、政府取り巻きの知識階級や評論家、そして批判精神に富むジャーナリストから支配階級の代弁者に成り下がったメディアを激怒させた。声高にビットコインを批判するのが、政権に近いというだけで不当に利益を得ている人たちであるのは偶然ではない。例えば、政府補助金に依存する大学、政治的影響力を使って私腹を肥やす政治家と元政治家、新興メディアや人気ユーチューバーなどの参入で劣勢に立たされ政府の広報担当と化したジャーナリスト、補助金と終身在職権と引き換えにケインズ経済学を広める経済学者は機会ある毎にビットコインを批判する。

世論操作に長けた人々の逆鱗に触れたことで、ユートピア建設の使命感に燃えるビットコイナーは反体制派というレッテルを貼られてしまった。経済紙はビットコインを侮辱と嘲笑の対象としてしか取り上げない。ベンチャーキャピタルからの投資も受けず、IPOも実施せず、会社組織も持たず、純粋なオープンソースプロジェクトという形をとりながら、誕生から10年で時価総額をゼロから20兆円超に増やした金融資産であるにも関わらず、メディアからは不当な扱いを受けている。

米国はビットコインを決済手段とする自由市場「シルクロード」の創設者ロス・ウルブリヒトに仮釈放なしの終身刑プラス懲役40年という判決を下した。中国はビットコイン取引を禁じ、インドはビットコイン所有を違法とする法案を検討している。

ビットコインの法的地位
緑: 合法; 黄: 一部制限あり; ピンク: 審議中; 赤: 違法(出典

今、世界が目撃しているのは戦争の兆候ではない。戦争はもうすでに始まっている。もちろん、20世紀のように兵士が気高く前線で対峙し、どちらかの戦力が尽きるまで撃ち合いをする戦争とは異なる。現在進行中の戦争は、反政府活動、爆弾テロ、経済制裁、ドローン攻撃、スタックスネットのような戦略的インフラを標的としたサイバー攻撃である。戦争でさえ仮想空間で行われる時代、反乱が仮想空間を舞台としてもおかしくないだろう。

ビットコインは間違いなく反乱である。まだ数は極めて少ないものの、ビットコイナーは真剣に社会変革を目指す革命家だ。国家に依存しないどころか敵対する。政府はビットコインを規制することも、捕らえることも、支配することもできない。シルクロードは単なるビットコインにまつわる逸話の一つではない。シルクロードはビットコインの崇高な意図の具現化であると同時に、ビットコインが政府支配下の既存金融システムから完全に独立していることの証である。肥大化した強欲な政府は国民の物理的服従だけでは飽き足らず、無限の個人情報を要求するようになった。国民の経済活動は政府に筒抜けである。あらゆる金融取引は検閲され、仲介者である金融機関の許可を要する。少しでも普通と違うことをすれば、財産を強制没収される危険がある。

16世紀にプロテスタントがカトリック教会の教義とローマ法王の権限に疑問を投げかけたように、サイファーパンク(政治、社会の変革手段として暗号技術利用を推進する活動家)も現状に疑問を呈している。インフレは本当に必要なのか?中央銀行が一存で通貨価値を操作できる環境を自由経済と呼べるのか?国家は国民の経済活動に対して自由裁量権を持つべきなのか?預金者は銀行(銀行が破綻した場合は最終的に納税者)が預金払い戻しに応じると盲目的に信用するしかないのか?銀行のデータベースに入力される数字は一体何の意味があるのか?


物理的形態をとるビットコインというレアな画像

真の暗号資産、すなわち、代替貨幣制度は、政府とその腰巾着にとって大きな脅威である。インフレとシニョリッジという打ち出の小槌で自在に運営資金を調達できる政府の最大特権に対して、ビットコインは異議を申し立てているのだ。彼らがビットコインを冒涜的で検討にすら値しないと必死に切り捨てるのも無理はない。

暗号資産(と言っても現時点ではビットコインに限られるが)は中央銀行の金融政策に既に影響を与えている。特に地政学的影響は甚大だ。貨幣の自由市場とインターネットという流通チャネルのコンビネーションが国家に由々しき事態を引き起こしている。以下、ビットコインが国家に及ぼす影響を具体的に見ていこう。

Dr. Gina Pietersの論文(2016年)は、流動性の高いビットコイン市場が資本規制を採用して為替レートを操作する国にとって大きな脅威になると指摘する。

アルゼンチンまたは似たような境遇にある国にとってビットコインは頭痛の種だ。ビットコインは資本規制を簡単に回避できる手段を国民に与える。Pieters、Vivanco共著論文(2016年)によると、世界中どこからでもアクセス可能なビットコイン市場を規制しようとする各国政府の試みは大半が失敗に終わっている。Pieters論文(2016年)は、政府が決める公式為替レートよりも、ビットコインの交換レートの方が市場需給を忠実に反映する傾向があると指摘する。ビットコインの流動性が十分に高まれば、国家の意向に左右されない真に自由な国際資本市場が生まれるだろう。

これは大変なことである。ブラジル、ロシア、インドネシア、台湾、中国、アルゼンチンをはじめ、現在、資本規制を採用する国は多い。資本規制という極めて重要な金融政策ツールの効力をビットコインが著しく低下させるのだ。

また、Dr. Pietersは別の論文で、ビットコインが政府による為替操作の問題点を浮き彫りにすると指摘している。ビットコイン取引を介して、政府が決める公式為替レートと実態経済の乖離が露呈し、実需給を反映する「市場価格」が明らかになる。これはビットコインが急速に価値尺度の国際標準となりつつあることを示している。

例えば、ベネズエラでは、通貨ボリバルの非公式レート(市場レート)の発信が違法とされている。政府は為替レートを都合よく操作することで利益を得ているからだ。ベネズエラで最も人気がある為替レート情報サイト、DolarToday(アメリカのマイアミが運営拠点)は、ボリバルの対ドルレートをLocalBitcoins(ビットコインのP2P取引所)の取引情報を参考に算出している。

出典:https://dolartoday.com/

ビットコインのP2P取引が盛んな市場が資本規制採用国、ハイパーインフレ国、政情不安定国に集中している事実は驚くことではない。LocalBitcoinsのデータを使ったMatt Ahlborg分析では、国民一人当たりのビットコイン取引が多い国として、ロシア、ベネズエラ、コロンビア、ナイジェリア、ケニア、ペルーが挙げられている。

唐突だが、友達数人と登山中に熊に出くわしたと想像してみてほしい。皆、必死に走って逃げるだろう。この際、生き残るために一番になる必要はない。一番足の遅い友達を追い抜きさえすれば助かる。通貨間競争もこれと同じだ。ビットコインはドルにとっては恐るに足りないかもしれない。しかし、インフレ率の高い通貨にとっては確実に脅威である。

Hasuが言うように、ビットコインは国家の影響(と国家がちらつかせる暴力の脅威)が及ばない財産権保護制度を提供する。これは欧米諸国のように財産権が尊重される国では大した意味を持たないが、そうではない国では生死に関わる重大問題である。ビットコイン批判の急先鋒に立つのが国家による財産没収の心配とは無縁の人々なのは皮肉でしかない。ビットコインに対する反応を見れば、その人がインフレと現代銀行制度の弊害を理解しているかが分かる。ビットコインを声高に批判することは、自身の無知と欧米中心主義をさらすようなものだ。

Raskin, Saleh, Yermack共著のトルコとアルゼンチンにおける通貨危機に関する研究論文は、暗号資産の普及が先進国に先んじて途上国で進むことを裏付ける。

一見、サトシ・ナカモトの計画はうまくいかなかったように見える。人々に新たな選択肢を提供したものの、それを必要とする人はほとんどいなかった。しかし、発展途上国では事情が異なる。(…)ビットコイン誕生以降に通貨危機を経験した最初の国(であるトルコとアルゼンチン)を研究することで、このデジタル貨幣が急速に減価する通貨に及ぼす影響を評価できる。結果、ナカモトのビジョンは実現したと推測できる。デジタル貨幣はドルを置き換えるには至っていないものの、この代替貨幣の存在自体が金融政策と規制政策の逸脱や行き過ぎを抑止する効果を持つのかもしれない。

著者は「国家とは無関係のデジタル貨幣の存在が国民の利益になる」ことを発見した。特に、自国通貨以外の新しい選択肢ができたことでリスク分散が可能になり、「国民は経済的安定を得られる。」

さらに、著者は指摘する。

どの国にも属さないデジタル貨幣が国家通貨を代替する可能性を示すことで、通貨危機に直面する国は節度ある金融政策運営を迫られる。その結果、インフレが緩和され、投資収益性が高まる。すると、今度は国内投資が盛り返す。

経済学の基礎クラスで習うように、競争原理を導入して独占体制(貨幣市場は事実上政府の独占)を崩すことで、市場は公正化、健全化する。これまで私たちは、他に選択肢がなかったために自国通貨での貯蓄を余儀なくされ、インフレにも耐えてきた。しかし、今、世界中の人が自国の通貨制度から離脱する選択肢を手にした。これは中央銀行にとって大打撃だ(自国通貨売却は通貨の流通速度を速め、インフレを悪化させる)。したがって、ビットコインが存在するというだけで、中央銀行には破壊的な通貨切り下げを回避するインセンティブが働く。

貨幣制度改革は誰もやりたがらない。貨幣制度に絡む経済的利害が大きすぎるためだ。膨大で煩雑なタスクと国家の存在を脅かすという本質からして、明確なビジョンに対する盲目的とも言える信念と献身の覚悟がなければ、この大義には取り組めない。アルトコイン開発者が犯した最大の罪は賭ける馬を間違えたことではない。最大の罪は確固たる信念もないまま適当な馬に賭けた上、他人にもその馬に賭けるよう促したことだ。自分たちでさえ信じていなかった夢を他人に売り付けたのである。

国家との対立も辞さない覚悟で社会を一変するシステムを構築していると言い切れるアルトコイン開発者が何人いるだろう?信念を貫くためには禁固刑さえも甘んじて受けるという者が何人いるだろう?皆無ではないか。

アルトコイン「コミュニティ」というピラミッドのトップに立つ開発者が繰り返す新規性も説得力も欠くビジョンがピラミット下層に伝播される。コイン価格が下落する度に、損失を抱えるコイン保有者が「絶好の買い場到来!」とお互いを鼓舞する声がピラミッド内部に響き渡る。価格変動に動じることなく、信念を貫くコミュニティとの差は歴然だ。一見、ビットコインとアルトコインには機能的大差がない。両者の最大の差は魂だと言える。アルトコインはモラルが低いとか、価値提案が弱いというわけではないが、空虚である。国家に依存しない永続的システムの構築よりも、表面的な技術革新が優先されている。

もちろん、経済的利益追求を目的とするビットコイナーもいる。しかし、説明責任を放棄した政府や銀行とは無縁のオープンで機能的な代替金融システムを構築するという深遠かつ根源的な使命感に突き動かされているビットコイナーも多い。ビットコインは貨幣と国家の分離に向けて間違いなく前進している。それ故に、容赦ない政治的攻撃に度々さらされるが、その都度持ち堪えてきた。これほどの攻撃と妨害を受けたアルトコインプロジェクトは皆無である。

アルトコイン開発者にとっての成功とはエグジット、つまり、コイン売却益を手にすることだ。まず、プレセールと称し仲間内に格安価格で販売、その後価格を釣り上げ、最後に一般投資家に高値転売するというのが王道だ。新たなブロックチェーンおよびコイン開発の動機は至って単純である。貨幣は他のどんな財よりもTAM(Total Addressable Market、市場規模)が大きい。自ら発行するコインがこの巨大市場のシェアをほんの僅かでも獲得できれば、開発者には莫大な利益が転がり込む。しかし、経済的利益追求を究極の目的とするご都合主義者が主導するプロジェクトは支援者を得られない。開発者が手にする巨額利益の源泉が一般投資家の損失である場合は尚更だ。価値も用途もないコインを高値転売して私腹を肥す一方で、忠実な支持者の献身的支援を期待するのは虫が良すぎる。

ナシーム・タレブの言葉を借りれば、「君の見解はどうでもいい。ポートフォリオを見せてみろ。」である。ICOで史上最高額となる4,000億円超を調達したEOS、別名「模倣ブロックチェーン2.0」の開発運営組織Block Oneは、バランスシートに14万ビットコインを資本計上している。彼らが掲げるビジョンより、これが真実を物語っている。

ビットコイン誕生から10年間、無数の実験的プロジェクト、ICOによる資本の誤配分、アルトコイン開発者の現実を無視した過剰な野心を見てきた。その過程で、私たちは価値創造について貴重な教訓をいくつか学んだ。その一つに、科学者とエンジニアは政治と貨幣の進化を技術進化と混同しがちだというものがある。

「もっと高性能で効率的なデータベース構造あるいはシビル攻撃を回避できるアルゴリズムが開発できれば、究極の暗号資産を創れるのに。」驚くことに、こう考えるエンジニアは未だに多い。しかし、この考え方は間違っている。新しい貨幣制度をゼロから構築する上で重要なのは技術実装の詳細ではない。重要なのは、以下のような質問に説得力のある回答ができるかである。

  • なぜ、あなたに新しい貨幣を発行する権利があるのか?
  • なぜ、あなたが貨幣の方向性を左右する大きな影響力を持つのか?
  • なぜ、既存貨幣を全否定し、全く新しい独自貨幣で置き換える必要があるのか?
  • あなたの権威を裏付けるものは?
  • 新しい貨幣の発行、流通に際して、機会の公平性と平等性をどう担保するのか?
  • 中央銀行でさえ政治圧力を受けるご時世に、どうやって新しい貨幣制度の公正性を保証するのか?

ビットコインには、これらの質問全てに明確な答えがある。アルトコインにはない。答えがないだけでなく、アルトコイン開発者は上記質問の重要性すら認識していない。

ユーティリティトークンは荒唐無稽である。これは過去10年間ですでに実証されている。海外旅行の度に外貨を購入するのは面倒だと感じる人が大半だろう。ユーティリティトークンとは、その煩わしさを自国で買い物する人にも強制するようなものだ。つまり、各店舗が異なるトークンを発行して支払いをそのトークンに限定するため、買い物客はお店の数だけトークンを買い揃える必要がある。ユーティリティトークンは時代に逆行するもので、創造に値しない。実験として終わり、過去の遺物となったことは何よりだ。唯一、創造に値する暗号資産は貨幣機能を担うことを目的とするものだけである。これは必ずしも国家への反逆を意味するわけではない。

しかし、国家と肩を並べるには、志を共有し、目的達成のための投資を惜しまない何千万、いや何億という頑強な抵抗者が必要だ。献身的同志を結集する要となるのは、新しい暗号技術でもビザンチン障害耐性アルゴリズムでもなく、この世の何よりも大事だと思える価値観である。貨幣多元論者であるアルトコイン開発者は自ら立場を「イノベーション支持者、クリプト進歩主義者」といった陳腐な言葉で正当化するが支離滅裂だ。ビットコインをはじめとする既存コインを全否定して新しい独自コインを開発する者は、いずれ同じようなクリプト進歩主義者から問い詰められるだろう。「なぜ、Xブロックチェーン2.0で妥協するのか?YやZなら〇〇ができるし、処理速度が何倍も速いのに。」アルトコイン開発者に核となる価値観がない場合、この質問にはサンクコストとしか答えようがない。こうして、クリプト進歩主義者は必然的に保守化する。

では、ビットコイナーが共有する価値感とは一体何なのか?ビットコイニズムとは、オーストリア学派経済学、リバタリアニズム、財産権の不可侵、契約主義(国家権力は国民との契約に基づくという国民主権的社会契約の発想)、個人の自立を融合した政治経済哲学である。リバタリアンの中には、契約主義を(国民は実際には契約署名機会を与えられていないため)強制的とみなし、賛同しない者もいる。しかし、ビットコインは利用希望者全員に契約を明示する。人類史上最も透明性が高く、過去の全取引を誰でも追跡でき、価値切り下げの心配とは無縁の優れた貨幣制度への参加は義務ではなく、あくまでも権利である。

ビットコイナーが大事にする価値感としては、他にも検証コストの低さ(だから誰でも参加可能)、完全な追跡可能性(だから予期せぬインフレは起こり得ない)、発行流通の公平性(ビットコインを入手するには、マイニングで得る場合も取引所で購入する場合も、地位や肩書きに関わらず全員が「市場価格」の支払いを求められる)、後方互換性(ハードフォークよりもソフトフォークが選好される)、誰でも自由に参加できるオープンな検証プロセス(検証者の結託と検閲を回避)がある。あなたが推すアルトコイン開発者にプロジェクトの原動力となる価値観を尋ねてみるとよい。おそらく、答えはないだろう。もしあっても、説得力を欠くだろう。アルトコインでは、一貫性、不変性よりも技術革新が優先されるからだ。

ビットコイナーはプロジェクトの成功をエグジットと定義するご都合主義のアルトコイン開発者とは根本的に異なる。終末論的哲学を持つビットコイナーにとっての成功とは、機能不全に陥っている既存金融システムからの離脱とビットコイン循環経済圏の樹立である。ビットコイナーはエグジットを夢見ていない。少なくともベンチャーキャピタルにとってのエグジットという意味では。ビットコイナーが見る夢は、金融自由裁量権というものが存在しない、恣意的な価値切り下げが不可能な貨幣制度の創設である。

ビットコイナーはこうした価値観を貫くことに対して至って真剣だ。それは単に既定の供給スケジュールを堅持することではない。ビットコインネットワーク関係者全員が合意した供給スケジュールは、プロトコルと財産権に関わる極めて重大なもので、合意を破棄して供給スケジュールを変更することはビットコインというシステムの消滅に直結する。総供給量に上限が設定されていることはビットコインの特徴ではない。総供給量が限られているという事実そのものがビットコインなのだ。ビットコインにとっての固定総供給量は、米国憲法にとっての被統治者同意と同様、存在論的重要性を持つ。米国政府を転覆して、「米国政府」という同じ名前の独裁政権を樹立しても、それは当然ながら元の政府とは別物だ。根本的価値観に由来する政府の本質が変わってしまう。供給スケジュールや総供給量を変更して現在のビットコインを破壊し、ビットコインという名前だけを引き継ぐ場合も同様だ。価値観とは偶発的なものでも、単なる技術実装の詳細でもない。価値観はそのままシステムである。価値観をコード化したものがシステムと呼ばれるものだ。

サトシ・ナカモトに勝るお手本はない。サトシは究極の献身的ヒーローだ。長い歳月を費やしビットコインをゼロから構築してソースコードを公開し、ほんの短期間だけプロジェクトを運営した後、永久に身を引いた。(他にやる人がいなかったためにネットワーク運営を維持する必要に迫られて)彼自身がマイニングしたビットコインは現在まで一度も動かされていない。サトシは大胆にも国家の最大特権、すなわち、無から貨幣を創造する権利を奪い、考え得る最も純粋な方法で国民に与えたのだ。プロメテウス(先見の明の持ち主)と呼ぶにふさわしい行為である。

サトシの挑戦に国家はどう反応したのか?ビットコインが重大脅威なら、国家は破壊するはずでは?こうした質問に対して、ビットコイナーは往々にして腹立たしいくらい用意周到な回答を持っている。

ビットコインは法令で禁止しても止められらないというのが現実だ。国際社会は今、混沌と無秩序の泥沼に向けて突き進んでいる。北朝鮮、イラン、アメリカ、ロシア、サウジアラビアがビットコインという共通の脅威に一丸となって立ち向かうことをあなたは想像できるだろうか?私はこれをビットコイン否定論者に対する最高の反論の一つだと考える。

仮に主要国がビットコイン禁止協定を結んでも、ビットコイン取引を闇市場に移行させるだけで、完全破壊には至らない。他のものを例に考えてみよう。例えば、使用が法律で禁じられ、生産に膨大な電力を要し、生産者には企業法人もいれば非法人もいて、主要流通経路は闇市場、リピートユーザーが何百万人という市場規模を誇る商品、そう、大麻だ。大麻が欲しければ、(米国では)合法違法を問わず30分以内で入手できる。禁止令を出せばビットコイン需要は急減すると考えるのは滑稽だ。禁止令はビットコインの存在理由、すなわち、身勝手で近視眼的な政府からの自衛手段という価値提案を裏付けるだけだ。新しいオープンな金融システムに怯える政府を見れば、国民は偏執的、支配的というその本性を見抜くとともに、寄生虫のような存在であることを改めてまたは初めて認識するであろう。

ビットコインに対して国家が取り得る最善の策は、技術オタク兼オーストリア学派経済学者、すなわち、ビットコイナーの要求を呑んで自己改革することだ。具体的には、通貨切り下げ、格差を広げる無責任な貨幣統治、(事態を悪化させるだけの)経済循環への介入、貨幣の時間的価値を操作できるという思い上がり、金融機関の兵器としての利用を止めることだ。ただ、政府がこれらのどれか一つでも実際に止める確率は短期的には低いと言わざるを得ない。

最新のニュー・ケインジアン理論、「現代貨幣理論(MMT)」によると、国家は自国通貨建てであれば欲望の赴くままに際限なく支出できる。これがもたらす結果は目も当てられないだろう。今日の有権者はかつてないほど従属的で、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン、アレクサンドリア・オカシオ゠コルテス、ジェレミー・コービンといった集産主義に擦り寄る社会主義者のような政治家をもてはやす。イギリスでは、労働党が驚くような没収政策を採用し、私有財産の強制売却という反自由主義的手段を提唱する。発展途上国でも、アルゼンチンではキルチネリズム(所得配分を重視するばらまき型の財政政策)と集産主義のせいで、あらゆる金融資産の価値が暴落した。アルゼンチンよりは自由市場に敬意を払う隣国チリでも、恥知らずな共産主義議員二人が政策決定権を握る。ベネズエラは改めて説明するまでもないだろう。そして、つい最近まで世界の自由市場として活気に満ちていた香港は残忍で独裁的な占領者から文字通り攻撃を受けている。

資本主義経済が正常に機能するために不可欠な自由市場と財産権が世界中で危機に瀕している。残念ながら、この傾向が是正される兆しはない。貧困層はますます政府依存を強め、より広範囲、より積極的な政府介入を求めている。貧困を撲滅して世界全体が豊かになれないなら、世界全体を貧困化してでも格差をなくすべきだと本気で信じているのだ。

金融機関に至っては、少なくとも表面上は保っていた理性まで放棄した。米国大統領が連邦準備制度理事会議長と為替レートをめぐって公然と口論する恐ろしい光景が娯楽として消費される時代なのだ。再選しか頭にない政治家は有権者が喜ぶ選挙公約を掲げ、その資金源として経済の金融化(経済全体における金融政策、金融市場、金融機関の影響力が増し、市況が実態経済から乖離して変動が激しくなることで金融危機が頻発する現象)を利用する。これは表面上政府からの独立性が確保されている中央銀行を実質支配下に置くことで簡単に実現した。実態経済が中央銀行の金融政策に翻弄されるようになった結果、中央銀行総裁が声明を読み上げるときの眉の動きを基に金利を予測する機械学習アルゴリズム開発にヘッジファンドが何億円も投資する事態に至っている。馬鹿げているとしか言いようがない。

先進国の中央銀行では、金利操作は事実上正攻法とされている。国際通貨基金(IMF)は物理的現金の強制切り下げを含むマイナス金利政策を公然と議論している。あなたが預金者には利子所得を得る権利が当然あると信じるか否かに関わらず、もし政府が預金没収を提案したら、確実に反対するであろう。政治家が自らの政治的目的を果たすために中央銀行に圧力かけてマイナス金利を導入できるとしたら、中央銀行があなたの預金を守ってくれるなどと期待するだけ無駄だ。私たちはすでに未曾有の無法地帯に足を踏み入れており、目的が手段を正当化する限り理不尽な金融政策に歯止めはかからない。

金利がマイナス1%になっても預金者はパニックを起こさないかもしれない。マイナス3%になると文句を言う人や、金融政策責任者の事態収集能力に疑問を持ち始める人が出てくるかもしれない。マイナス5%になると金を買い求める人が急増し、そういえばビットコインとかいうものがあったなと思い出す人もいるかもしれない。

ビットコインというシステムは斬新で複雑なため、仕組みやメリットをきちんと理解できない人も多い。ここで、ビットコイン誕生からの10年間を数字で振り返っておこう。

  • 取引処理の対価としてマイナーに支払われた累計手数料:約1000億円
  • ネットワーク安全性維持の対価としてマイナーに支払われた累計報酬:約1.4兆円
  • ビットコイン保有者が支払った総取得コスト:約10兆円
  • 発行済みビットコインの時価総額:約19兆円
  • ビットコインネットワーク上での取引総額:約200兆円
  • ビットコインネットワークの演算能力:毎秒80エクサハッシュ
  • 毎秒80エクサハッシュを生成するコスト:1日あたり約20億円(高度な専用機材使用時)

あなたはビットコインを嘲笑うかもしれない。それでもいい。もしかしたら、将来ビットコインを必要とする時が来るかもしれない。その時、ビットコインは今と変わらずそこにある。今は不要かもしれない。一生不要かもしれない。ただ、世界は独裁的、全体主義的傾向を強め、混沌たる状況に突き進んでいる。こんなご時世だからこそ、人類史上最も優れた資産保護システムが存在すること、そしてあなたもそれを利用できることを知っているだけでも、随分と気が楽になるだろう。

それまで、そのシステムは淡々と動き続ける。

Thank you Nic Carter for allowing me to translate and share the brilliant piece in Japan.

@cryptophile_btc、Haegwan Kimさん、ドラフトのレビューにご協力いただき誠にありがとうございました。

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